●高速と低速について
 艦これには、足の速い高速の艦娘と、足の遅い低速の艦娘がいる。
 足が遅い代表が、戦艦&航空戦艦だ。
 〈扶桑〉〈山城〉〈伊勢〉〈日向〉は、いずれも最高速度が22~25ノット(時速45km)ほどである。
 対して、高速戦艦の〈金剛〉〈比叡〉〈榛名〉〈霧島〉はというと、こちらは最高が30ノット(時速55km)である。
 自動車の速度でいくと、時速45kmと時速55kmには、あまり差がないように見えるが、道路に沿って走る自動車と違い、どこまでも平たい海のどこを 走ってもいい艦船では、この10kmの差が、どうしてバカにできない。赤信号も渋滞も坂道もないので、移動力のちょっとした差が位置取りの重要な差になっ て現れるようになるのだ。

 第二次世界大戦での戦艦同士の戦いというのは、1万mも2万mも離れた敵と打ち合うことになるので、百発百中とはいかない。

〈金剛〉「1分後には、あそこらへんにいる敵にファイヤー!」

 という風に、お互いの動きを読みながらの砲撃戦となる。
 だから、一発必中を狙うのではなく、何門もの主砲から同時に発射する。

〈伊勢〉「主砲、6基12門、一斉射!」

 これは12発の砲弾で敵艦を包み込み、そのうちの1発か2発かを命中させようという射法である。
 主砲は、細長い軍艦のあちこちにあるから、一番良いのは敵に側面を向けてたくさんの主砲を同時に敵に発射できるようにすることである。逆に、敵の側面をこちらに向けさせることがなければ、敵は少ない主砲で砲撃戦をせざるを得ず、砲撃力が低下する。
 そして敵味方がお互いにちょっとでも相手に有利な位置を取ろうと場所争いをしている時には、わずかな速度差がじわじわと効いてくる。遅い側は、だんだんと行動を制限され、不利な位置へ、不利な位置へと追い込まれていくのだ。

 また、各艦は火力を集中する意味もあって各艦がばらばらに行動せず、陣形を組んで艦隊行動を取る。単縦陣は一般的な砲戦用の陣形で、輪形陣は空母 を他の護衛艦で囲んで敵機を近づけないための陣形だ。陣形を維持するためには、他の艦と速度を合わせなければならず、艦隊内に低速艦がいると、それに合わ せて全体の速度が落ちてしまう。高速艦と低速艦を混ぜて運用すると、そういう問題も出るのだ。

〈扶桑〉「レイテ突入では、それで私たちだけ、別働隊だったんです。でも、スリガオ沖で……うう」
〈山城〉「夜戦の混乱の中で、姉様ともはぐれてしまって……ぐすっ」

 まずい、ふたりのトラウマスイッチが。
 えー、大砲よりもさらに発射角度や射程が限られている魚雷戦にいたっては、位置取りこそすべて、とさえ言える。駆逐艦や軽巡洋艦が、普段の巡航速度はさほどでなくとも、短距離選手のように海戦の時には高速を発揮できるよう設計されているのも、このためである。

〈夕張〉「うん……そうよね。駆逐艦の艦娘たちが、最高で35ノット出せるのに、それを率いるあたしだけ30ノットとか、何のための引率役やら……」

 しまった、今度はこっちかい。

〈島風〉「島風には誰も追いつけないよっ!」

 だから、お前ひとりが速くてもダメなんだってば!