●日本海軍は通商破壊が苦手
艦これでは、毎日、あるいは毎週発生する任務がある。
これをデイリー/ウィークリー任務と呼んでいる提督は多いだろう。
提督の朝は、一杯のコーヒーと、デイリー開発の運試しで始まる。
デイリー任務の多くは、ルーチンである。
今日はちょっと奮発してレア艦の建造を狙ってみようかとか、そういうことはあるが、ほとんどは毎日同じようにやれば、同じような結果が出てくる。
その中で、思うようには進まないものが、ひとつある。
敵の補給船を3隻沈めろというデイリー任務だ。
補給船を狙う場合、南西諸島海域のバシー島沖(2-2)、あるいは東部オリョール海(2-3)に艦隊を派遣する。
が、どちらもルーレットがくるくると回る海域であり、運が悪いと補給船と遭遇しない。
この海域でpixivであがっているヒコロウさんのイラストのような目に遭った提督は多いだろう。こちら
〈北上〉「でもさー。補給船を狙うのに戦艦や空母を持ち出すのもアレな気がすんだけど。こういうのって、潜水艦のお仕事じゃない?」
確かに。通商破壊作戦というのは、対象が商船だから、それほどの攻撃力は必要とされない。全40門の魚雷発射管も必要ない。
〈北上〉「うわ、藪蛇。英語で言えばブッシュスネーク。まさか提督にこんな無体な仕打ちを受けるとは。無体すなわちノーボディ」
なんでそこを英語にするんだ。そして、そこまで言われるほどのことか。
ともかく、補給船狙いの通商破壊は、普通ならばたいした攻撃力が必要とされない。
しかし、補給船が船団を組んで護衛艦隊を連れていれば話は別だ。
〈北上〉「艦これだと、補給船狙いでも戦艦や空母連れていくよね」
護衛が強力だからな。けれど、実際の戦いでは護衛も、襲撃も、担当するのは巡洋艦のお仕事だ。帆船の時代にはフリゲートと呼ばれていた艦だ。
〈北上〉「フリゲートかー。どんな艦?」
ある程度の航続距離があって外洋を航行することができ、高速で、大砲もそれなりに搭載している艦だ。なんでも出来る艦だな。
〈北上〉「器用貧乏ってことか。でも、あたしら日本の巡洋艦は船団護衛や通商破壊が苦手っぽい印象があるけど?」
まったくもってその通り。日本海軍にとっての巡洋艦は、小型の戦艦だ。
遅れてきた海軍国である日本は、明治に入ってからも戦艦をたくさんそろえるなんて贅沢な艦隊編成はできなかった。日清戦争の時に『三景艦』として〈松 島〉〈厳島〉〈橋立〉という三隻の巡洋艦を建造(2隻はフランスから購入)したけれど、これには、わざわざ艦の大きさに不似合いな、32cm砲を搭載して ある。艦隊決戦に備えて砲撃力をとにかく高めたかったんだ。
〈北上〉「まさかの私のご先祖様が。大きさに不似合いって、どのくらい?」
排水量4200トン。艦これだと、軽巡洋艦だな。
〈北上〉「それに32cmは無茶だなー」
うむ。実戦では、口径が小さくともたくさん発射できる速射砲が役に立ったくらいだ。
しかし、国力の関係から十分な数の軍艦を揃えることができない日本では、以後も、重火力型で、砲雷撃戦に特化した巡洋艦が設計される。
〈足柄〉「私を呼んだかしら? 砲雷撃戦なら得意よ!」
〈夕張〉「小型の船体に装備を詰めるだけ詰むのはロマンよね」
〈北上〉「はー、なるほど。私と〈大井〉っちの重雷装艦だけじゃないんだ」
武装をたくさん搭載しすぎてバランスが悪くなった日本の巡洋艦や駆逐艦は、第四艦隊事件で船体強度の不足が露呈する。
しかし、そもそもの始まりは、近代日本が国の大きさに不似合いな海軍力を整備しようとしたことにあるんだ。
〈北上〉「それが、船体の大きさに不似合いな武装を搭載した巡洋艦になったってことね。あ、でもこれって戦艦や空母にも言えるの?」
ある程度はね。日本の国力では海上護衛と通商破壊に重点を置いた長期戦に追い込まれたら勝ち目がないから、来寇する敵艦隊との短期決戦に絞って海軍力を整備した。
戦艦も空母も、長期間にごりごり消耗するのではなく、短い戦いで決着をつけることを前提としていた。空母が敵の攻撃に脆かったり、航空部隊が戦いで消耗した後で再建が難しいのも、そこまで予算と人手をかけられなかったからだ。
〈北上〉「へー。でもそれって、そんなに間違ってる考えじゃないよね?両方やろうとして失敗するよりはさ」
そう。間違っていたのは、短期決戦で勝敗が決まるという前提部分だ。
〈北上〉「前提部分で!だめすぎる!」
ただ、長期戦になったら消耗したあげく敗北するから、そっちは捨てるという部分は正しかった。
〈北上〉「なんとかならない?」
ならない。これはもう、日本の立地の問題だ。
通商破壊で苦しめるにはアメリカもイギリスも遠すぎて手に負えない。
海上護衛で守りきるには、日本が守るべきエリアは広すぎて、これまた手が回らない。
Civilization4的にはワールドビルダーで立地を何とかしないと詰むレベルだ。
……あ、ひとつだけ手があった。
〈北上〉「ナニ? もったいぶらないで教えてよ」
Hearts Of Iron2ではよくある展開だけど、明治維新あたりから政治レベルで組み直して、日清戦争も日露戦争も満州事変も日中戦争もなく、英米と敵対しないなら問題ない。太平洋戦争は起きないから、短期決戦も長期戦もない。戦わないから負けない。
〈北上〉「戦わないで勝利かー。孫子の兵法的にいいんじゃないかな」
でもその場合、ほとんどの艦娘が必要ないので作られない。その並行世界だと、お前と〈大井〉は真っ先に消えるぞ。
〈北上〉「あうー、そういうオチかー」
艦娘の魅力のひとつは、戦略レベルでの失敗や錯誤を軍艦の設計で何とかしようとした、必死さ、健気さにあるんだ。いいからもう一回、バシー島沖行ってこい。今度はルーレットで迷うなよ。
〈北上〉「ほーい。重雷装艦〈北上〉出動するよー」
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そして、しばらくの後。
〈北上〉「いやー、今度は敵の主力艦とぶつかっちゃってねー。そのかわりS判定で勝って〈最上〉んゲットしてきたから。3隻目だけど」
あうー、そういうオチかー。
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