作品

ガールズ&パンツァー二次創作短編:九七式戦車隊、奮闘す

2012年11月21日 小説 No comments , , , , , , , , , ,

 アニメ『ガールズ&パンツァー』の第6話(未見)で、九七式戦車が主人公のお姉ちゃんが乗るティーガー戦車に全滅させられるエピソードがあると聞いて、その場面の二次創作を妄想しつつ、書いてみました。
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 九七式戦車が、丘を駆け上がる。履帯が小石を弾き、柔らかい土を抉る。
 土埃はほとんどでない。昨夜降った雨が、地面を濡らしているからだ。
「天佑は我にあり、だな」
 一号車に乗る戦車長はそう言って、砲塔のハッチを開き、身を乗り出した。左右に二両ずつ、計四両の九七式戦車が見える。いずれも、土煙はあげていない。音はさすがに消せないが、こちらの位置を特定されるほどではないはずだ。
「これならば、敵に気付かれることなく丘の上まであがれるな」
 袋に入れた地図を確認する。斜面のこちら側の等高線の間隔は開いていて、敵のいる反対側の等高線は詰まっている。
 ――これならば、いける。反対側の斜面からは、この丘の上にあがってこられない。
 戦車長は、ほっこりと笑った。沖田畷作戦は、成功しそうだった。

 三日前。学校の作戦会議。
「オキナワ作戦?」
「沖縄ではない。沖田畷(おきたなわて)。戦国時代の、島津&有馬の連合軍と龍造寺軍の戦いだ」
 ぽっちゃりした隊長は、手にしたポッキーで卓の上に広げた地図をとんとん、とつつく。先ほど学校に届けられた、黒森峰高校との戦場に選ばれた演習場の地図だ。
「それが今回の作戦の名前ですか。どんな戦いだったんです?」
「人口に膾炙している戦いの様子は、大軍を擁する龍造寺軍が湿地帯の細い道でにっちもさっちもいかなくなり、島津と有馬連合軍に敗北した、となっている。実際は違うようだが」
「湿地帯……なるほど」
 ポッキーで示された地点を見ると、大きな川と湿地帯が広がっていた。
「黒森峰高校は、自慢のティーガー戦車を持ち出すだろう。対する我が校は、九七式戦車だ。おい、我らが愛するチハたんが、ティーガー戦車とまともに戦えると思うか?」
「冗談はやめてください」
 ドイツのティーガー戦車は、戦車道で使用を許された戦車の中では最強クラスだ。前面装甲は一〇〇ミリ。側面と後面の装甲も八〇ミリである。
「我らがチハは、歩兵支援戦車。戦う相手は、敵の歩兵とその陣地です。搭載された五七ミリ戦車砲では、距離一〇〇mまで近づいても、装甲貫通力は二五ミリ。ティーガーの重装甲が相手では、生卵をぶつけるようなものです」
「まあそうだ。そしてチハの装甲は最大で二五ミリ。こいつは、当時の主力だった三七ミリ対戦車砲に一発くらいは耐える厚さ、という理由で決まった」
「黒森峰のティーガーの主砲は名高い八・八センチ砲。射程二〇〇〇mで、八四ミリの装甲を撃ち抜きます。牛刀を持って鶏を割くどころの騒ぎではありません」
「射程に入りしだい、撃ち抜かれるな」
「我が校の戦車隊はいずれも名人揃いですが、これは技量や大和魂で何とかなるレベルを超えています」
 戦車長は、大きく溜息をついた。正直、彼女の頭では華々しく散る以外の選択肢は思い浮かばなかった。
「まあ待て。三本のポッキーという教えがあってだな。このように一本のポッキーは」
 ぽりん。
 隊長は口にくわえたポッキーを歯で折り、もぐもぐと食べた。
「簡単に折れてしまう。だが、三本のポッキーを束ねると」
 隊長は口にポッキーを三本まとめてくわえる。
「ふひゃひゃように、ひゃほへほっひーへも」
「何やってんですか」
「あ」
 ばりん。
 戦車長がぺしりと隊長の頭をたたいた拍子に、口にくわえたポッキーが折れた。
 もぐもぐ。
「まあ、ポッキーは何本集まってもポッキーということだな」
「ダメじゃないですか」
 ティーガーと戦うとなると九七式戦車は、まさにポッキーのようなものである。装甲は簡単に折れるし、主砲はゼロ距離まで近づいても、弾かれる可能性が高い。当たり所がよければ、火災を起こすか履帯を外すことも期待できるが、それで勝つのはいくらなんでもムシが良すぎた。
「それで、沖田畷ですか。湿地帯にティーガーをおびき寄せて、足回りを封じて接近すると」
 戦車長は地図の上に定規をあてて線を引き、コンパスをあてて距離を算出する。ティーガーの射界に入れば九七式戦車は一発で撃破される。うまく、地形を利 用して隠れながら敵に接近できる経路を見つけ出せば、たとえ無駄でも、零距離射撃で黒森峰の心胆を寒からしめることが可能なはずだと考えたのだ。
 あれこれ考えること小一時間。ようやく戦車長は納得のいく経路を見つけ出した。
「何とか、二百メートルくらいまでは接近できそうですね。相手がのってきてくれるかどうかは、賭けですが……」
 戦車長がそう言うと、それまで暢気に携帯をいじっていた隊長はびっくりした顔になった。
「おいおい、黒森峰ともあろうものが、こんな見え透いた手にのってくるわけがないだろ。ちょっと射界は狭いけど、この丘の麓に待ち伏せされて遠距離砲撃で全滅だ」
 ぶちんっ。戦車長のこめかみに青筋が浮かぶ。
「た~い~ちょ~う~~」
「まてっ、コンパスはやめろっ、刺さる、刺さるっ!」
 しばらくして。
 戦車長は、隊長のおごりで買った缶の汁粉をぐびりとやった。疲労した脳にブドウ糖が染み渡る。
「いい加減、私をからかってないで、本当の作戦を教えてくださいよ」
「作戦名が沖田畷ってのは、本当だ。作戦内容は公表しないけど黒森峰の連中は優秀だからな。名前くらいはすぐに突き止めるだろう」
「そうですね」
「んで、これから三日間、我々は九七式戦車に発煙筒を増設する。これも、黒森峰にはすぐ伝わるだろう。九七式戦車にとっては珍しいことじゃないから隠すまでもないし」
「そりゃそうですね」
 九七式戦車は、車体後部に発煙弾発射筒を搭載してある。実際の戦いでは発煙筒を砲塔などに増設したものも多かった。装甲の薄さと、主砲の貫通力の弱さから、発煙筒で姿を隠しつつ接近するのが戦場での常套手段になっていたのである。
「そして彼我の性能差。さて、黒森峰の西住がこれらを知ったらどう考えると思う?」
「私と同じ結論になるでしょうね。湿地帯におびき寄せて足回りの差を活かして肉薄攻撃を仕掛けると」
「そうだ。だが、悲しいかな、その作戦は絶対に失敗する。この丘の麓に陣取れば、一両のティーガーで我が校の戦車を全滅させられるだろう」
「絶望的ですね」
「いや、そうじゃない。ここに。ここだけに、勝機があるんだ」
「え?」
「おい、しっかりしろ。敵のティーガーは、絶対に、この場所にいるんだ」
 隊長はポッキーの先で、ぐりぐりと丘の麓を指し示した。
「丘の上からなら、この場所にいるティーガーを、狙えるんだ」

 そして試合の日。
「急げ急げっ! 黒森峰がこの作戦に気付けば、勝機はなくなる!」
 車体の後部をにらむ。ディーゼルエンジンの煙すら、今はうらめしい。
 隊長の乗るフラッグ戦車をのぞくすべての九七式戦車が、この作戦に投入されていた。
 丘の上から、麓にいる黒森峰のティーガーまでの距離は約三〇〇m。その距離での主砲の装甲貫通力は二〇~二五ミリ。
 ――ティーガーの上面装甲は二五ミリ。上からの砲撃ならば、可能性はある。
 もちろん、こちらから狙える以上、敵からも狙える。そして九七式戦車はどこに当たろうが撃破確実だ。
「もうすぐ稜線を超える。いいか、この作戦は、こちらの五両が全滅するまでに、敵のフラッグ戦車を撃破できるかどうかにかかっている。左右の僚車にはかまうな。一発でも多く、敵に砲弾を命中させることだけを考えろ、いいな!」
 戦車長は、無線で全車にそう伝えた。返事は必要ない。作戦開始前のブリーフィングで、全員が、そのことを理解している。
「行くぞ!」
 五両の九七式戦車は、一斉に稜線を超えた。

 次の瞬間、四両になった。

「なにっ?」
 一撃で砲塔が吹き飛ばされた九七式戦車が横倒しになる。
 威力をみれば、誰に撃たれたかは、一目瞭然。八八ミリ戦車砲。ドイツが誇る高射砲FLAK88を対戦車用にしたもので、ドイツ軍が戦ったすべての敵戦車を打ち砕く、重騎士の槍だ。
 撃ったのは、ティーガー戦車。
 問題なのは、どこから撃ったか、だ。
「なぜだ! なぜ、ここにいる!」
 戦車長は叫んだ。
 距離一〇〇メートル。戦車戦においては至近距離。丘の麓にいるはずのティーガー戦車は、丘の上にあがって待ち伏せていたのだ。
 ティーガー戦車の砲塔のハッチが開き、戦車長が顔を出した。黒森峰高校の隊長、西住まほ。国際強化選手にも選ばれる、沈着冷静な戦車乗りだ。
 その冷たい視線を見て、戦車長はすべてを理解した。彼女は、こちらの作戦をその裏まですべて読みきっていたのだ。
「だが、こんな急斜面を、鈍重なティーガー戦車がこちらより先に上がってこられるはずが……む?」
 戦車長の視線が、まだ濡れた地面に残る轍の跡に気付いた。目の前のティーガーのものではない。戦車長の視線が轍の跡を追って左の茂みを見る。
 いた。砲塔のない、ティーガー戦車の車体。
「戦車回収型(ベルゲパンター)ティーガー……こいつに牽引されて、ここまで上がったのか!」
 戦車長の視線と、推理に気付いたのだろう。ティーガーに乗る西住まほがわずかに顎を下げてうなずいた。
「なるほど。湿地が多いような、足場が悪い場所での戦いも、想定済みということか。さすがは黒森峰! だが!」
 戦車長は通信を開いた。砲塔の周囲を囲む鉢巻きアンテナに電流が流れ、じじっと音をたてる。
「全車突撃! 目の前にいるのは黒森峰の隊長車だ! 討ち取って名をあげるぞ!」
 残った四両の九七式戦車が左右に広がりながらティーガーに迫る。
 たとえかなわぬまでも、最後まで諦めない。
 それが、九七式戦車に乗る彼女たちの戦車道だから。

(おしまい)

『戦術入門たくてぃくす!!』番外編:戦車乙女の憂鬱

2012年11月2日 戦術入門たくてぃくす!! No comments , , , , , , , , , , , ,

 これは、『MC☆あくしず』連載『戦術入門たくてぃくす!!』の第11回と第12回の間の出来事をショートショートにしたものである。
 この時点で主人公の守人が契約した戦闘妖精には、歩兵科のファン、砲兵科のキャノ、航空科のエリルに加え、装甲科のアルモがいる。他の三人が守人とほぼ同年代であるのに対し、アルモだけは若干年上である。

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『戦術入門たくてぃくす!!』番外編:戦車乙女の憂鬱

「で、どうなのよ? 異世界の勇者クンとは」
 同期の戦闘妖精は、端正な顔をニヤリと崩して、酒臭い息をアルモに吹きかけた。手にするジョッキに入っているのはアルコール度数八八(アハト・アハ ト)%の蜂蜜酒。醸造酒が通常のやり方でここまで発酵するはずもなく、妖精界ならではの魔法で化学反応をいじって作ってある。
「ん……まあ、その。ぼちぼちと、な」
 ここは居酒屋『ウラノス』。前大戦で活躍した騎兵科の戦闘妖精が退役後に開いた店だ。店の名前は、愛馬にちなんでつけたと聞く。
「は? なんで? 電撃戦(ブリッツクリーク)でしょ! 蹂躙突撃でしょ! あんたそれでも、伝統ある騎兵科由来の戦闘妖精なの? しっかりしなさいよね!」
「飲み過ぎだぞ、ブリュンヒルデ……じゃなかった、ヒルデ」
 酔いの回った目でぎろりと睨まれ、アルモはあわてて言い直す。
 ブリュンヒルデ家は女系直系で、居酒屋でこうして酔っぱらってクダを巻いている戦闘妖精は、初代ブリュンヒルデから数えて一三代目である。ブリュンヒル デ、という名前は彼女に重いらしく、幼名のヒルデか、あるいは士官学校でついたあだ名の十三代(サーティーン)で呼ばれる方を好む。
 名前が重い裏には、かけられた期待と、それを実現できぬ現実とがある。歴代のブリュンヒルデたちが天馬にまたがって空を駆けていたのも今は昔。十三代目 はヘリコプターを用いた空中騎兵となっている。空中騎兵は、将来の花形兵科の呼び名も高いが、今のところは脆弱性と火力不足に悩んで特殊作戦がせいぜいと いうありさまだ。
 ――うちも旧家の出だが、彼女はそれ以上だ。久しぶりに召喚された勇者のパートナーに彼女を、という声も大きかったと聞く。
 結局、上の方が守人の適性その他を判断して、ブリュンヒルデとの契約はなくなった。しかし、背後にはいろいろときな臭い派閥争いもあったらしい。それほ どに、守人の潜在力は高かった。何しろ四人の戦闘妖精と契約を交わせているのだ。アルモとしては、他の年若い戦闘妖精たち、エリル、ファン、キャノらが巻 き込まれないよう、あれこれと気苦労の毎日である。
「まーた、周りのこと考えてるんでしょ、アルモ」
「う」
 図星をさされ、アルモは言葉に詰まる。
「戦車は単独では戦えない。いえ、それは戦車に限らず戦闘妖精全員に言えることよ。だから、常に周囲に気を配るあんたは、間違っちゃいないわ」
 ぶすり。ヒルデが皿に並べた焼き鳥に串を刺す。
「でも、それはあくまで戦場での話よ。娑婆では娑婆のルールがある。獲物はこうやって容赦なく追いつめ、そして」
 ぱくり。大きく口をあけて、焼き鳥を放り込む。もぐもぐ。
「このように、美味しくいただく」
「娑婆のルールって……」
「恋のルールよ。早いモノ勝ち。周囲を見て遠慮するのはお門違いよ。一番年上のあんたがそんなんじゃ、下の子だって遠慮して手を出せないわ」
「手を出すって、直接的すぎるぞ」
「あのねー。あんただって、状況はわかってんでしょ? ライバル三人よ、三人。元気なボクっ子に、定番なツンデレ娘、そして毒舌ロリ。属性のある男なら、一発で引っかかるわ」
「守人殿は、そのような男ではない……たぶん」
「そうね。あんたの話を聞く限りじゃヘタレ系ね。ただし、それはカレの表の一面よ。こいつを見なさい」
 鞄から取り出した巻物の封蝋にヒルデは親指を押しつける。固有魔力波動でのみ溶ける封蝋が外れ、スクロールが広がる。しばらく待ってから表面に文字が浮かんだ。封蝋を指定の手続きで外さなければ、文字は浮かばない。妖精界の機密文書で昔から使われる書式だ。
 そうまでして厳重に保管されていたデータに目を通し、アルモは首をひねる。
「『痛いのがスキでスキすぎてスキ』『同級生はドMな奴隷志願』……なんだこれは?」
「あんたの勇者が、あっちの世界でベッドの下に隠してるエロ本のタイトルよ。内容と詳細は奥の方に入ってるから、家に帰って読みなさいな」
「なな……っ。どうやってそんなものを……」
「蛇の道はヨルムンガルドよ。カレの中には、愛想のいいヘタレとは違う、凶暴なものがある。でなきゃ勇者として呼ばれるわけもないわ」
「確かに、演習でも驚くほど度胸のある一面があるな。あの時だって……」
 何回か前の演習のことを、アルモは思い出していた。

 それは、まったくもって不意打ちだった。
 ゆるやかに右カーブを描く道路を走っていた先頭の戦車の前面装甲に閃光が走る。直後にドン、という破裂音が響き、煙がぶわっとあがる。戦車は、残った慣性でずるずると滑るように前進し、左側の路肩をはずれて落ちた。
「一号車がやられた!」
「警戒! 対戦車砲!」
「どっちだ?」
 後方の戦車のハッチからアルモの分身である戦車長が姿をみせ、双眼鏡をのぞく。
 息つく間もなく、二両目の戦車が煙をあげて停止した。破壊された戦車に乗っていた分身が光の粒子となって消える。
 わずか一分の間に二両の戦車が失われた。戦車戦闘における、最大の危機がこれだ。長射程、高初速の対戦車砲、あるいは戦車による待ち伏せによる攻撃は、あまりに早く展開するため、対応の時間がひどく短い。散開したり、隠れたりという余裕がないのだ。
 それでも、二両の戦車を犠牲に捧げてえた貴重な時間が、敵の所在を明らかにした。
「一〇時の方角! 茂みから発砲煙! 距離五〇〇!」
 左前方の茂みからうっすらとたなびく白い煙を見つけた三両目の戦車が急いで後退する。擱座した二両目の戦車の砲塔に光が走り、擱座した車体が揺れた。対戦車砲の砲弾が、戦車の残骸に命中したのだ。
「二両目の車体が盾になってくれている! 急いで後退しろ!」
 後方の指揮車両。アルモは分身の戦車がやられた時の疼痛を感じながら地図をにらむ守人に報告する。
「敵と接触しました。待ち伏せで、戦車二両を失いました」
 それを聞いて、残り三名の戦闘妖精が顔をしかめる。
「こんなに手前で? 目標の町は、ずっと向こうだよね?」
「進撃路として使える道路は三本あるの。残り二本に振り分けも考えるべきなの」
「守人、先に偵察機を飛ばしたらどう?」
 しばらく地図を見て考えていた守人は首を左右に振った。
「この道路が一番、距離が短く状態もいい。平地を走っているから、見晴らしもいいし、戦車を展開させるにも適している」
 他の二本は、森や丘陵地帯を抜ける迂回路で、しかも未舗装な道路となっている。戦車はともかく、歩兵部隊を乗せたトラックだと、道路の状態が悪いとそれだけで進撃速度が落ちる。
「でも、こんな手前で待ち伏せされたんだから、この後、どれだけ待ち伏せされるか、分からないよ!」
「それだよ。こんな手前で待ち伏を受けたということは、敵の目的は時間稼ぎだと考えられる。だから進撃に時間がかかる迂回路を通って、相手の時間稼ぎに付き合う必要はない。ここは、幹線道路を強行突破する」
 守人は地図から顔をあげてアルモを見た。
「後続の歩兵と砲兵を町を攻撃できる場所へ届けるため、戦車部隊には道を切り開いてもらう。損害は覚悟の上だ。いいね、アルモ?」
「もちろんです、守人殿。我ら戦車の装甲は、そのためにあるのです。我が身を盾にして友軍の安全を確保できるなら、本望です。どうぞ、存分に我らをお使いください」
 アルモは胸を張って答えた。

 そして再び居酒屋。
「はーん。その自慢の胸を張って。はーん。なんかもう、どうでもよくなってきたわねー」
 ヒルデがジト目でアルモのゆさゆさと揺れる大きな胸を見た。アルモは顔を赤らめて胸を隠す。
「何を言う。胸(ここ)は関係ないだろうが。それにこれで分かったろうが、守人殿は、優しいというだけの方ではない。勝つために必要であれば、犠牲が出ることも許容する強さを持っておられる」
「はいはい、ごちそうさま。でも、どうしたのよ、その演習。聞いてるだけで被害大きそうじゃない」
「それほどでもない。守人殿に頼んで、重戦車を召喚させてもらったからな」
 重戦車は、分厚い装甲を持つ戦場の缶切り役だ。敵の砲火を自らの装甲で弾き、突破を果たす。重いため、脆弱地形などでは使えないが、場所が平地の幹線道路であれば、その実力をいかんなく発揮できる。
「そして、あんたは追加の契約で濃厚なキスをぶちゅっと」
 ヒルデが、うりゃうりゃとひじで小突くと、アルモもぎこちないウィンクで返した。
「そのくらいの役得はあってしかるべきだろう。ま、同期に心配されなくても私はそれなりにうまくやっているということだ」
「……便利な女として使われてるだけっぽくもあるんだけど」
 ヒルデはぼそりと言ってから、蜂蜜酒のジョッキを掲げた。
「ま、これならライバルが増えても大丈夫そうね。よかったよかった」
「そうだな。いくらライバルが増えても……おい、今なんて言った」
「あれ? 聞いてないの? 五人目、もうすぐよ。ミサイルの戦闘妖精の子が入ってくるわ。今は女王様の侍女をやってるから、分類でいけば年下の健気系ね」
「待て。聞いてないぞ」
「大丈夫、大丈夫。おっぱいは小さいから。平たいから」
 酔いがまわってきて、いろいろどうでも良くなった感のあるヒルデが、手をひらひらさせて、けっけっけと笑う。
「そういう問題じゃない!」
 対して酔いが醒めた感のあるアルモがテーブルを叩いて詰め寄るが、ヒルデは取り合わない。
 戦車乙女の憂鬱は、まだまだ続きそうだった。

(おしまい)

『戦術入門たくてぃくす!!』番外編:無人島サバイバル

2012年10月27日 戦術入門たくてぃくす!! No comments , , , , , , , , , , , ,

 これは、『MC☆あくしず』連載『戦術入門たくてぃくす!!』の第12回の後の出来事をショートショートにしたものである。
 『MCあくしず』26号か、rondobell(ろんどべる)さんの、こちらのイラスト MCあくしずvol.26と合わせてどうぞ。

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『戦術入門たくてぃくす!!』番外編:無人島サバイバル

 雨粒が、強い風に煽られて洞窟の内側まで吹き込んでくる。嵐の到来と共に気温も下がったのだろう。水着にパーカーを羽織っただけでは寒いくらいだ。
「こっちにおいでよ。ちょっと狭いけど、ここなら濡れないし」
 だから、守人のその言葉は何ら下心のない、相手を気遣うものだったのだが、返ってきたのは、警戒心に満ちた冷たい視線だった。
「……いいです」
 しばらくして、視線をそらしてからぼそっと呟くように言ったのは、ミーシャという少女だ。戦闘妖精(タクティカルフェアリー)の名を呼び名を持つ妖精族のひとりである。
 こちらは地球の、何のことはない一般的な青年である防人守人(さきもりもりと)は、どうしうたものか、と頭をかいて考える。
 ふたりがいるのは、昨日の演習で使い、今日は皆で遊んだ海岸に近い小島である。演習時に召喚した兵器のいくつかが残っていることが判明し、手分けして片づけていたら、突然の嵐に襲われ、とりあえず洞窟に避難したのである。
 ――やっぱり、俺が何かやったんだろうなぁ。
 いつも彼と妖精界で戦闘演習に参加している四人の戦闘妖精(ファン、キャノ、エリル、アルモ)の後輩にあたるミーシャは、もともと引っ込み思案なところがあるが、守人に対してこのような態度に出ることは、これまでなかった。
 連戦に疲れ果てた守人が浜辺で寝ているところに、ミーシャがやってきて……そう、そこで何かを守人はしでかしたらしい。
 本人は夢の中にいたので何をしたのかは分からないが、気が付くと、ミーシャにぼこぼこにぶっ飛ばされていたのだ。かすかに覚えているのは、掌に残る柔らかな感触……ボリューム的にはちょっと微妙。
「……じーっ」
 手をわきわきさせている守人を、ミーシャは疑惑の目で見た。
 ――やっぱり、信じられません。こんな人が妖精界を救う勇者だなんて。
 普段は女王の侍女をしているミーシャだが、将来は戦闘妖精として世界樹を侵略者から守るべく、研鑽を積んでいる。だが、戦闘妖精が単独で使える力は、 微々たるものだ。レベルに応じた分身をひとつかふたつ。自らを危険にさらさずに戦えるのは利点だが、戦争でものを言うのは、やはり数だ。
 ――昨日の戦闘演習での、先輩たち……すごかった。
 対上陸演習。小鬼兵たちが扮する大軍に、四人の戦闘妖精はそれぞれ数百の分身を出して戦った。演習ということで力を加減しているが、実戦ではひとりが千、あるいは万の分身を出して戦うことになる。
 そして、それを可能にしたのが、戦闘妖精と契約を結んだ守人の力だ。戦闘妖精と勇者の契約は、唇を重ねることで行なう。ミーシャの先輩たちは、嫌がる様 子もなく……というか、むしろ競い合うかのように、守人と唇を重ねた。そして、守人から得た指揮力を費やして、分身たる歩兵や戦車、戦闘機や大砲を顕現さ せて戦ったのである。
 その時の凛々しくも艶やかな四人の姿を思い出し、ミーシャはそっと自分の唇に指をあてた。
 ――私も、いつかあんな風に……女王様はまだ早い、って言ってたけど。私だって、ちゃんと鍛錬はしてるもの。心の準備だって……心の準備は……まだ、だけど……
 ちらり、と守人を見る。
 昼間、守人に胸を掴まれた。セクハラである。
 だから、たたきのめした。正当防衛である。
 その後の四人の戦闘妖精の取り調べで、守人は寝ぼけていただけで、守人がかぶっていたエリルの下着も小鬼兵の悪戯なのだと分かった。だから、守人をそのことで恨んではいない。
 ミーシャが気にしていたのは、別のことである。
 ――あの後、守人さんを取り囲んで拷問……尋問していた先輩たち、すごく……活き活きしてた。
「まったく! まったくもう! 守人はしょうがないんだから! ボクたちがいないと、すぐ、しょーもないことするんだから!」
 手をぶんぶんと振り回し、乳もゆさゆさと揺らして怒るファン。
「これはもう監視カメラの設置が必要、なの」
 砂浜に正座させた守人の後頭部を、ぺちぺちと叩くキャノ。
「今回は小鬼兵のいたずらだったようですが、騒ぎになるのは精神の鍛錬が足りてないからですぞ、守人殿」
 腕組みをして守人の正面に立ち、くどくどと説教をするアルモ。
「それより私が気にしてるのはね、守人がなーんにも覚えてないってことなのよ。なんかあるでしょ! 乙女の下着を顔にかぶったんだから!」
 守人のほっぺたを、ぎりぎりと締め上げるエリル。
 ――先輩たち、守人さんのこと、本当に信頼してるんだ。そうだよね。これまでたくさん一緒に演習を重ねてるんだもの。心が結ばれてなきゃ、あんなすごい演習、できないよね。
 戦闘妖精と言っても、誰もが勇者と契約できるわけではない。実戦経験を積んでレベルが高くなった戦闘妖精が契約すると、元の世界では一般人でしかない勇 者など、精気も生命力も根こそぎ吸われて干物である。そうならないためにも、召喚した勇者とレベルの低い新米戦闘妖精を組み合わせて演習で育てなくてはな らないのだ。
 ――なのに、私は演習のお手伝いをするだけ。契約なんか全然させてもらえない。
 守人と契約する前の四人の先輩は、ミーシャとさほど変わらない力しか持っていなかった。しかし、今や力の差は歴然としている。守人もそうだ。もし契約で はなく、実戦でマナを消費して戦闘妖精にあれだけの分身を顕現させるには、古老(エント)の森をまるごとひとつ、枯れ果てさせる覚悟がいるだろう。
 ――私では、守人さんと契約できないのかな。私には何が足りないんだろう。まさか……その……色気、とか?
 そこでミーシャは、はっ、と気が付く。彼女は妖精族女王の侍女をしているせいで、いわゆる極秘文書みたいなものを、その気がなくても見ることがある。
 ――お城でのパーティーの後、女王様は守人さんのこといろいろ調べてた。守人さんは昔、女王様が戦闘妖精だった頃に出会った勇者様の子孫らしいって……そして前の勇者様は、それはそれは……おっぱいが大好きだったって……
 ミーシャは自らの胸に手をあてる。
 ぺたん。
 悲しいほどにささやかな感触。対して、先輩たちの胸はいずれも――エリルでさえ――それなりのボリュームを誇っている。もしも、守人との契約の可否を決めるのが、胸の成長であるのだとしたら……
 くらり。
 努力ではとうてい超えられぬ壁の高さに、めまいがする。視界が歪み、洞窟の床が眼前に迫り……
 がしっ。
 意外なほどに逞しい腕が、倒れかかったミーシャの細い身体を支えた。のぞきこんでくるのは、演習の時にちらちらと横目で見た真面目な守人の顔。普段のだらけた表情とはまるで違う。
「やっぱり熱があるんだな。くそっ、なんで言わなかったんだ」
 体調の不良に気付かれていた、という恥ずかしさと。
 自分の様子をきちんと見ていてくれたんだ、といううれしさに、ミーシャはどぎまぎする。
「その、ちょっと寒気がするくらいで……この程度なら、大丈夫ですから」
「大丈夫なら、倒れたりしないって」
「……すみません」
「謝らなくてもいい。それより、どうするかだな」
 守人は洞窟の奥のくぼみに自分のパーカーを脱いで床に敷くとミーシャを座らせた。そしてミーシャを守るようにその前に立ち、洞窟の外を見る。
「雨は止みそうにないし、暗くなってきたな。ここで夜を過ごすわけにはいかないし、助けを呼ぶ必要があるな」
「でも、どうやってです?」
「そうなんだよな。装備は何もないし」
「装備……装備、ですか……あのっ! 守人さん!」
 ミーシャは守人の背中に思い切って声をかけた。
「ん?」
「私と、契約してください!」
「え?」
「私も戦闘妖精です。守人さんと契約すれば、装備が呼び出せますから、それで連絡を取れると思います」
「あー、そうか。ミーシャちゃんは、確かエリルやキャノに近いタイプだっけ」
「はい。ロケットやミサイルなどの誘導兵器、無人兵器が私の担当です」
「それなら、通信関係に強そうだね。でも君は大丈夫なのかい? 体調も悪いみたいだし」
「契約はしたことありませんが、体調が悪くても問題はないです。むしろ、戦闘妖精にとっては、パワーアップになるんで怪我や病気、呪いなんかが治る効果もあるそうです」
「あー……思い当たることが多すぎるなぁ。みんな、肌がツヤツヤするんだよね」
「むしろ、負担がかかるのは守人さんだと思います。すみません」
「いや、いいって。俺も最初に何度かぶっ倒れてからいろいろ調べたんだけど、筋肉を鍛えた時の超回復みたいなもので、ああやって吸われることで、俺の中の指揮力の容量が増えるらしいし。最近は、むしろ……モニョモニョ」
「?」
 守人が口を濁したのは、吸われた後でやたらイロイロと昂ぶる、身体への副作用のことであった。
「そういうことなら、いいか。じゃ、その……やるよ?」
「はい」
 両手を胸の前で組み、ミーシャはおとがいを上げて目を閉じた。まるで修道女が祈りを捧げているようで、この少女の唇を奪うことに守人はためらいを覚えた。
 ――やっぱり、四人と比べると華奢だよな。キャノは小さいけど、ああみえてタフだし……なんか、女の子を騙している悪いお兄さんな気分になっちゃうな。
 しかし、今は他にいい手がない。最悪でも、契約の力でミーシャを元気にできる。
 ――ごめんよ。
 罪悪感を押し込め、守人はミーシャの上にかがみこみ、唇を重ねた。

 ずるっ。

 ――?!

 ずるるっ。

 ――な、なんだっ?!

 ずりゅりゅりゅりゅりゅりゅっ。

 ――何が起きてるんだっ?

 他の四人の戦闘妖精との契約では感じたことのない違和感。そして次の瞬間。まるで底なしの沼に足を踏み入れたような、身体の中の何もかもが吸い取られていくような恐怖に、守人は無意識にミーシャから離れようとした。
 がしっ。
 逃げられなかった。ミーシャの両手が守人の首にまきつき、しがみついている。そしてその間も、契約は続行していた。守人の中から、意識と共に精神力のこ とごとくが吸われ、ミーシャの中に入っていく。すでに一回の演習で四人の戦闘妖精全員に分け与える分の指揮力はとうに吸われている。なのに、ミーシャの底 は、まるで感じられない。どれだけ注ぎ込んでも満たされることがない空っぽの聖杯。
 がくん。
 守人の膝がくずれ、洞窟の床に落ちた。そしてそのまま、仰向けに倒れていく。
 ミーシャは離れない。目を閉じ、唇を重ねたまま、守人に覆い被さってくる。
 ごつん。
 洞窟の床に後頭部をぶつけ、その痛みが消え落ちかけた守人の意識を一瞬だけ覚醒させた。ミーシャとの唇が離れ、契約が終わる。
 消えゆく意識の中で守人が見たのは、祈りを捧げていた時と同じ、あどけなさの残る少女の顔。だが、その唇には、他の戦闘妖精との契約では見たことのない、妖艶な微笑みが浮かんでいた。
 再び守人が目覚めた時、目の前には逆さまになったミーシャの顔があった。心配そうな顔で、じっと守人を見つめている。
「ん……ミーシャ?」
「守人さん。よかった、痛いところとか、ありませんか?」
「ああ。キスしたら、なんかこう……吸い込まれるような感覚があって……」
「私のせいです。私が吸い過ぎちゃったせいで……」
 ミーシャは今こそ、女王の言葉の真意を理解した。『契約するには、まだ早い』のは、ミーシャの側ではなく、守人だったのだ。守人がもう少し成長して己の力を増さなくては、ミーシャとの契約で守人がシオシオになってしまう、という意味で。
「……でも、良かった。守人さん、目を覚ましてくれて」
 ぐすっと、涙ぐむ様子からは、守人が気絶前に見た(?)妖艶さは欠片もなかった。
「ごめんな、かっこ悪いところ見せちゃって。契約もうまくいかなかったし」
「そんなこと、ありません。契約はちゃんとできました。ほら」
 きゅらきゅらきゅら。履帯の音に首を傾けると、旅行用トランク大の箱形のボディに無限軌道を取り付けた車両が洞窟の入口に見えた。
「あれは弾薬運搬車両(ゴリアテ)じゃないか」
 危険な地雷原や障害物に無人で接近し、自爆して切り開く車両である。今は投光器を背負っており、その明かりで洞窟の中を照らしている。外はもう、真っ暗だ。
「はい。洞窟の外には、誘導ミサイルもあります。私、守人さんと契約できたんです」
「良かった。よ……っ、とと」
 起きあがろうとして、守人はふらついた。ミーシャがそっと身体を寄せて支える。ぴとりと吸い付くように重なる肌の感触に、守人の中の獣の部分が滾る。
「うわっ、こりゃまずい」
「そうです。だめですよ、守人さん」
「いや、そっちじゃなくて。この格好でこの体勢だと肌がこすれて……いろいろ、まずい」
「何がどう、まずいんですか?」
「いやその……男にはいろいろ……うひょぉっ」
 守人の足と足の間に、ミーシャの足がするりと滑り込んだ。太股やふくらはぎがこすれあい、守人は情けない声をあげる。
「み、ミーシャちゃん、あの……」
「何も、まずくないんですよ、守人さん」
 ミーシャがにっこりと笑う。あどけなく、愛らしく。そして、捕食者の笑みで。
 しゅばばばっ。しゅばばばばっ!
 猛烈な光と、音。そして煙と熱せられた蒸気が洞窟の入口から吹き込んできた。
 ミーシャが呼び出した誘導ミサイルが打ち上げられたのだ。
 螺旋を描く白い煙の尾を引いて、誘導ミサイルが天高く上がっていく。暗い夜空を切り裂くこの目印を見て、ふたりを探している他の戦闘妖精たちも、すぐに駆けつけるだろう。
 洞窟の中でふたりのシルエットがひとつに絡み合い、床へと倒れたところで。
 弾薬運搬車両(ゴリアテ)の投光器が、消えた。

(おしまい)

『宇宙戦艦ヤマト2199 第1章遥かなる旅立ち』妄想外伝『もうひとりの、ヤマト戦術長になるはずだった男』

2012年4月17日 雑記 No comments , , , , , , , , ,

 大阪のなんばパークスシネマで、ヤマト2199の第1章を見ました。
 たいへん素晴らしい内容で、感動しましたが、同時に、ガミラス高速空母の攻撃を受け、古代と島の足下のドック内で戦死したヤマトセクションリーダー候補たちの無念も感じました。
 表に出ることなく散った彼らの供養のため、妄想外伝を書きました。よろしければ、お読みくださいませ。
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 二週間前、男は宇宙戦艦ヤマト戦術長の内示を受けた。
 そして今、男は宇宙戦艦ヤマト建造ドッグにあるシェルターの中にいる。
「よりによって、健康診断の帰りに空襲警報が鳴るとはな。十分前なら、地下司令部の中。十分後なら、ヤマトの中だってのに」
 豪放磊落に笑う頬に放射線の傷痕を持つ青年は、男の同期で、ヤマト航海長の内示を一ヶ月前に受けている。その同じ時に、男が受けたのはヤマトの砲雷長の内示だった。
 男は狭いシェルターの中を見回した。このシェルターは、空襲に備えてのものではない。ヤマト建造ドッグは地表のすぐ下にあり、大気や土壌の汚染が、浄化しても浄化しても染みこんでくる。汚染が悪化した時に一時的に避難する化学防護シェルターだ。
 そこには、この一年をヤマトの艤装委員として過ごした仲間たちがいた。いずれもが、地球の至宝とも言うべき人材だ。男自身を除いて。
「おいどうした、戦術長。不景気な面して」
 その肩書きは、本来なら男ではない別の人間に与えられるべきものだった。
 古代守。貴公子然とした顔立ちの下に、熱い宇宙戦士の魂を持つ男。あまりに駆逐艦長として優秀すぎ、連合艦隊が手放さなかったのでヤマト艤装委員にこそ 入っていないが、ヤマト計画であれ、イズモ計画であれ、古代守が中核メンバーとなることを、誰もが納得し、そして待ち望んでいた。
 男も一ヶ月前にヤマト砲雷長の内示を受けた際には、古代守の下で戦える期待と興奮で眠れなかったほどである。
「ん、端末広げて何やってるんだ?」
「主砲の自動追尾プログラムの改良だ。先のシミュレーションでいくつか不具合が見つかったからな」
「へぇ、たいしたもんだ」
 ――これ以外に、取り柄がないからな。
 その言葉を、男はぐっと呑み込んだ。航海長は、第二次火星沖海戦の英雄のひとりだ。彼が乗る「こんごう」は艦橋を撃ち抜かれて艦長が戦死、さらに副長 も、砲術長も倒れて先任士官が全滅した中で指揮を引き継ぎ、満身創痍の「こんごう」を生還させたのみならず、巧みな操船でガミラスの戦艦四隻(※デストリ ア級重巡洋艦)を試製「アマ」型反物質機雷に誘導して轟沈する大金星をあげている。「こんごう」の奮戦がなければ、第二次火星沖海戦でガミラス艦隊主力を 撃破することはかなわなかったとまで分析されている。
 しかし、至近距離で爆発した反物質機雷の放つ強烈なガンマ線の余波は頬の傷以上に航海長の体内を蝕んでいる。おそらく彼の余命は数年とないだろう。そんな航海長の前で、自分を卑下する情けない真似はできなかった。
「ちょっと、ふたりとも。やばいわよ、これ」
「ん? なんだ船務長……て、おい。なんでヤマトの情報系にアクセスしてんだよこの女は。保安部にしょっぴかれるぞ、おい」
 航海長が目をむいた。男も絶句する。ヤマト計画は超極秘計画だ、たとえ艤装委員で、ここがドックの内であっても、外からヤマトの情報系にアクセスすることは許されていない。士官学校時代から“電子の妖精”と呼ばれた船務長の技量は、さらに向上しているようだ。
「うっさいわね。ばれなきゃ犯罪じゃないのよ」
 船務長は、可愛らしい顔に似合わない伝法な口調で言った。
「それより、これを見て。衛星軌道にガミラスの高速空母が来てるわ。しかも大気圏内に降下している」
「何? 一隻でか? くそっ、狙いはヤマトか!」
 航海長が頬の傷痕を歪ませた。
 第二次火星沖海戦の後、ガミラスは地球への艦隊侵攻を諦め、冥王星からのロングレンジ攻撃に切り替えた。その後の偵察やピンポイント爆撃は、高速空母を使った一撃離脱のみ。
 だが、地球大気圏に降下すれば、いかな高速空母でも空気との摩擦で出せる速度は限られる。いまだ十分な力を保有している防空隊の迎撃を受け、撃沈されることも覚悟の上ということだ。
 そこまでガミラスの艦長に覚悟させるほどの標的は、ヤマトしかない。
「くそっ、こうなったら規則を遵守してる場合じゃねえ! シェルターを出てヤマトに――」
 航海長の言葉を、重い衝撃と震動が遮った。
「うわっ」
「きゃあっ」
 男は素早く船務長をかばい、床に伏せた。男の背中に、落ちてきた機材がぶつかる。自らの痛みをこらえ、男は船務長のきゃしゃな身体に傷がないか確認する。
「大丈夫か?」
「あ……ありがと……」
 船務長が礼を言う。非常電源に切り替えたシェルターのオレンジ色の灯りの下では、普段は口やかましい船務長が頬を染めているようにも見える。
 ――ま、そんな殊勝な女じゃないのは、士官学校時代からの付き合いなんで分かってるが。
 何しろ、校内の女性全員が熱をあげていた古代守にすら、興味を示さなかったのだ。
「くそっ、爆撃か。いよいよまずいな。すぐにヤマトに行くぞ」
「待てっ!」
 男は航海長の肩を掴んだ。
「止めるなっ!」
「まずは外の汚染状態を確認しろ! 今の爆撃でドッグ内が汚染されている危険がある!」
「え? あ――ええいっ! なんてこった!」
 航海長がシェルターの壁を殴る。外の汚染数値は防護服なしでは一分と保たないレベルにまで上がっていた。
 男は続いて船務長に向き直った。
「俺の端末と接続してくれ。ヤマトの情報系、アクセスは維持できてるな?」
「う、うん。できたわ、どうするの?」
「ここからヤマトの主砲を動かす。戦闘空母をヤマトの主砲で沈めるんだ」
「ば――おい――」
 船務長が口をぱくぱくさせる。
「言いたいことは分かる。こいつは、ばれなきゃ犯罪じゃないどころの騒ぎじゃない。ヤマトの主砲を動かせば、ヤマトの存在は確実にガミラスに明らかにな る。すでにヤマトの存在がバレているとしても、主砲を動かせばそれだけでヤマトの作業進捗状態や性能を分析するデータを敵に与えることになる。そんなこと はせず、防空隊が戦闘空母を沈めるまで待つのが現時点で最善である可能性も高い」
 男は状況を早口で説明した。
「それでも、俺はヤマトの主砲で高速空母を落とすべきだと判断する。なぜなら、最悪の場合、ヤマトは発進できぬまま、ここで破壊されるからだ。今防ぐべきは、その最悪だ」
 防空隊の戦力とガミラス高速空母の持つ戦力。両者を比較し、動きと戦術を組み立てた結果、男は、防空隊では間に合わない、と判断した。
「……分かった。俺にできることはないか? おっと、保安部うんぬんはなしだぞ? こうなりゃ、スパイ容疑で銃殺刑になるとしても一蓮托生だ。船務長もいいな?」
「は? 今さらになってバカ言ってんじゃないわよ。もうすでにヤマト内部の情報系のプロテクト、全部あたしが落っことしたんだから。銃殺の一番手はあたしよ」
 男が航海長に説明している間、船務長の指は止まることなく動き続けていた。今やヤマトの情報系は丸裸も同然、どのようなコントロールも、このシェルターの中から可能となっている。
「ありがとう。やってくれると信じてたよ」
「うっさい。いいからさっさとやる! 司令部もとっくに気付いて攻勢防壁がんがん飛ばしてきてんだから、長くは保たないわよ」
「分かった。動かせる主砲は一基だけだな――波動エンジンが動いてないから、陽電子衝撃砲は撃てない。となると、相手が高速空母なら、三式融合弾の方が確実だな。第一砲塔には三式融合弾を試験のために運び込んであるから――よし。艦内のエネルギーを第一砲塔に向けてくれ」
「あいよ……うお、コスモタービン、出力あがらねぇ。しょうがないな、電力をドッグ内の工作機械からちょろまかして……と」
「早く早く! 司令部のバカ、ヤマトの情報系を直接狙ってシステムダウンさせようとしてるわ。ええいっ、こうなったら司令部の情報系、こっちからぶっ壊してやろうかしら」
「いや、もういい。終わった」
「え?」
「すでに命令はすべて終わっている。後は艦内から手動で止めない限り、主砲は高速空母を自動追尾して、三式融合弾を撃ち込む。そしてその手動での操作が可能な人間は、今はヤマトの中にはいない。何しろ、ここにいるのだからね」
 おどけた調子で肩をすくめてみせると、航海長がげらげらと笑った。
「たいしたもんだよ、戦術長! やっぱり、お前と組めて正解だ。船務長もそう思うだろ?」
「私はそんなこと、とっくに気付いてたわよ。こいつはね、自分に自信がないだけで、本当は、誰よりスゴイんだから!」
「え?」
 男は、船務長の顔を見た。船務長がしまった、という表情をする。航海長が、ニヤニヤと笑いながら、男と船務長の肩を叩こうとする。

 次の瞬間、戦闘空母からの攻撃が、爆撃によって開いた隙間からシェルターを直撃した。
 防護服を着た救急隊員がシェルターの中を確認した時、三人の遺体はひとつに固まっていた。
 救急隊員のひとりは、固く抱き合う戦術長と船務長を、かばうかのように航海長の身体がおおいかぶさっていたと、同僚に語っている。
(おわり)

俺の母親がこんなに(仮題 10

2012年2月4日 俺の母親がこんなに No comments , , , , , , , ,

10)
『ルー、ティオ、ゴルちゃん、モノちゃん。元気かしら』
 どこかの帰りらしく、帽子を脱ぎながら母さんは言った。
 一ヶ月ぶりに見る母さんの姿は、いつものように愛らしく、魅力的で、家庭の持つ温かさと親しみを感じさせながら蠱惑的でもあり……とにかく、最高だった。
「あの鳥の羽がついた帽子、なかなか良いセンスですわね。少し子供っぽいですが……まあ、おばさまなら……」
「羽根の形状からして、水鳥と思われる。色は魔術による染色」
「ボクもあんな帽子が欲しいなぁ」
 後ろに並ぶ三人の言葉を右から左へと聞き流す。何しろ一ヶ月分の母親成分を使い魔のカラスが結ぶ画像と音声で補充しなくてはいけないのだ。
『……ちゃんと記録してる?』
 母さんが手を伸ばしてぺしぺしと使い魔のカラスの頭をたたいた。画像が大きく揺れる。
『どうも心配だなぁ。母さん、こういうの苦手なのよね。一緒に手紙を結わえてあるから、大丈夫だとは思うんだけど……』
 大丈夫だよ、と言いたいところだが、それを二日前の母さんに伝える術はない。
 ガレー船の上甲板に描かれた魔法陣の上に母さんの姿が浮かぶ。空に月はなく、星空だけが広がっている。使い魔が見た映像の再生は陽炎のようなもので、暗いところでなくてははっきりと見えない。
『それでね。良いニュースと、良くないニュースとがあるの』
 母さんが、料理に失敗して食材を駄目にした時しか見せない憂い顔になる。俺は母さんを慰めようと映像に手をさしのべてしまい、ぺしり、とゴル姉に手を叩かれる。
「幻影魔術に衝撃を与えては駄目ですわよ、ルー」
「お触り禁止」
「ボクなら触っていいよ、お兄ちゃん」
 ガレー船での騒動を知る由もない母さんは、こつん、と自分の頭を軽く小突いた。
『ごめん、母さんがこんな顔してる場合じゃないわね。良いニュース……と言えるかどうか分からないけど、モノちゃん家に、“巨人殺し(イッスンボウシ)” を持ち込んだ連中の正体が分かったわ。乱破(らっぱ)よ。それも、かなり裏で悪いことをしていた奴ら。暗殺や火付けなんかね』
 乱破(らっぱ)というのは雇われ忍者だ。忍者だからと言って非合法活動ばかりではないが、金で雇われる連中の中には、謀略を得意とする者がいる。“巨人 殺し(イッスンボウシ)”を餌に、巡回裁判所という公的な機関まで利用してサイクロプス族を追い込もうとしていた手際から、ただ者ではないと思っていた が、案の定だった。
『警備隊長さんが、誰がやったか知らないけど、その首領格を殺した犯人には礼を言いたいくらいだ、って』
 後ろでモノが大きく溜息をつく。
 もちろん、警備隊長も犯人が誰かは分かっているだろう。さらに、俺が気付いたくらいだからモノの一族がはめられそうになった裏の仕掛けも、あらかたは見抜いているはずだ。
 その上で、母さんや周囲にそのような言い方をしているということは、この問題をあまり大きく扱うつもりはない、という意思表示だ。
『でも、雇い主の方はやっぱり、諦めてなかったみたい。これが悪いニュースよ。あのね、落ち着いて聞いてね――第二種の動員令が出たの』
「動員令ですって?!」
「どーいんれーって何だっけ?」
「兵隊を集める命令のこと。バラスでは町内会や職業組合(ギルド)ごとに、人数割り当てが決まっている。第二種なら、かなり多い」
 良く分かっていないティオに、モノが解説している。三人とも、かなり動揺しているようだ。
 俺はというと、あまり動揺していなかった。サイクロプス族に選帝侯を巡回裁判所に提訴させるのは、手間と金がかかっていても、あくまで口実作りでしかな い。本音は、帝国南部に騒乱を引き起こすことであろうと考えていたし、ならば、モノがサイクロプス族への陰謀を防いだところで、背後にいる連中は他の手を 考えるだけだ。
『お父さんも、遊撃隊の隊長で召集されたわ。それで……え? ちょ、ちょっと待って! すぐに支度するから!』
 母さんが、横を向いて、隣の部屋にいる人間――親父――に言った。
『時間がないから、着替えながら話すわね』
 は?
 母さんの言葉が脳に染み渡る前に、母さんが上着のボタンを外しはじめた。
「ちょっ、あっ、母さんっ! 何やってるんだっ!」
「ルー、動揺しすぎですわ。上を脱いだだけでしょう」
「大事な話だからふざけない」
「着替えるって、どこか行くのかな?」
 ここは視線をそらすべきなのだろうが、俺の目は広がっていく肌面積に吸い寄せられて離れない。
『騒乱のきっかけは、巡回裁判所が襲われたことだったわ。場所はバラスの町の境界線ぎりぎりだったから、彼らの保護はバラスの責任なの。それで、リオン侯 爵がバラス領主を辞めて責任を取り、変わってラマンド選帝侯が新しい領主になったわ。あらかじめ筋書きを用意していたかのように、あっさりとね』
「やはり、裏があったようですわね」
「巡回裁判所を襲わせるのは、予定通りと見た」
「モノ姉、予定通りってどういうこと?」
「もしキュクロス家がラマンド選帝侯を告訴しても、その訴えは政治的影響を考えて却下された可能性が高い。そしてその結果に納得できないキュクロス家が、巡回裁判所を襲えば、悪いのはキュクロス家という大義名分ができる」
「そういうことですわ。キュクロス家を巻き込むことができなかったので、次善の策として巡回裁判所を襲わせて難癖つけたのでしょう」
「ということは、これで終わりじゃないんだね」
「そう。これからが本番」
 俺は黙ったまま考えていた。
 ゴル姉が言うように、母さんは裸になったわけではない。脱いだのは上着だけで、下着はつけたままだ。なのに、裸よりもいかがわしく見えるのはなぜだろ う、と。服を脱ぐ、という行為そのものがエロスを感じさせるのもあるだろうし、身体をひねったり腕を動かすことによって肌の見える場所が違ってくることも 関係あるのかもしれない。猫が転がるボールに興味を示すように、狩猟・採集型の動物は獲物の動きに敏感なのだ。
 獲物? いや待て。落ち着けルードヴィヒ。お前は今、何を考えていた。たとえ妄想とはいえ、愛する女性を獲物と考えるなど、どうかしている。
『バラスは帝国の領主を持つけど、自治都市よ。領主の交代には、手続きとして、民会の承認がいる。それまではたとえ選帝侯であっても勝手はできない決ま り。でも、ラマンド選帝侯はすぐに警備隊長の更迭や民会の解散を命令してきたわ。従わない場合には、兵を持って鎮圧する、ってね。もうみんな、プンプン よ』
 母さんは長櫃を引っ張り出した。使い魔のカラスの目には、床にしゃがみこんだ母さんの背中からお尻のラインが映っている。もうちょい、左に寄れば、後ろからの構図が――
「ルー。この映像は使い魔の目で見たもの。後ろに回り込んでも、下からのぞきこんでも別のものが見えたりはしない。何より、すごくみっともないからやめて」
「まったく、おばさま相手だと理性も思慮も吹っ飛ぶのは昔から変わりませんわね」
「お母さんが一番の強敵だよね」
『んしょっと。都市運営委員長のカゴメお婆ちゃんが、交渉引き延ばしの時間稼ぎと帝都への根回しを始めたんだけど、硬軟どっちも必要だろうって、第二種の動員令も出しているってわけ』
 母さんが長櫃の中から取りだしたのは、修道闘士(モンク)の道着だ。親父と結婚して正式には引退しているが、母さんは今でも素手でケルベロスを殴り倒せる強さを持つ。
『ん……しょっと。う、ちょっと太ったかな……いや、そんなことないよね。元々、身体を締め付ける道着だし』
 身体の要所を聖別された拘束具で締め、その間をベルトで繋ぐ。傍目には緊縛しているように見えるが、修道闘士(モンク)はこの道着の補助を受けて気脈と力の流れを作る。半歩の踏み込みだけで暴走する牛をも止める当て身が可能になるのだ。
 ……が、それにしてもちょーっと食い込みすぎな気が。
「おばさまの道着、いったいいつ頃のかしら」
「結婚前、ということはルーが産まれる前なので、十八年くらい?」
「ボク、前に聞いたことあるよ。お母さんが十五才で聖堂付き修道闘士(テンプルモンク)の資格を得た時に、教区管区の司教様がプレゼントしてくれたもので、すっごい高いんだって」
「十五才! それで太ももがあんなことに……」
『よし! お父さんと一緒に母さんも遊撃隊として出ることになったの。でも安心して。本格的な戦争にはならないはずよ。ラマンド侯は近在の領主にもバラス 懲罰の声をかけてるけど、どこも様子見しているわ。ラマンド侯単独ではお金も兵力もないから、山賊紛いの傭兵を送り込んで来るのが精一杯だろう、っていう のがお父さんと警備隊長さんの判断よ。だから、あなた達はこの戦いの決着がつくまでもうしばらく、海で待機してて。大丈夫、母さんは強いんだから!』
 えっへんと、腰に手を当てて母さんが胸を張る。
「「「「あ」」」」
 映像を見ていた四人の声が和声する(ハモる)。
 成長した身体を限界まで締め付けていたことで、何もしないでも気脈が帯の間をぐるぐる回っていたのだろう。母さんの腰に手を当てる最後の仕草が溜まりに溜まった力にひとつの方向性を与えた。
 ばちんっ。拘束具を結ぶベルトが一斉に弾けて飛んだ。上に羽織った布も、下に着た肌着も、その衝撃の犠牲となる。
『え? きゃっ……きゃーっ!』
 真っ赤になった母さんは肌を隠そうとするが、はっと気付いてこちらに――カラスの使い魔を掴む。次の瞬間、カラスの視点は町の上空。神殿の尖塔よりも上の場所にあった。
 そして映像が途切れた。夜の暗闇がガレー船の甲板を覆う。
 俺は黙って目を閉じた。今の一瞬の映像を、短期記憶から長期記憶へと保管しなくてはいけない。すべてはその後のことだ。

(つづく)