●チョークポイントとしての海峡
南西諸島海域を落とし、北方海域と西方海域への道が開かれた。
この、ある海域を制圧したら別の海域へ行けるようになった、という流れは戦略上重要なチョークポイントである海峡(NarrowSeas)をユーザー艦隊が制圧したから、と考えることができる。
明治になり、近代国家となった日本にとって最初に国家戦略上重要なチョークポイントとなったのが、対馬海峡である。大陸に侵略するにせよ、大陸か ら侵略されるにせよ日本列島と大陸との距離がもっとも短くなる対馬海峡は重要なチョークポイントであり、ここを日本に敵対する勢力に制圧されれば、著しく 不利になる。日清戦争、そして日露戦争は、日本の国家防衛という視点で言えば、対馬海峡を日本が確保し、日本列島を“より安全”にすることが最大の目的で あったと言える。
逆に言えば、日露戦争におけるロシアの目的もまた、この対馬海峡を大陸側から制圧する朝鮮半島を自国の影響力に置くことだった。当時、ロシアはウラジオ ストックと旅順の二カ所に海軍基地を建設できていたが、朝鮮半島が日本側の勢力圏にあったことでこのふたつは分断され、その力を著しく弱められていた。こ れは、当時の軍艦が石炭焚きで、太平洋側をぐるりと遠回りするだけの機動力がなかったからでもある。もし朝鮮半島、そして対馬海峡をロシアが支配したとこ ろで日本を植民地にするほどの余力はなかったろうが、本土が“より危険”になった日本がロシアの影響を無視できず、その動向に引きずられるようになったこ とは間違いない。軍事力の使い方の基本は抑止力であるが、この抑止力には
「ワシに逆らったら、どうなるか、ようよう考えた上で判断せえよ」
という、相手がこちらの利益を無視して好き勝手な行動することを“抑止”する意味合いが強い。国家レベルでやることというのは、民間レベルで考えればヤクザの手口とあまり変わりはない。少なくとも“抑止”される側にとっては、そうだ。
世界に冠たる大英帝国もまた、世界中にあるチョークポイントを己の勢力下に置くことで、その支配力を拡大してきた。地中海の西の出口であるジブラ ルタル海峡、東の出口であるスエズ運河は英国海軍のコントロール下にあった。北にある黒海はロシアのものだったが、黒海から地中海への出入り口であるボス フォラス海峡はトルコの勢力圏にあり、イギリスはトルコが自分の味方になることがなくとも、ロシアの味方にはならぬよう気を配っていた。
インド洋から太平洋への出入り口にあるシンガポールもまた、長くイギリスの至宝であった。東南アジアは無数の島が存在するが、特に海に突き出るように なったマレー半島と、スマトラ島に挟まれたマラッカ海峡は、21世紀の現代においても海運の大動脈である。この太平洋側の出口を塞ぐシンガポールに、イギ リスは海軍基地を置いて一帯を勢力圏に置いたのである。
〈雷〉「はい提督! 質問があるんだけど!」
何かね〈雷〉くん。
……どうでもいいけど、そうやって〈電〉たち第六駆逐隊が机並べてると、小学校っぽくなるな。
〈暁〉「一人前のレディに向かって小学生なんて、失礼しちゃうわ」
〈響〉「ま、遠征任務よりは勉強の方が気楽でいいね」
〈電〉「いつもは駆逐艦娘でローテーションしてるのです」
そろそろ、遠征任務以外で育てる方法も考えないとなー。で、質問はなんだ?
〈雷〉「私たちが、南西諸島海域の敵艦隊を撃破したことで、南西諸島海域から北方海域、西方海域につながる海峡が制圧できたってコト?」
うん。ゲーム的には、艦これは海軍のゲームだ。プレイヤー提督が艦隊決戦で勝利して航路を安全にした後、輸送船が陸軍部隊を上陸させて、海峡を扼する島や基地を占領したんだろう。
ただ、これはオフィシャルではなくて、私が推測したことだからね。
〈雷〉「西の海にはカレーや紅茶があるから重要なのは分かるけど、北の海に行ってもいいことはないような気がするわ。寒いし!」
そりゃあね。けど、これは現実の方の地球での話だけど、北極の氷が溶けて小さくなってくることで、北極海航路というのが脚光を浴びている。これま で閉ざされて航路としては使えなかった北極海が、気候の変化と、衛星などを利用した氷や海流の監視能力の強化で、経済的に見合う航路へと変化していきつつ あるんだ。
環境とテクノロジーの変化によって、それまで重要でなかったものが、重要になることがある。北方海域も、そういう風に見ることができるかもしれないね。
……いかん、口調まで教師っぽくなってしまった。
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