焼きそばパン競作~ゲームと焼きそばパンとご奉仕と。
ゲームと焼きそばパンとご奉仕と。
俺にとってこの世界は、ゲームだ。
昼休み。俺は今学校の廊下を駆けていた。
今俺のマイブームゲームは、いかに早く食堂や購買まで行き、お目当ての飯を食えるか、というゲームだ。
今日もお目当ては……。焼きそばパンだ。
焼きそばパン。焼きそばパン。ああ焼きそばパン。字余り。
そんな事を思いながらも、目の前を歩く学生を追い抜き、目の前から歩いてきたやつをひらりと交わす。ドライブゲームかシューティングゲームかのように。
焼きそばパンちゃーん。
焼きそばをパンに挟んだだけというシンプルな組み合わせ。炭水化物オン炭水化物。
ああ、なんという食べ物! だが、それがいい!
学生の、青春の食べ物である。それを生徒たちは昼間になると争奪しあうのだ!
そのゲームに勝ち、焼きそばパンをゲットすることが今回のゲームだ。
だが、授業の遅れによりちょっと出遅れてしまった! なんという不覚!
急げ! 俺! 急げ!
そして俺は、購買の校内コンビニへとたどり着いた……。が!
「はいっ、お目当ての焼きそばパンですよっ。最後の一つをゲットしておきましたっ」
「おいちょっと待てよっ!?」
校内コンビニの出入り口のそば。
眼の前に立つのは、ちょっと背のちっちゃい、目のくりっとした女の子。
俺の後輩だ。
なんということだ! 先にパンを買われていた!
それはいい。売り切れていたなら、このゲームは俺の負けだ。だが。
「なんで俺のために焼きそばパン買ったんだよ!?」
「だって……。先輩にご奉仕したかったから……」
額や腕にキラリと汗を光らせ、うっとりする後輩。
激戦の後を物語っている。
「だからって俺のゲームを邪魔するなよっ!? 俺は自分で焼きそばパンをゲットしてゲームに勝ちたかったんだよっ!? これじゃチートじゃねえかよっ!?」
俺がそう怒鳴りつけると、彼女はその大きな瞳をうるっとうるませる。
「あたし、先輩にご奉仕しようと、一生懸命頑張ったのに……」
うっ。これじゃ俺が悪党、ボスキャラじゃねーかよ!? しょうがねえなあ……。
俺は小さく震える後輩のちっちゃい体の頭に、ぽん、と手を乗せた。
そのまま優しく撫でてやる。
「……ま、それがお前のゲームだよな。よくやった」
すると後輩は、目を餌を欲しがる猫のように大きくして尋ねてきた。
「ご褒美は……?」
うっ……。またいつものパターンか。
しょうがないなあ……。
「う、うむ。クリア報酬としてこれをやろう」
そう言うと俺は、手を離して制服から財布を取り出し、焼きそばパン代を後輩に渡す。
渡されると、後輩の顔がぱあっと明るく輝く。
「よっし報酬ゲットー!! おっかね、おっかね、お・か・ねっ!」
……まったく、いつもそれだよな。
ご奉仕と言いながら、きっちりと報酬を要求してくる。
現金だよな。こいつ。
だがこいつの小躍りしている顔を見ると。
嬉しくなるのは、どうしてだろうな。
ゲームは、一人でプレイするのも楽しいが、ふたり以上でプレイするともっと楽しい。
7月 18, 2013 木曜日 at 9:58 am