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焼きそばパン競作 「日課」

2013.07/16 by こいちゃん

この短編は、irc.cokage.ne.jp系IRCサーバー群に設置されている #もの書き チャンネルで2013年7月に行われた「焼きそばパン競作」の参加作品です。
「焼きそばパン競作」の参加者・参加作品一覧#もの書きwiki(Hiki) からもたどれます。


俺には日課がある。
 
 今日も眩しすぎるくらいのいい天気だった。最後に家を出る俺は扉に鍵をかけ、鞄を持ち直すと照り返しのきつい通学路を歩き始めた。朝は米派、昼はパン派なのでコンビニに直行する。
 高校に入学した初めの頃は気分によって昼飯を調達するコンビニを変えていた。しかし今年の4月、ちょっとかわいい名前を知らない後輩の女の子が毎朝このコンビニを使っているのに気付いた俺は、いつの間にかこのコンビニ以外を使うことがなくなっていた。
 それから3ヶ月。俺は勝手に彼女とどちらが先にコンビニに着くか、一人でこっそり勝負している。店に入った俺は棚の間をチェックしながら一番奥のパン売り場へ。
 今日は彼女のほうが先に、パンの棚の前に立っていた。既に顔見知りになっている。会釈をしつつ今日の昼飯を選びにかかった。
 彼女は、いつも買っている「甘口カレーパン」が売り切れてしまっているせいで買うものを悩みあぐねているようだ。
 無意識に視界の隅でそんなことを確認しつつ、俺は「ジャンボクリームアンパン」と「特大チョコチップメロンパン」を手に取る。それらのボリュームを手に感じつつ最後の1種類、「ソース焼きそばパン」に手を伸ばしたところで……
 俺の手がつかんだのは、柔らかい彼女の右手だった。
「「……っ」」
 そのまましばらく、焼きそばパンを中心に俺と彼女は固まった。
「……あっ、その、すまん」
 先に金縛りが解けたのは俺だった。心の片隅で名残惜しく思いながらも、体感時間では長くつかみっぱなしになってしまった手をあわててどける。
 そういう経験があまりないせいか、心臓がバクバク言っている。なんだこれ、妹の手とは全然感触が違ったぞ!? って何考えてるんだ俺はこれじゃ単なる変態野郎そもそも俺は何を
「……いえ、こちらこそ、ごめんなさい」――初めて彼女の声を聴いた。
「ああ、いや、そのパンは譲る。あれだ君がいつも買ってるカレーパン今日置いてねぇし」
 ちょっと待った俺は何を口走っているこれじゃ彼女に君の悪いストーカー野郎だと思われるんじゃね? つーかここで慌ててるなんてばれたらカッコわりぃし、取り繕えてるよな俺?
「そんな、悪いです先輩が買おうとしたパンを横から奪ってしまうなんて」
「そんか細かいこと気にすんなよ、買っちまえ」
「駄目です、男の人のほうがたくさん食べるんですよね」
 俺と彼女の手の上を一つの焼きそばパンが何度も往復している間に、遅刻ギリギリの時間になった。そんなとき、彼女がこんな提案をした。
「じゃあ、こうしましょう。じゃんけんで決めませんか?」

 以後、欲しいパンが重ならなくても、俺と彼女は毎日パンの棚の前でじゃんけんをすることになった。


この短編は、irc.cokage.ne.jp系IRCサーバー群に設置されている #もの書き チャンネルで2013年7月に行われた「焼きそばパン競作」の参加作品です。
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