「騎士団を3つに分けるだと? 冗談は休み休み言え」
「冗談ではありません。たとえ1/3の戦力であっても騎兵突撃にまで持ち込めればこちらは勝てますが、騎士団がひとかたまりになっていては騎兵突撃をさせてもらえない可能性があります」
「1/3の戦力で勝てるのであれば、その三倍の戦力になればより勝利は盤石になろう。貴様の言っていること無茶苦茶だ」
「我々の思っている騎士団と、反乱軍の騎馬隊は戦術運用思想がまったく異なります。重装騎兵の突撃で歩兵を蹂躙するのが我々の騎士団なら、向こうの騎馬隊は馬の機動力で戦術的に優位な場所に常に移動し続ける弓兵です」
「ふん、反乱軍の貧弱な弓などおそるるに足らんわ。話にならんな、下がれ」
「しかし……」
「下がれと言っている」

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「いかがでした?」
「話が通じないな。騎兵突撃は無敵だと思っているようだ」
「突撃できれば最強なのは間違いないでしょう」
「まあ、敵のいる場所に突撃できればな。それより、やつらの別動隊の動きはどうなっている?」
「はい、隊長の予想通り近くの森に分散して伏せているようです」
地図を広げる。
「やはりか……。ということは、騎士団は山沿いに誘導する気だな。まずいな、今の配置ではうちの部隊がたどり着く前に指揮所が落とされる」
「どうしますか?」
「仕方がない、卿に恩を売るのはあきらめよう。奇襲部隊が逃げるところに待ち構えて、向こうの親玉を叩くぞ」
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戦が始まる。反乱軍の騎馬隊は散開して騎兵を薄く広く取り囲み弓を射かけながらじりじりと後退していく。
弓による攻撃の大半は重装の鎧に弾かれ大した騎士団は被害は受けないが、散開する敵に対して標的を定めかね、動きあぐねている。焦れた騎士団がとりあえず中央に突撃をかけるも、反乱軍騎馬隊は散開して逃げ、また一定の距離をもって包囲を再開する。
それを繰り返しているうちに、騎士団はどんどん奥におびき出されてしまい、随伴の重装歩兵も弓によって少なからぬ被害を受ける。
十分に騎士団が指揮所から離れたタイミングを見計らって、森に伏せていた精鋭ゲリラ部隊が指揮所へ奇襲。
奇襲の報を受けて騎士団が踵を返すが、置いてけぼりにした後続の歩兵と交錯し思うように動きが取れない。そこへ反乱軍の騎馬隊が弓で追い打ちをかけ、騎士団も少なくないダメージを受けてしまう。
騎士団がもたもたしている間に奇襲は成功し、卿は混乱の中打ち取られる。目的を達した反乱軍は即座に撤退を開始、散り散りになって森へ逃げ込もうとする。

主人公の部隊は指揮所に駆けつけず、全速力で反乱軍の退路に回り込む。フクロウの使い魔により散り散りに逃げた中から反乱軍指導者を素早く見つけ出し、捕縛に成功。
かくして、反乱軍は戦術的には勝利するも、首謀者を失う。後日、捕縛した首謀者から聞き出したという体で主人公がリークした情報を元に、かたき討ちに燃える騎士団が反乱軍の拠点を襲撃、壊滅させて反乱鎮圧に成功する。

—-
「貴様がガターか」
「そうだ。いくつか聞きたいことがある」
「ふん、仲間の情報か……。死んでも話すか」
「それについては、別に貴公の口から聞き出すつもりはない。○○山中の廃棄砦と支援している××村には近いうちに仇討ちに燃える騎士団長殿が直々に兵を率いて八つ当たりに行くだろうよ」
「な、なぜそれを……。いや、そこまでわかっていてなぜ……」
「俺にはそこまでの権限はないのでな。それよりも聞きたいのは、ルマエ領以外の場所での反乱軍との連携についてだ」
「!!」
「今の段階で反乱軍が表に出てきて戦う必要などなかったし、これまでは正面決戦を巧みに避けてきたはずだ。となると、戦いに勝つという実績が必要だったと考えるのが妥当だろうと思ってな。例えば、反乱軍が騎士団に勝利したという噂に合わせて各地でアジテーションをするとか、な」
「仮に連携していたとして、俺が言うとでも思っているのか」
「やはり貴公は頭が良いな。否定も肯定もしない。よろしい、では質問を変えよう。貴公が指揮を執らずとも反乱は起こると思うか?」
「ふん、しれたこと。この国の中に貴族連中に虐げられていない場所など存在せぬ。わしが立たずとも、遠くない将来、この国は足元から自壊するだろう」
「俺も同意見だ。だが農民が反乱を起こそうとも烏合の衆では街も落とせぬし、見せしめにひどい目に合うだけだろう。貴公のような鼻の利く戦術家が指揮をとらぬ限りはな」
「……何を考えている」
「もうしばらく時間が稼ぎたいのさ。俺がしがらみを断ち切ってこの国を見捨てられるだけの時間をな」