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無題 Type1 第6章 第1稿

2013.05/20 by こいちゃん

<無題> Type1 第6章原稿リスト
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第6章

1
 野外生活を始めて約半年。地面を耕し、夏植えでも実のなる野菜の初収穫を終えた頃。いくつか気付いたことがあった。
 この林道は廃坑へ続く道だが、それなりに往来があること。
 僕らが通ってきた林道を、軍用の大型トラックが週に1回くらい通過すること。
 それ以外にも結構乗用車が通ること。
 普通の地形図には60年くらい前に廃坑になった鉱山くらいしか載っていないのにもかかわらず、結構な頻度でこの道を行き来する人たちがいる。おかしいと思ってあちこちのサーバーに侵入して調べてみたら案の定、廃坑のあたりに産業情報庁の秘匿研究所があるらしい。
 葉村には言わなかった。必要ない心配をかけたくないからだ。
 葉村が寝ている隙に、僕はあいつと2人で今後を相談した。

 ――場所、移ったほうがいいと思うか?
 ――その必要はないと思うぜ。いたずらに、葉村が気を回すだけだ。
 ――そうか。
 ――ただ、見つかる確率が変わるわけじゃない。灯台下暗しになるかもしれねぇが、距離が近い分このあたりの監視もきついだろう。
 ――一理あるな。
 ――どうにかして、戦闘の備えくらいはしておいたほうがいい。
 ――……下の林道を通るトラックを襲うか。
 ――もっと穏便な方法はねぇのかよ。
 ――今さら下の街に下りることはできないし、持ってきた道具は必要最低限しかないからな。
 ――今さら葉村を危険なことに巻き込むつもりかよ。あいつは家族に黙って俺らについてきたんだ、世間では俺と一緒に雲隠れだぞ。俺らには、葉村を無事にうちへ返す義務があるんだぜ。
 ――ガタガタうるさいな。……でも、葉村を更なる危険に巻き込むのは上策ではないな。
 ――その通りだ。藪蛇になったら元も子もねぇしな。
 ――葉村が気付かないように注意しつつ、偵察する程度にとどめておくってことで。

 声が少し、口から漏れていたかもしれないが、葉村を起こさずに済んだからいいとするか。

 半年ほどかけて彼らを観察した。週に往復2回行き来するトラックを、毎回場所を変えつつ相手のことを探っていた。すると予想通り、相手はやはり「お役所」の、毎月決まったスケジュールを持っていることが分かった。
 常駐している職員のための食料は毎回積み込まれ、このほかに週によって違うものが一緒に運ばれるようだった。運び込まれる荷物量から予想すると人数規模はおそらく30~40人といったところだろう。
 職員向けの嗜好品や日用品、研究用の消耗品などが第1週目。
 研究に使うのだろう、液体窒素や様々な薬品類が第2週目。
 武器弾薬の補充が第3週目。
 中で自家発電をしているのだろう、その燃料と思しきガソリンが第4週目。
 月曜日にトラックが出発して、荷物を積んで水曜日に帰ってくる。これを毎月毎月ローテーションしていた。
 もちろん、観察だけではない。
 連夜、僕は関係しそうなあちこちのサーバーを渡り歩いて、あのトラックの仕入れ先、次回の積載物は何か、そういった情報を手に入れては、積み荷を観察した。
 一度、送信中の注文リストを発見した。それは日用品の週だったのだが、試しにトイレットペーパーの注文を取り消してみた。取り消してから思い出す。実際に職員が困ったか確認する方法がない。
 そんなくだらないことを繰りかえし、さらに季節が過ぎ去って迎えた2度目の春。
 秋に残しておいた種を畑にまき終え、のんびりしていた頃。
 農作業と2人の山中生活に慣れてきた頃。
 僕らと葉村はともに、18歳になっていた。

 僕らの生活は、再びひっくり返される。

2
 過ごしやすい気候のとある朝。清々しい早朝の空気を吸いに軽トラックから降りると、僕らの畑の前で見知らぬ女の子が倒れていた。
「……!?」
 流石の僕でも驚いた。しばらく行動停止してしまったが、そんな僕を不審に思った葉村も、彼女を見ると口を開けたまま動作を止めた。
「……いつの間にあんな子供をさらってきたの?」
「おい」
「冗談よ、冗談でも言わないと自分が正気か分からなかったの……」
「ならいいが。まずはトラックの中に運び込もう。怪我をしているかもしれん」
 僕らはそっと彼女に近づいて、顔を見ようと仰向けにする。
 右の頬が青く腫れていた。
「なによこれ。未来ある女の子に、なんて仕打ちなの?」
 憤慨する葉村。それは見るからに痛そうな、生々しい傷だった。
「誰よこんな小さい子を殴ったのは!?」
「騒ぐなよ、起こしちまうぞ」
「あ、ごめん、つい」
「早く運んで手当してやるぞ、そっち側から支えてくれ」
「……これでいい?」
「よし、持ち上げるぞ」
 せーの、と声を合わせて女の子を抱えあげ、軽トラックの荷台に断熱シートをしいて寝かせた。
 頬に湿布を貼り、汚れた服を葉村の服に着替えさせる。といっても、相手は女の子だ。僕はその作業を手伝ってはいない。
 誤解を避けるために言っておくが、小学生くらいに見える女の子の裸を見ても発情することはない。だが、とたんに葉村が不機嫌になったのを見て手を引くことにした。それだけだ。
 女の子への応急処置を済ませると、空腹が耐えられなくなってきた。時計を見るとすでに起床してから1時間が経っていた。
 今日の朝食はきゅうりの揉み漬けとカレー風味スープだ。想定より戦争が長引いているせいで、そろそろ持ってきた保存食も尽きてしまうだろう。

 後片付けをしているとき、女の子が目を覚ました。葉村が飛んでいくのを見て僕は作業を続けることにした。無愛想な僕がいても、いい方向に話が弾むとは思えないからだ。
 しかしそんな思惑も、葉村に呼ばれるまでだった。
「この子、産業情報庁の秘密基地から逃げてきたんだって言うんだけど……」
 ついにその存在を葉村に知られてしまった。
「このちょっと行ったところに研究所の入り口があるらしいな」
「知ってたの!?」
「言ってなかったか?」
「聞いてないわよ!」
 案の定、憤慨する羽村。
「それは今は置いておこう、どうして逃げてきたのか、逃げてこられたのかを知ることが先だ」
(置いておこうって、まったく何を考えてるのかしら)
 葉村が小声でつぶやいているが無視。
「君、何て名前か教えてくれないか」
「………………」
「教えたくないんじゃない?」
「そうか、まあどうでもいいといえばどうでもいいか」
「どうでもよくはないっ!」
(まったく人の名前をなんだと思ってるのかしら)
「最近独り言多いふぐっ」
 事実を言ったら叩かれた。
「このバカはほうっといていいからね。で、研究所で何があったか、お姉さんに教えてくれないかな」
 意外にも、葉村は子供の扱いが上手かった。
「……おねえちゃんたちの名前教えて?」
「えっ……あ、そっか。私が葉村ななみで、こっちが山本祐樹」
「おねえちゃんたちは、かなちゃんを町まで連れてってくれないの?」
 この女の子はかな、という名前らしい。
「今すぐは無理、かな。だって研究所の人たちがあなたのことを探しているでしょ?」
 ぐずり始めた。
「ここ、やだ。早くお母さんに会いたいよぅ」
「ごめんね、でも今すぐは無理なんだ。お願い、1時間だけ待ってもらえないかな?」
「ちょっと待った、1時間って……なんでお前までもらい泣きしてるんだよ!?」
「君ならそれだけ時間があればあっちにハッキングして、動きを筒抜けにできるでしょ?」
 いや、できるが。
「なら早くやってよ……ぐすっ」
 泣きながら訴えないでくれ。
「お前、ちょっと前までは犯罪はいけない、ってうるさかったくせに」
 捨て台詞を吐きながらも僕は仕方がないから言われたとおりに運転席からパソコンと通信端末を持ってくる。配線しながらさっきの質問を繰り返した。
「で、なんであそこから逃げてこれたんだ」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………黙秘ですか」
「……………………」
 だめだこりゃ。
「葉村、相手は任せた」
「しょうがないわね」
 台詞こそしぶしぶだが、声の調子がうれしそうだった。

 さて、僕は産業情報庁の研究所に設置されたメインフレームに侵入した。すでにバックドアは作ってあるからサクサク入ってサクサク情報をもらってサクサク出てくるつもりだった。
 だがしかし。
 どうもレスポンスが悪い。相手のサーバーが処理落ち寸前なのだろうか。あの研究所は最近できた施設で、そのシステムは僕が作ったものだ。そんな簡単に処理能力不足に陥るほど弱いシステムにした覚えはないのだが。
 頭の中にわだかまりを残したまま、サーバーの中に潜り込んでいく。たまに阻もうとするセキュリティ障壁も。自分で作ったものだ、解除方法も弱点も知り尽くしている。次々突破できて意味をなしていない。もう少し難しくしたほうが良かったかもしれない。
 やがて目的のファイルを見つけた。ダウンロード。
「スケジュール、見つけたぞ。今日は12時から全体会議らしい。12時半くらいならきっと安全に出て、一番近い村の入り口にこの子を置いてすぐ帰ってくれば、見つかる可能性が一番小さいと思う。今日を逃すと明日は定期的にトラックが通る日だから危ないな」
「もしかして、あのトラックって研究所に必要な物を運ぶための物だったの?」
「ああ、そうだ。だがそれは今は置いておこう、この子をどうするか、だ」
「かなちゃん、どうする? すぐにお母さん探しに行きたい?」
「うん」
 即答だった。さっきまでの黙秘は何だったのだろう。
「分かった、でも、お姉ちゃんたちができるのは、下の人が住んでるところまで連れて行ってあげる事だけなんだ。そこからは、かなちゃん一人でお母さんを探してね」
「……やだ」
「ごめんね、お姉ちゃんもできるならお母さんを一緒に探してあげたいんだけど」
 本気で葉村はこの子にメロメロらしい。いい母親になれそうなやつだ。
「僕らは12時半になったらこの子を車でふもとの村まで連れていき、そこでお別れ。それでいいか?」
「本当は家まで連れてってあげたいけど、そういうわけにもいかないし、ね」
 本心から言っているのだろう、あきらめきれない目をしていた。

 時間になるまで、ボンネットを開けて潤滑油を補充する。ついでに、荷台に載せた太陽光パネルで発電した電気をためているバッテリーと、エンジン起動用のバッテリーを交換しておいた。入れっぱなしのバッテリーでは心もとない。一度からにしてあったガソリンタンクに新品のホワイトガソリンと虎の子のトルエンを流し込み、最後にタイヤが傷んでいないか確認する。
 走れないほどではなかったのでエンジン点火。3回目でやっとかかった。回転数を示すメーターも、異常のない数字を指している。
「大丈夫、走れそう?」
「ああ、問題ない。そろそろ行くぞ」
「3人乗ると窮屈だから、いらないもの下ろしていかない?」
「そうだな、パソコンの周辺機器とか、衛星回線のアンテナとかは置いていくか」
 ホントどこから手に入れてきた代物なのかしらねー、とあきれつつ葉村がアンテナを外しにかかる。ちなみに衛星電話関連の機器類は、非常用に使えと言われて産業情報庁から預かっていたものだ、決して怪しいものではない。

 実に2年振りの「お出かけ」である。
 助手席で、カーステレオから流れてくるちょっと古めのいい歌を聞きながら、窓を少し開けて風を受け、外を流れていく風景を黙って見つめるそんな葉村の横顔は。ミラー越しでしか見れない事は大層――見るのが例え感情のない僕であっても――もったいないと思えた。
 国は外で戦争をしているというのにもかかわらず、山道を下るおんぼろな軽トラックの中には平和な日常が存在していた。

 この時間がずっと、――ずっと。

 続けばいいのに。

 しかし世界は。僕らだけが不公平な平和を過ごすことを、許しはしなかった。

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