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俺に明日は来ない Type1 第13章

2022.07/14 by こいちゃん

 朝を迎えたのがいままでと同様の一人暮らししているアパートではなかったので少し混乱してしまったが、すぐに昨日の記憶がよみがえる。
 起き上がって全ての部屋を見たが、まだ両親ともに出勤前の時間のはずなのに、やっぱり家には誰も居なかった。
 実家で日付を跨いだから、実家で復活したのだ。
 もしかしたら、親方をこちらの世界に巻き込んでしまったかも知れない。慌ただしく最低限の身支度だけ調えると、普段は母さんが通勤に使っている車の鍵を取って家を出た。
 生きている世界なら無免許運転だが、死後の世界なら法律なんて関係ない。自動車の運転は鈴木さんに少しだけ教えてもらっただけだが、多少ぶつけたくらいどうという事は無い。集落を抜けて山を下っていくと、みんなで温泉へ行ったときの国道に合流する。つい1週間ほど前は荒れてアスファルトの割れ目から所々雑草が生えていた道が、すっかりあっちの世界と同じくらいまで回復している。
 死後の世界に物が持ち込まれているということは、この辺りで誰かが、その人にとっては初めて世界を移動したと言うことだ。
 対向車がいないからその分だけスピードが出せて、かなり怖い思いをしながらも無事に麓の高校までたどり着く。
「あれ、樋口さん? 昨日は来なかったから、もうあっちで死ぬことはないだろうと思ってたんですけど、何かあったんですか」
 門番をしている木下くんが不思議そうにしている。
「またうっかりやらかしちゃって……いやそれどころじゃないんだ。こっちの世界に物が増えてるというか、道が綺麗になってた」
「それじゃ、誰か樋口さん以外にも昨晩誰かが移動してきたって事ですか」
「そうみたいなんだよ。というか、それが誰か心当たりがあって」
「知り合いですか?」
「俺の、というよりは水上の知り合いなんだけど、出かけちゃった?」
「いると思いますよ」
「ちょっと呼んでくる」
「あ、ここに居てください」
 木下くんは守衛小屋から陸上用のピストルを持ってくると、空砲を1回ならした。
「何それ」
「何かが校門であったときに鳴らすことになってるんです。水上さん以外も来ちゃうと思いますけど、食べ物が届いたなら今日は調達をしないといけませんし、ちょうどいいですよね」
 見れば校舎から大人達が出てくる。細川さんが、俺を見て少し表情を硬くした。
「どうしたの?」
「なあ水上、お前の親方さんがどこに住んでいるか、知らないか」
 細川さんの質問には答えず、水上に問いかけた。
「知ってる、というか住まわせてもらってた。なんで?」
「俺が道連れにしちゃったみたいなんだ」
「道連れ?」
「水上の親方さんに偶然会ってさ。車に乗せてもらったんだけど交通事故に遭って」
 水上は無表情のままでくるりと踵を返すと校舎へ走っていく。
「校門を開けといてくれ!」
「おい、どこへ行くんだ」
「車でも取りにいったんじゃないですか」
「俺たちは調達活動に出かけないといけませんよね」
 言われたとおりに校門を開けながら、木下くんが鈴木さんと細川さんに聞いた。
「そうだなあ。まだ前回のが残ってはいるけど、あるときに集めておかないといけないね」
 鈴木さんが同意する。
 俺は実家から乗ってきた母さんの車が邪魔になってはいけないので、高校の敷地の中に入れていると、軽トラックの低速ギアでエンジンを思い切り回しながら水上が飛び出してきた。
「出かけてくる、後はよろしく。もしかしたら今夜は帰らないかも知れない」
 開けた窓から水上が叫んだ。
「ちょっと待て、俺も一緒に連れてけ」
 思いだした。田口さんが乗っていた軽トラは、この車だ。
「勝手にしろ」
 そう言いつつも彼は少しだけ速度を緩めた。俺が乗りやすいようにではなく、単に敷地から直角に曲がって道路に出るためだったかもしれない。走って荷台に飛び込むと、俺が乗ったことをバックミラーで確認した水上は再び強くアクセルを踏み込んだ。横に揺れながら加速していく軽トラックの荷台で、俺は危うく掴んだ鳥居を離してしまいかける。
 滝のように冷や汗をかきながら、振り落とされないような姿勢を模索しながら両手でしっかりと出っ張りを握りしめた。

「こっちの世界に来てから俺はやたら吐いているんだけどさ。乗り物酔いではいやだなあ」
 かなり乱暴な運転で人通りも他の車もない道をすっ飛ばしていく。
「うるせえ、着くまで舌を噛まないように黙ってろ」
 舌の前に、荷台に打ち付け続けている全身に青たんができかけているような気がする。
 かなり気が立っているようだった。無理もないか。
 まだ決まったわけでは無いが、自分の死に、他の人にとって大事な人を巻き込んでしまった罪悪感もあって、俺は言われたとおり口をつぐむことにした。

 冗談のつもりで口にした乗り物酔いを本気で懸念し始めたころ、タイヤが滑っているのではないかと思うほど喧しく、ある一軒家の前で軽トラックが停車した。
 腰が痛くて荷台から降りられない俺のことなど眼中にない水上は、運転席のドアを開けっぱなしのままでその家に駆け寄って、玄関の前でその中へ飛び込んでいくのを寸前で躊躇した。
 ドアノブと呼び鈴のどちらに手を伸ばそうか逡巡しているようだ。すると家の中からカタリと錠を開ける音がした。後ろから見て分かるほど水上の肩が震え、そのまま外開きの扉が開くと体がぶつかる位置から後ろへ飛び退いた。
 出てきたのは昨日、俺が水上家の墓の前で会ったおっさんだった。
「……」
「……あ、あー。その、久しぶり?」
 背中しか見えない水上が、どんな表情でその言葉をひねり出したのか、無性に気になった。
「何で? え?」
「老けて見えることを気にしていたけど、世界はちゃんと30代だって認めてくれたって事」
「……何の話? お前、どうしてしゃべって、動いて……生きてるんだ」
「全部、話すよ。まだ、俺もこの家に入っていいかな。親友を連れてきたんだ」
 雰囲気を邪魔しないよう、荷台から降りるのを諦めていた俺を振り返った水上は、泣きそうな、嬉しそうな、複雑な表情をしていた。
「こんにちは、またお会いできましたね」
 水上しか見えていなかった田口さんがやっと俺に気付いてもう一度驚いた。
「……昨日の?」
「はい、樋口と言います」
「いつまで荷台に張り付いてるんだよ、さっさと降りて来いよ」
「裕吾の運転は乱暴だもんな、ぶつけた所に湿布でも貼ってやる」
 手を貸してもらいながら地面に降りて、我が家のように振る舞う水上に続いて田口さんの家に入った。

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