機動戦士ガンダムAGEに出てくるギミックや台詞を元に妄想をたくましくしていくSFネタ解説シリーズの8回目。今回はAGEデバイスと遺失技術である。

 ガンダムAGE世界は、テクノロジーが頂点であった時代から滑り落ちている。
 ヴェイガンが持つ技術もそうだし、AGEデバイスもそうだ。ガンダムAGEの世界では、かつてあった科学技術のいくつかが失われ、それはヴェイガンとの戦争が始まってから三世代目になっても復興を遂げていない。

 ここでSF的に疑問になるのは、なぜ復興できないか、ではなく。
 なぜ、かつての人類はかくも高いレベルの技術に到達できたのか、である。
 ガンダムAGE世界における人々は、決して迷信に囚われているわけではない。『デューン 砂の惑星』(フランク・ハーバート)のように、コンピュータを始めとする技術を忌避しているわけでもない。
 なのに、銀の杯条約によって封印されたモビルスーツなどの兵器に関する技術は、ヴェイガンとの全面戦争が続く今(第3部開始のAG164年)なお、現用兵器を上回っていると推測される。

 そう考えてみれば、やはり。AGEデバイスに代表される、かつての超技術は、それが生まれた当時の時点で、すでに人類の手に負えるものではなかったのではないか、という仮定が成り立つ。
 では、何者がその超技術を生み出したのか?
 私はAGE世界の過去に、超AIとも言うべき存在が誕生したのではないかと考える。ヴァーナー・ヴィンジの『遠き神々の炎』から名前を借りて、それらの超AIをここでは“神仙”と呼ぼう。(ここから先は、私の妄想設定となる)

 “神仙”がどのように生まれたのかは分からない。『マン・プラス』(フレデリック・ポール)や映画『ターミネーター』のスカイネットのように、 ネットワークの中から自然発生的に生み出されたのかもしれない。『未来の二つの顔』(ジェイムズ・P・ホーガン)のスパルタカスように、人類自らが生み出 したのかもしれない。
 いずれにせよ“神仙”は生まれ、その叡智によって人類のテクノロジーを新たなステージへと導いた。人間には理論すら意味不明な超技術の数々を“神仙”は生み出した。
 超高速の思考力を持ち、『竜の卵』(ロバート・L・フォワード)のチーラよろしく1日で人類史の1万年に近い進化を遂げた“神仙”は、SFが長年にわ たって妄想してきたありとあらゆるガジェットを短い期間に作り上げた。ナノマシン工場、超光速通信、恒星間航行、反物質生成技術、真空エネルギーポンプ、 タイムマシン、不老不死、死者の復活、妄想の具現化……ドラえもんのふしぎ道具よろしく“神仙”は神々の御業を達成した。

 そして“神仙”は消えた。

 高速の進化の果てに『まどかマギカ』のまどか神か、あるいはFate/stay night世界の魔術師が根源に到達したように、この宇宙との関わりが断ち切れてしまったのだ。

 後に残されたのは、“神仙”がひっくり返したおもちゃ箱のガジェットである。後期に作られた高いレベルのものは、もはやどのように扱えばいいのかすら分からなかった。
 残されたガジェットによって『ブラッドミュージック』(グレッグ・ベア)的な人類の危機が発生し、人々は“神仙”というジョーカーすぎるレアカードをも う一度歴史というデッキに組み込むことを諦めた。それどころか、人類はガジェットの暴走で何度か絶滅し、さすがに責任を感じた“神仙”の介入によってタイ ムラインが巻き戻され、やばすぎるガジェットが『封仙娘々追宝録』(ろくごまるに)的に回収されもした。

 “神仙”は消えたが、その残した夢を追い求める人はいた。
 アスノ家の始祖もまた、そのひとりである。彼/彼女は“神仙”に近づくため、残されたガジェットのひとつを手に入れ、AGEデバイスを作り上げた。
 “神仙”が駆け抜けた進化を可視化し、再現できるようにするために。
 しかし、その後の混乱と戦乱の時代の中、アスノ家はMS鍛治としての役割だけが残り、AGEデバイスもMSを進化させる便利なツールとしてのみ使われるようになった。
 それでも、AGEデバイスが遺失技術の塊であり、進化を司るデバイスであるのならば。
 その最終的な目的は、人類では届かない、人類を継ぐ存在。
 人類種の天才をもってしても、かつて生まれた技術の頂点を復活させることができないのならば、人類はAGEシステムにとって『そこまでの存在』である。
 ならば、人類が滅びた後に、その文明を継承し発展させる存在を生み出すことがAGEシステムの真の目的とするのではないかと考える。

 ひょっとすると、イゼルカントという人物は存在しないか傀儡であり、火星にいてヴェイガンを操っているのはもうひとつのAGEデバイスではないだ ろうか。アスノ家が忘れた人類を継ぐ者を生み出す使命を、火星のAGEデバイスは今も追い続けているのかもしれない。マーズレイという謎の奇病も、火星植 民に失敗したはずなのに、高度な科学技術と生産力をヴェイガンが誇っているのも、火星側に“神仙”が残した遺失技術と、それを操る自律型のAGEデバイス による操作だとすれば、うなずける。
 100年にわたる地球と火星の戦争は、そのすべてが、アスノ家のAGEデバイスに、人類かガンダムの最終進化を促すためのもの、であったとするのなら。
 最後に火星のAGEデバイスが生み出すのは、果たして、人を必要としない究極のガンダムか?
 それとも、全盛期のフリットを上回る、新しい人類か?
 そしてそうやって生まれた最強の敵を、アスノ家3代の男たちは、打ち破ることができるのだろうか?