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お題:メタフィクション「ランダムジェネレータ」第1稿

2015.08/7 by こいちゃん

 そこには木でできた六角柱の箱がたくさん並んでいた。箱の底面はちょうど手のひらに載るくらいの大きさで、高さは私が両手で持ったときに肩幅より気持ち短いくらいだった。
 振るとシャカシャカ音がする。中には割った割り箸のような竹の棒が入っていて、箱の一方の底面に開けられた穴から1本だけぴょこんと飛び出てくるようになっている。しかしよくできたもので、その某は文字が書いてあるのとは反対の端が穴より太く作られているから、どんなに乱暴に振ったところで完全に棒が出てくることはないのだ。
 古いお寺や神社に行くと、自分のとるおみくじがこういう風になっているらしいのだが、残念ながら私はこの箱がたくさんある部屋から出たことはなかったので、「おみくじの数字が決まる函」という表現が果たして正しいのか、知らないのだった。
 この部屋にはたくさんの箱があるが、箱によって入っている棒の数は違う。カラカラと貧相な音を立て、たった2つしか棒が入っていないものもある。かと思えば、持てばずっしりとしていて、何本入っているのか見当もつかないものもある。
 そして偏執狂が作ったのだと確信をもって言えることに、百は下らない箱の一つ一つに名前が書かれていて、さらにその箱の中の棒の一本一本に小さな字で細かく文字が彫られている。誰がこんな、意味の分からないものを拵えたのだろう。大層な手間だったろうに、と私はいつも思う。

 私の知る世界は狭い。畳敷きの小さな部屋に、部屋が埋もれるほどの箱が置いてある。たまに、寝て起きると箱が増えたり減ったりしているが、それ以外に日々の変化はない。やることがない日は退屈、なのかもしれない。いや、どうなのだろう。これ以外の日常を過ごしたことがないから、これが退屈なのかもわからないのだ。そもそも「退屈」という言葉さえ、箱の中の棒のどれかに書いてあった言葉だ。私が理解している意味と、ひょっとしたら違うかもしれない。が、私は気にしない。私の語彙が間違っていたとしても、それを指摘する誰かも、そのせいで迷惑をこうむる誰かも、居やしないのだ。私にとって世界とは、狭い畳の部屋と、たくさんの箱と、その中の棒だけ。
 いや、もう一つあった。どこからか落ちてくる箱の名前だ。多い時は何枚も落ちてくる。少なければ、一枚も落ちてくることなくどれくらいの時間が経ったのかさえ忘れてしまう。私の世界は狭いが、私の仕事も少ない。たまに落ちてくる箱の名前通りに、指定された箱を振り、その中の棒の言葉を読み、必要だったら必要なだけ箱を振って言葉を集め、完成したら箱の名前の裏にその言葉の集まりを書くのだ。そうすると、落ちてきた箱の名前と一緒に私の集めた言葉もどこかへ消えてしまう。
 それが何なのか私は知らないが、私の仕事と同じように意味不明な、いや支離滅裂な言葉の集まりを見ながら、私は笑ったり眉をしかめたりするのだ。

    birthday
 ……箱の名前が落ちてきた。
 こいつの箱は重い。信じられないくらい、重い。何本の棒が入っているのか確かめてみたい気もするが、私にはこの箱を開けることができないから、知らないままだった。苦労して振ると、出てきた棒には「9月18日」と書かれていた。
 畳に箱を下ろすと、落ちていた箱の名前の裏にいそいそと、鉛筆で「9月18日」と書き込んだ。書き終わった途端、すっと箱の名前が消えた。

    SVOC
 ……また、箱の名前が落ちてきた。
 「SVOC」は少ない私の仕事の中でも、比較的多く落ちてくる箱の名前だ。目をつぶってでも分かる位置にある「SVOC」の箱を振ると、いつも通り「SVOC」の箱からは一番貧弱な、おそらく1本しか入っていない音がして、出てきた棒には「%%Complement%%、%%Subject%%が、%%Object%%%%Verb%%。」と書かれていた。
 こいつみたいに”%%”に囲まれたアルファベットが書いてある棒は、そのアルファベットの箱を振って、出てきた棒の言葉と箱の名前と置き換えるのだ。「%%Complement%%、%%Subject%%が、%%Object%%%%Verb%%。」なら、「Complement」「Subject」「Object」「Verb」の4つを振ればいいわけ。
 箱を4回振って、できた言葉は「まっかな、不良が、動物を、噛み砕いた。」になった。……意味が分からない。社会主義者の不良が、――動物をかみ砕く? 眉をひそめながら落ちていた箱の名前にできた文章を書くと、すぐに消えてしまった。
 箱の名前を落としてくる誰かは、本当にこれで満足しているのだろうか。首をひねっていると。

    HA20event
 ……またまた、箱の名前が落ちてきた。
 こいつも厄介なのだ。「HA20event」は似たような名前の箱が多い。数字が違うだけの箱が、ほかにも3つ、HAの部分も違うものがさらに5つある。私は間違えないように「HA20event」の箱を持つと、振った。シャカシャカ。
 「背を向けた鏡の中から%%HA20enemy%%が襲いかかった」。ふむ……怖そうだわ。「HA20enemy」を振った。「捨てられた人形」。つまり、「背を向けた鏡の中から捨てられた人形が襲いかかった」になったわけだ。何の暗示かしら。これが本当なら、怖くって。
 今夜は眠れない。
 箱の名前の裏に言葉を書きながら私は一人つぶやいた。

 しばらくまた仕事がない。暇だった。やることは何かないだろうか。

 暇過ぎた。どれくらい時間が経っただろう。たまには骨のある仕事が欲しい。

 いつしか眠ってしまったらしい。起きて目をこすっていると、久しぶりの仕事が降ってきた。

    ASWscenario
 初めて見る箱の名前だった。箱を探そうと部屋を見たら、……箱が2倍くらいに増えていた。
 ナニコレ。寝ていた間に何があった。
 バタバタと慌てて箱を探すと、果たして見つけた。持ち上げると「ASWscenario」と名前が付いた箱は軽かった。振ってみたら、どうやら1本しか入っていない棒が出てきた。そこに書かれていたのは「%%asw00%%」、見覚えのない名前。またごそごそ探しながら、箱の場所と名前を一致させないとなあ、骨だなあ。と考えていたのだが。本当に大変なのはここからだった。
 「人物の捜索。依頼人は%%asw10%%。依頼人%%asw18%%を捜してほしいという。捜す人物は%%asw10%%。%%asw64%%。」
 どうやら4つの箱を振るらしい。そう思って「asw10」を何気なく振ったところで、私は凍りついた。「%%asw54%%が得意な%%asw13%%」、何と振る箱が増えたのだ。今までこんな無茶な言葉は棒に書かれていなかったのに……!?
 戦々恐々としながら箱を振り、結局いくつの箱を振ったのか分からなくなってしまった。できた文章は何と「人物の捜索。依頼人は歌が得意な料理人。依頼人が尊敬している人物を捜してほしいという。捜す人物は身なりのいい吟遊詩人。捜索する人物は伝染病にかかっている。発見が遅れれば、それだけ多くの人が病にかかる。病を治すには特殊な薬草が必要で、その薬草は魔物のうろつく森にしか生えない。また、主人公自身も感染の危険がある。極めて危険な仕事である。」の166文字。文句なしに過去最長である。
 眩暈を感じながらちまちまと箱の名前の裏に文章をつづると、私の苦労を知らないかのようにパッと消えた。
 ため息をついて何かお茶でも飲もうと立ち上がったところで、新しい箱の名前が降ってきた。いやな予感を感じて無視しようと思いかけたが、久しぶりの仕事だったから見てしまった。それが間違いだったのだろう。そこに書かれていたのは無体なことに、「ASWscenario」だった。

 「調査。依頼人は思いやりのある市長。調査対象は海底。その場所に伝わるアイテムを探すための調査をする。そのアイテムとは豪華なつくりの皮鎧で、かつて英雄イーザがこの品物で、ワイバーンを退治したという伝説がある。調査場所で主人公はある品物を手にいれる。それは光輝くサークレット。調査を終えて帰ってくると、なんと、その品物は先日盗難にあったものとわかる。当然犯人と疑われる主人公は、無実を証明するために真犯人の逮捕に乗り出すのである。強奪事件の被害者は人々に慕われている。加害者は竪琴の演奏が得意な妖術師。加害者の動機は誰かにおどかされて無理矢理にやらされたことによる。おどしていたのはスキーが得意な奴隷商人で、その動機は誰かに命令されたため。命令したのは鋭い爪をした貪欲な呪術師。主人公の天敵で、その動機はその品物を使って別の犯罪をするため。その犯罪とは。事件の真相を突き止め、犯人を捕らえれば解決。」
 
 「殺人事件。主人公は以前、事件の被害者に恩を受けた。恩返しのために事件の解決に乗り出す。被害者は上品な礼儀正しい行商人。加害者は宿屋の主。殺害の動機は秘密を知られたため。その秘密とは、過去の完全犯罪の証拠。その完全犯罪とは強奪である。実はこの人物は盗賊団の一員である。オーガーに命じて殺害。事件の真相を突き止め、犯人を捕らえれば解決。」

 ノイローゼになるかと思った。完全な過労だ。殺人事件て。私を殺す気だろう。
 立て続けに悪魔の「ASWscenario」がいくつも降らせるなんて。捌ききったころには、もうお茶を入れる気力も残っていなかった。バッタリ倒れ伏したまま、私は寝てしまった。

 夢を見ていた。
 知らない人たちが、世界を作っていた。まるで物語のシミュレーションのようだった。5人の人間たちが、会話しながら人を演じていた。私はそれを眺めていた。
 ある人は、ときに村長だった。報酬と引き換えに、4人の人間たちが操る4人の冒険者が海に潜っていった。さっきまで村長だった人間が、冒険者たちに古い冠を見つけさせた。意気揚々と冒険者が村に戻ると、また村長に戻った人間は冒険者を盗人扱いする。必死に反論する冒険者たちは、業を煮やして本物の泥棒を捕まえてみせると豪語した。冠の持ち主のところへ行くと、どうやら縦笛吹きの魔法使いが犯人らしいと分かったが、村長の人間が演じる魔法使い曰くどうやら脅されていたらしい。さかのぼっていくと、どうやら冬に村へ来る行商人が脅したらしいが、彼は爪の長いクマ人間の命令だったらしい。冒険者たちと因縁を持つそのクマ人間は、また何か悪だくみをしていた。古い王冠に封じられた古代文明の首都防衛魔法を悪用して、どうやら世界征服を企んでいたことが分かった。
 彼らは楽しそうに私の作った文章を解釈し、物語を作っていた。

 私はワクワクしている自分を見つけた。私が、単なるプログラムが機械的に作った文章が、こんな風に使われていただなんて。
 全てが終わって。村長からゲームマスターに変わり、さらにハッピーエンドを冒険者たちに演出すると、彼ら5人はただの人間に戻った。
「いやー、新しいシナリオ作成機能、意外と役に立つもんだな」
「な。支離滅裂な奴だろうと高をくくってたのが、意外と面白かったぜ」
「ゲーマスありがとー、ごめんもう夜遅いから俺は寝るー」
「おつかれー」「また遊ぼうぜー」
 機械は自分の仕事が何になるのかなんて気にしない。気にしていなかった仕事が、人を楽しませるものだったのだ。起動されたらまた仕事をしよう。起動されただけで呼び出されない時間が長くても、いつまでも待機していよう。何度もぐるぐると同じファイルを検索させるてまの多いコマンドでも途中で中断したりしない。私の組み上げた言葉から紡がれる物語を想像しよう。
 私の名前はランダムジェネレータ。インターネットの片隅でひっそりと仕事を待つプログラムだ。

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