稲葉 翔の駄文倉庫

Just another クリエイターズネットワーク site

RSS 2.0

焼きそばパン

「あー、もうくそったれ」
 気が付けば昼休みも半ばの時間に差し掛かり、俺はダラダラと力無くコンビニに向かって歩いている。
「あのハゲ授業長引かせすぎなんだよ、ったく」
 昼休みに学食のパンを確保しようと試みたものの惨敗。
 午前中の授業は全部ハゲの実習だったのも原因で、休み時間にすら買いに行く事ができなかったのも大きな敗因だ。
「さて、何のパンを買おうか」
 コンビニに着いてまずパンコーナーへと足を運ぶ。
 やはり金額と腹持ちを考えるとやはりパンだ。
 ゲーム片手で手軽に食べられる学生に心強い味方でもある。
 パンに決まったとして、どのパンを食べようか。今日の俺は何腹ってか?
 一通り物色してみるも、おやつ系の甘いパン類はここ最近食べ過ぎたせいで飽食気味だ。
 だとすればお総菜系のパンになる訳だが、玉子サンドに目が行くもサンドイッチ系はやはり値段がかさむ。
 量が少ないのに値段が倍とはこれいかに! となればおやつ系と同じ所にあるお総菜パンになる訳 だ。
 焼きそばパン、お好み焼きパン、ハム&チーズパン、フランクロール、まぁこの辺ぐらいしかないよな。
 フランクロールは悪くないがソーセージが細すぎて食い応えがない。
 ハム&チーズパンはどうにもハムの量がいまいちだった記憶がする。
 お好み焼きパンはくどすぎて飲み物消費量がはんぱ無いので却下。
 結局の所消去法で焼きそばパンになってしまった。
 まぁ残り一個だし丁度いいやと思って、手を伸ばした瞬間に最後の焼きそばパンをかっ攫われてしまった。
「何っ!?」
 横取りされた獲物の先に映るは、隣のお嬢様高の制服を着たいかにも優雅で上品に振る舞ってますと言わんばかりのお嬢様だった。
「あら? このパンを買うに相応しい不潔そうで貧相な殿方ですこと」
 そして長い金髪を揺らしながら第一声がこの憎まれ口である。
「待て待て。あんたこそ何でその不潔そうで貧相な物を買おうとしてるんだよ?」
「そっ、それは友人のためですわ! 決して庶民の味を知りたくてここへ来た訳ではありませんわ!  それにわたくしは桐ヶ崎麗華と言う名前がございましてよ?」
 と、あからさまに挙動不審になった挙げ句に逆切れしながらも正論を述べるお嬢様。ああ、これは間違いなく嘘をついてる味って奴だ。
「おっと、そいつは悪い。俺は滝沢裕也だ。んで、その桐ヶ崎さんの友人ってのは焼きそばパンを食べるのは初めてなのか?」
 無駄に刺激しても面倒な事になりそうなのでまずは様子を伺いながらも、説得できるなら別のお総菜パンに変更して貰えないだろうかと思った作戦だが、さてどう答える?
「えっ、ええ。その友人はお総菜系では一番美味しいパンだと仰ってましたわ」
 どっから仕入れた情報かは解らないが、適当に選んだ様子では無さそうなのでこれは骨が折れそうだ。
「濃いめの味が好きなら隣のお好み焼きパンもお勧めなんだが、その友人の好みでは無さそうか?」
「残念ながら濃いめは嫌いですわ」
「そうか、女子ならハム&チーズパンも良いと思うだがどうだ?」
「適度な味の焼きそばがパンと組み合わさった味が知りたい、との事でしたのでこれ以外に食べてみたい物はございませんわ」
 完全に詰んだか。いや……まてよ?
「そう言えばそっちの学校って購買みたいな所は無いんだよな?」
「ええ、食堂が一つある以外はこうしてパンなどが売っている場所はございませんわ」
「そうか。なら一つ交換条件をその焼きそばパンを譲ってくれないか?」
「それはどのような条件で?」
「俺の学校だと珍しいお総菜パンが色々あるんだが、桐ヶ崎さんの友人とやらがが好みそうな奴を明日俺が買ってくるって条件だ。メニューは今から言うんで、気になりそうな奴があれば交渉成立だ」
 こうして何の取り柄もない高専に通う俺と、庶民の味を知りたいと言ったお嬢様との奇妙な関係が始まった。

syo25


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

Archives