この春から公開予定の『宇宙戦艦ヤマト2199』。リメイクされた新たなヤマトの第1話冒頭10分が、バンダイチャンネルで期間限定で配信されている。
密度の濃い映像に、蛇足を承知であれこれSFネタ解説と、ついでに妄想考察を入れてみよう。
1:「ゆきかぜ」の役割
先遣艦「ゆきかぜ」は第1艦隊に先行して、冥王星に接近している。
「ゆきかぜ」の役割は、敵(ガミラス)の動きを確認し、第1艦隊が安全に冥王星まで到達できるよう、水先案内人を務めることである。
この時、「ゆきかぜ」は無線通信ではなく発光信号(ビームを絞ったレーザー照射?)で後続の第1艦隊に敵影を確認せず、と伝えている。
それは第1艦隊が「無線封鎖」をしていたためだ。
「無線封鎖」とは、敵の逆探知を避けるために電波の発信を控えることである。通信だけではなく、レーダーの使用も禁止される。
遠距離の敵を探るには本来はレーダーが便利だ。だが、レーダーは電波で周囲を照らし、その反射で敵を浮かび上がらせるため、敵がレーダー波を探知するセ ンサを備えていれば、自分がここにいることを知らせるはめになる。いわば、レーダーを点けたままで冥王星の近くに行くのは、闇夜の中で懐中電灯を持って敵 地へ近づいているようなもの。懐中電灯の明かりで何かを細かく識別するには、かなり近づかないといけないが、誰かが懐中電灯を持って近づいてきている、と いうのは冥王星にいるガミラスからは丸見えになる。
ここから先は妄想であるが、先行する「ゆきかぜ」は、画面の外に、電波、赤外線、あるいは重力波のための巨大な受信アンテナを有線で曳航していた のではあるまいか。アクティブな波を出すレーダーと違い、赤外線や重力波はパッシブであるから、己の存在を敵にさらす危険が少ない。偵察衛星の配置など、 敵基地がある冥王星の防衛状態を確認するためにも、先遣艦「ゆきかぜ」には使い捨ての曳航アンテナがあるとうれしい。(私が)
2:待ち伏せされた第1艦隊
だが、ここまでしても第1艦隊はガミラスの待ち伏せと迎撃を受ける。
艦種識別画面では次のように読める。
『ガ軍超弩級宇宙戦艦』1(シュルツの旗艦?)
『ガ軍宇宙戦艦』7
『ガ軍宇宙巡洋艦』22(読み上げは、『ふたじゅうふた』)
『ガ軍宇宙駆逐艦』89~(多数)
特にここで注目したいのが、『超弩級1』である。旧テレビ版と同じくガミラスの冥王星基地司令シュルツが乗る旗艦がこの時点で1隻しか冥王星に配備されていないのだとしたら、これは偶然パトロールしていたガミラス艦に見つかった、というレベルのものではない。
ガミラスは、明らかに第1艦隊の動きを把握し、全力で迎撃に出てきたのである。1隻も逃さず殲滅するつもりで。
ガミラス艦隊の動きからも、それは伺える。ガミラス艦隊は、正面に浮かぶ冥王星から迎撃にやってきていない。「右舷、40度」つまり、側背から追いかけ て合流するかのように接近している。艦隊同士の相対速度はゼロに近く、第1艦隊がどっちの方角に逃げようとしても、無理なく追随できる「同航戦」の状況に 持ち込んでいる。
相手の動きを見切り、戦力を揃えた圧倒的な優位こそが、「直ちに降伏せよ」という余裕綽々の通信となっているのだろう。
3:「アマノイワト開く」――囮となったオザワ……じゃなくて沖田艦隊
続く戦いは、ガミラスが予想していた通りに進む。冥王星までたどりついた第1艦隊は、ガミラス艦隊にまるで歯が立たず、次々と轟沈していく。一方的な殲 滅戦。まるで日露戦争の日本海海戦(ツシマ海戦)におけるロジェストヴェンスキー率いるバルチック艦隊(第2太平洋艦隊)もかくやの無惨さである。
だが、沖田は自らの家族とも言うべき乗員と地球にとってもはやかけがえのない虎の子の艦隊が屠殺される中、じっと耐え、待ち続ける。
何を? 「あまてらす」からの入電を、である。
そして入る通信。太陽系の外からの飛行物体(イスカンダルの連絡船)が海王星軌道を通過したというのである。
2199年時点の太陽系の惑星配列では、冥王星と海王星は、何十億kmも離れている。なぜ、そんな遠くを通過して太陽系に入る宇宙船が大事なのか?
ここで、この冥王星会戦(ネ号作戦)の真の姿が明らかになる。
国連宇宙軍と沖田司令は、人類に残された最後の艦隊をこの一戦ですり潰す覚悟を決めて、イスカンダルからの宇宙船がガミラスの哨戒網をくぐり抜けられるよう、陽動にでたのである。戦史でたとえるならば、レイテ沖海戦における小沢艦隊のように。
そして彼らはこの無謀な賭けに似た作戦に成功した。
ガミラスは太陽系に配備された艦隊戦力の全力でもって第一艦隊に対する迎撃を行い、イスカンダルからの連絡船を見逃してしまったのである。
4:火星の回収要員
イスカンダルの連絡船が目指す星は、火星である。
これは、冥王星会戦のあるなしに関わらず、地球にはこの時点でガミラスの偵察部隊が常時貼り付いているからと思われる。おそらく、偵察にも爆撃にも使え るマルチロールな宇宙戦闘機を搭載した戦闘空母がローテーションを組んで地球周辺を警戒しているのだろう。イスカンダルの連絡船は非武装で、発見されれば 簡単に撃墜されてしまう。だから、イスカンダルからの連絡船が到着するのは、ガミラスとの戦闘で死の星となった――それゆえに、ガミラスも警戒していない ――火星と最初から決められていたのだと考えられる。
ここまでの展開や登場人物の言動から、ヤマト2199が、最初のヤマトと導入部分を大きく変えていることが分かる。イスカンダルからの連絡と援助は、こ れが最初、というわけではないのだ。すでに何度か無人機でやりとりが行われており、ある程度はイスカンダルを信用できる交渉相手と認めている節が伺えるの である。波動エンジンやワープ機能を搭載したヤマトの建造も、無人機で伝えられたイスカンダルからの事前情報で行われているのだろう。
火星の回収要員は、古代進と島大介のふたりである。「3週間前に落とされた」と会話にあるように、カプセル型の居住基地を宇宙船から分離(冥王星へ向かう途中の第1艦隊から?)してそこで待機していたのだろう。
通信カプセルを手にして「これか」と島大介が言ってるが、ブリーフィングでイスカンダルについての基礎情報はふたりとも得ているからか、ためらうことや、とまどう場面がない。テンポが良く、好印象。
以上、第1章冒頭10分を見ての『宇宙戦艦ヤマト2199』のSFネタ解説である。
もちろん、これは私が映像を見ながらあれこれ妄想したもので、実際には違う可能性があることを、お断りしておく。
それにしても、こんな立派なものが、期間限定とはいえネット配信される時代になるとは良い時代になったものである。