●南西諸島海域の落日
 十分な資源も貯まり、艦娘たちのレベルも上がった。
 いよいよ南西諸島海域の最終マップを攻略すべきか。
 沖ノ島海域に集結した我が艦隊は、何度かの威力偵察によって敵根拠地の戦力を確認した。

 2-4:南西諸島の沖ノ島マップは、戦略的縦深が深い。
 マップボスの潜む最深部に至るまでに、最低でも3回の戦闘をくぐり抜ける必要がある。
 これまでも何度か、空母4隻からなる機動部隊を送り込んだが、いずれも途中で空母が損耗して、撤退を余儀なくされている。

 史実においても、空母は強力ではあるが戦力を消耗しやすい艦種として知られている。空母の戦闘力は言うまでもなく艦載機に依存している。空母そのものが無事であっても、艦載機が消耗すれば戦力は低下する。
 そして、空母の艦載機は、一回の全力出動でかなりの損耗を被る。撃墜、被弾もさることながら、生き残った場合でも機体とパイロットを限界まで酷使するた め、二度目、三度目の出撃では実力を発揮しきれなくなるのだ。戦争後半になり、空母艦載機の半数が戦闘機となって、レーダーやVT信管を使った防空体制が 整うようになると、二度目の出撃が事実上不可能になるくらい、空母艦載機は消耗するようになる。
 湾岸戦争などの現代空母戦においても、損害こそ少なくとも空母は大量の弾薬と燃料を消費するため、しょっちゅう、補給艦から弾薬と燃料を補給しなくては戦力が維持できなかったほどだ。

 艦これでは、パイロットの疲労や整備不良のような細かいデータまで再現しているわけではないだろうが、空母もまた敵の砲撃を受けることで、間接的 に空母の消耗を表現していると私は想像している。昼間の砲撃戦で駆逐艦に空母がダメージを受けているのは、あれは、駆逐艦によって空母搭載機が迎撃されて 消耗していることを表現しているのだ……という風に見ているのだ。

 空母機動部隊は、濃密な敵の迎撃網をくぐり抜けることが難しい。
 となれば、戦艦である。鋼鉄の軍神娘たちは堅牢な装甲を持ち、強力な火砲を搭載している。迎撃によって損害を受けても、戦闘力の低下は極限まで抑えられる。
 そういう計算で、打撃艦隊が編成された。

 旗艦:戦艦〈金剛〉改(Lv36) 41cm連装砲、35.6cm連装砲、15.5cm三連装副砲、21号対空電探
       戦艦〈霧島〉改(Lv36) 41cm連装砲、35.6cm連装砲、15.5cm三連装副砲、21号対空電探
       戦艦〈扶桑〉改(Lv39) 46cm三連装砲、35.6cm連装砲、21号対空電探、瑞雲偵察機
       戦艦〈山城〉改(Lv32) 35.6cm連装砲×2、21号対空電探、瑞雲偵察機
       空母〈加賀〉改(Lv36) 紫電改2型×20、彗星艦爆×20、流星艦攻×46、応急修理要員
       空母〈赤城〉改(Lv45) 紫電改2型×20、彗星艦爆×20、流星艦攻×32、応急修理要員

 燃料も弾薬も1回の出撃で400くらい吹っ飛ぶだろうし、修理の鉄鋼やボーキサイトも、相当な量になることが推測される。
 しかしそれでも、手持ちの戦力で最良の部隊を投入せねばここは突破できない、と判断し、私は彼女たちに出撃を命じた。

〈金剛〉「まっかせなサーイ! 勝利の栄光を、ユーに!」

 頼んだぞ。……あ、ちょっと待て。今の台詞、ガルマ出撃前のシャアの台詞じゃ?

〈霧島〉「お任せください、司令。私の計算では勝利の確率は98%以上です」

 うわー、不安だ。

〈扶桑〉「はぁ……空はあんなに青いのに……」

 扶桑姉さん? もしもし、もしもーし? おーい、山城。姉さん、大丈夫か?

〈山城〉「大丈夫。姉さんは私が守るから……たとえ提督の命に替えても!」

 勝手に俺の命と替えるなよ!

〈加賀〉「なるようにしかならないわ、諦めも肝心よ」

 自分の命は諦めたくないよ!

〈赤城〉「安心してください提督。私たちは、資源尽きるまで戦います!」

 命尽きるまでじゃなくて、資源尽きるまでか。お前さんだけは、平常運転だなぁ。

〈赤城〉「いつの間にやら、妖怪食っちゃ寝ですからね。いいんです! 食いしんぼキャラでもキャラ立ちしてる方が、その他大勢で埋没しちゃうより!」

 ま、ほどほどにな。

 こうして主力艦隊を送り出す一方で、資源の備蓄も続ける。第二艦隊を海上護衛任務に、そして第三艦隊は鼠輸送作戦に。鼠輸送作戦は、バケツ(高速修復材)が手に入りやすいので、大きな作戦で消耗しやすいバケツの補充にもってこいなのだ。
 どうせ、ボロボロになって帰ってくるだろうから、バケツは十分揃えておかないと。

 そうして――

〈扶桑〉「瑞雲偵察機が帰ってきたわ。敵の中核艦隊は戦艦3、重巡1、駆逐艦2。敵の旗艦は練度フラグシップで、残りもエリートよ」
〈霧島〉「ここまでの我が艦隊の損害は、〈山城〉さんが小破で来ることができました。敵に空母はいませんし、大丈夫、勝てます」
〈加賀〉「そうとも言えない。硬くて避ける敵ばかりなので、空襲の効果はむしろ下がる。私と〈赤城〉の艦載機では削ることしかできないだろう」
〈金剛〉「どちらにしても、ここは前進あるのみです! サーチ&デストロイ!  “England expects that every man will do his duty”(英国は諸君がその義務を尽くすことを期待する)なのデス!」
〈山城〉「なんですの、その台詞は?」
〈金剛〉「ナポレオン戦争の時代、トラファルガー海戦でのネルソン提督の言葉デス」
〈赤城〉「義務を尽くす、ですか。いい言葉ですね。勝敗は時の運。願えば勝てるという甘いものではありません。そして、だからこそ、私たちは、私たちの義務を――最善を尽くしましょう」

 戦いは、深夜にまで及んだ。
 昼間の戦いでは〈赤城〉が大破。残りhpが1まで追い込まれる。
 日没になった時、旗艦〈金剛〉は〈赤城〉の轟沈を恐れて撤退を考えたが、そこで満身創痍の〈赤城〉から信号旗が上がった。

“Country expects that every man will do his duty”

 〈金剛〉は夜戦を決意し、自らが先頭に立って傷ついた敵フラグシップ戦艦に突入、これを撃沈する。残りの敵艦もことごとくを沈め、〈金剛〉にとっては姉妹艦にあたる〈比叡〉が解放されて艦隊に合流する。

 こうして南西諸島海域は制圧完了し、西方と北方の海域への扉が開かれたのだ。
 そして、ドックでは。

〈赤城〉「いやー、面目ありません。えへへー」

 残りhp1。鋼材342、燃料182を消費して、修復時間は13時間43分か。
 本当にお前は……

〈赤城〉「まあ、その、ちょっと張り切りすぎちゃいまして――きゃっ?!」

 おかえり〈赤城〉。無事で良かった。

〈赤城〉「……はい。ただいま、です」