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幼馴染み思春期(+三題噺)

「……で、林葉。何の用?」
外野が誰も見当たらないことを確認して、俺は目の前の女子に切り出した。

……自分で切り出しておいて何だが、用件は分かりきっている。
放課後の屋上に男女が二人きり。
今日は2月14日、バレンタインデー。
中学3年生の俺たちには、「卒業式」という別れも来週に待ち構えている。
「今日は……森君に渡したいものがあってね」
世の大半の男子からしてみれば、俺は勝ち組に入るのだろう。
こんな状況を聞けば、俺だってそう思う。――相手がコイツでさえ、なければ。

「まだいたかっ……くぉらっ! 見せモンじゃねぇぞ!」
扉の影に注意を払わなかったのはうかつだった。
踊り場を見てみれば、既に人っ子一人いやしなかった。
「くそっ、絶対に後でとっちめてやる」
「あはは。照れると怒って見せる所は昔のまんまだね。……こーちゃん」
「……。怒ってねぇよ」
また、俺をそう呼ぶのか。
向き直ってみれば、桜庭からの視線が痛い。
「……こーちゃん」
「ああ、バスケ部の桜木な。お前の事気になってるみたいだったぞ」
「こーちゃん」
「サッカー部の新田な。告白したいって言ってたぞ」
「こーちゃん!」
「っんだよ、っせーな! 俺にチョコ渡すって意味、解って言ってんのか。マコ!」
「わかってるもん!」
「まったく……」
まったく、頭が痛くなる。
俺が知っているマコ、”幼馴染”の林葉真琴は……ガキの頃にあった野球大会以来、止まったままだってのに。
俺は、「女の子」としてのマコを知らない。
マコは……今の俺を知っているのか?
「こーちゃん、やっと呼んでくれたね、マコ……って」
「あー……。お前とバッテリー組んでた時以来、か?」
「小学生の頃は、気軽に呼べたのにね」
「そうだな」
そりゃそうだ。あの頃の俺は、マコの事を「男」だと思っていた。
ちょっと華奢だけど、体のばねとコントロールで見事にコーナーを投げ分ける技巧派ピッチャー。
マコの球を受けるキャッチャーにして4番バッター、スラッガー・森孝介の最高の相棒。
それが、俺が知っている「マコ」だ。

それからしばらくして、「マコ」は――「マコだった女の子」になった。
教室が離れ、体育を別れてやるようになり。
親の都合で会う事があっても、もう「こうちゃん」とは呼ばれなくなった。

やがて、仲間内でマコの名前を聞く機会がふえた。
俺は、マコの相棒として鼻が高かった。
が、奴らが噂にしている「可愛い女の子」は、「俺の知っているマコ」なのか?
やめろ、俺とアイツはそんな仲じゃなかったんだ。そんな視線を向けるんじゃない。

俺があいつを自然と避けるようになるのに、そう時間はかからなかった。

「こーちゃん」
そう、避けてきたはずなのに。
なんでお前が、まだこっちを見てるんだ。

「……何だよ」

「子供の頃からずっと好きでした。受け取ってください」

ぶっきらぼうな言葉にもめげず差し出されたチョコレートは、可愛らしいブルーのラッピングだった。
――そう言えば、青色が好きだったっけ。

「何で……今なんだよ」
「もうすぐ、卒業式だから。こーちゃん知ってた? 私、女子高に行くんだ」

当然初耳だ。でも、そうか。

「結局お前も、他の奴らと一緒なんだな」
「ううん。今日の事は、ただのキッカケだよ。私が伝えたいと思ったから、今日にした」
「……なんだよ、それ」

わけがわからない。

「こーちゃん。私の事……嫌い?」

マコのその一言に、思わずカッとなった。

「嫌いなわけないだろ!」

言葉にしてしまうと、途中で止められるもんじゃなかった。

「好きだ!
桜木や新田や他の男子の誰にも負けないくらい、俺は林葉真琴が好きだ!
でも、俺が知ってるマコはピッチャーとしてのお前で。
『マコ』と俺が築いた時間は、親友としてのもので。
どんどん綺麗になって行くお前の事、好きになるのに時間はかからなかった。
でも、真琴としてのお前の事は、俺はほとんどわからなくて。
真琴がマコじゃなかったら、お前の事好きにならなかったんじゃないかとか。
それは、マコにも真琴にも不誠実なんじゃないかとか。」

何言ってんだ、俺。

「もう。こーちゃんは、色々考えすぎ。スイングは豪快なのにね」

マコのからかうような声音に、思わず我に返った。
ゴチャゴチャ考えるのは性に合わない。
そう思うと、後の言葉は、自然に出てきた。

「……マコ」
「こーちゃん」
「俺はマコの事が好きだ」
「好きだよ、こーちゃん」

マコの顔が、夕焼けの赤より紅い。
多分俺も、似たような顔してるんだろうな。

「な、なんか……改まっちゃうと、てれるのな」
「……うん、そうだね」
「久しぶりに、一緒に帰ろうか」
「……ん。一緒に帰ろ、久しぶりに」

初めての恋人との「初めて」は、久しぶりの下校になりそうだ。

===  ===

IRCの#もの書きチャンネル系から

>18:57 (Shijima) むしろ私が読みたい<幼馴染み思春期
>19:06 (asahiya) とりあえず三題くださいw
>19:07 (Shijima) では「バレンタイン」「さかさま(若しくは逆とか)」「主張」で

ということで始まりました、「構想3分、執筆3時間」勝負。
執筆時間2時間(しか集中が続かず><)
の成果はいかがでしたでしょうか。

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