宇宙戦艦ヤマト2199に出てくるギミックや台詞を元に妄想をたくましくしていくSFネタ解説シリーズの5回目。
いよいよTV放送も最終回。今回は、ガミラスによる地球侵攻作戦についてあれこれ考えてみたい。今回はSFネタはあまりなく妄想多めであり、ちょっとデスラーに手厳しい内容となっていることを、事前におことわりしておく。
●開戦~地球側からの先制攻撃
比較的設定のスジがすっきりしているヤマト2199において、最終回まで見てなお、大いなる疑問として私が頭をひねっているのが地球からのガミラスへの先制攻撃である。
考えてみてほしい。
太陽系外縁に宇宙人のものと思われる宇宙船がやってきた。こちらからの通信に反応はない。
その状態で、よし攻撃だ! やられる前にやるのだ! というのは、論理が何段階かすっとばされている。
相手(ガミラス)がどのくらいのテクノロジーと勢力を持っているのか、あの時点で地球側には推測する最低限の情報すらない。
また、場所は太陽系外縁である。地球の衛星軌道に陣取られたわけではない。いきなり攻撃されたわけでもない。
なんで? とは誰しもが思うだろう。
とはいえ、こればっかりは情報が足りなさすぎる。
もしかしたら、火星との内惑星戦争がトラウマになって地球政府に地球外の生命はみんなクトゥルフだくらいの宇宙恐怖症みたいなものが蔓延していて、意味もなく攘夷を始めたのかもしれない。
あるいは、芹沢一派は、地球にすでに潜入した暗黒星団勢力(あるいはボラーかガトランティス)の手先に騙されて、ガミラスとの開戦を決意したのかもしれない。
とにかく戦争は始まった。それもかなりなし崩しに。唐突に。
この時点で、デスラーが地球について知っていたとは思えない。また、何らかの陰謀を企んだりもしていないだろう。
●第二次火星沖会戦~遊星爆弾攻撃に切り替え
旧作の宇宙戦艦ヤマトでは、地球はガミラスの新たな母星になる、という設定だった。
当時のガミラス人は「放射能が含まれる大気でないと生活できない」などの設定が与えられており、地球を放射能汚染させたのも、そこで生活するためである。
しかし、ヤマト2199世界のガミラス人は、佐渡先生がメルダを診断した時に明らかになったように、遺伝子の99%が地球人と同じで、まずもって地球人と同根であることが分かっている。メルダやユリーシャがそうであるように、地球人とイスカンダル人とガミラス人は同じ環境でのみ生存できる。地球環境が破壊されれば、ガミラス人も暮らすことはできない。
ヤマト2199では、それゆえに地球を新たなガミラスの母星にするという設定は消えている。第1話で環境が破壊されたことに対して森雪が「自分たちが暮らそうとしているのかも」という旨の発言をしているが、これも無視していいだろう。どう考えても、デスラーたちがあの状態の地球で暮らせるとは思えない。このへんは、冥王星基地にいたシュルツら、ザルツ人も同様である。
では、いったいぜんたい、木星の浮遊大陸のプラントを利用してまで変えようとしたあの謎生態は何なのか?
ガミラス人にとっても生存に適さないような奇妙な生物を蔓延させる理由はどこにあるのか?
地球を焦土にするだけなら、単に遊星爆弾による質量攻撃だけで十分である。
ここでシュルツが漫画版で口にしている言葉が気にかかる。
地球へのこうした攻撃は、「総統の肝いり」なのだそうだ。
二線級の部隊であるザルツ人旅団に任せた辺境の星への攻撃が「総統の肝いり」?
どうもこのあたりから、デスラーは地球侵攻に何か目的を見いだしたのではないかと考えられる。
●イスカンダルからの使者~コスモリバースシステムの供与
では、デスラーの狙いは何か?
地球ではない。地球人でもない。
地球は辺境の星だし、地球人のような二級臣民はガミラスの版図に大勢いる。
であれば、デスラーの狙いはただひとつ。
彼が愛してやまない、スターシャを手に入れることだ。
地球はそのための釣り餌である。
地球がガミラスとの戦争で支配された、滅ぼされた、というのであれば、スターシャ側のリアクションは「抗議」だけで終わる可能性が高い。
支配されたザルツがそうであるように。また、反乱を起こして焼き尽くされたオルタリアがそうであろうように。
スターシャの、イスカンダルのリアクションは、戦争であればそこで止まる。
だが、異星生物の繁茂による環境破壊はどうだ?
おそらく、イスカンダルには、環境破壊によって滅びようという星には、コスモリバースシステムの供与を申し出て救いの手を差し伸べるという、国法のようなものがあると思われる。かつて、ビーメラ星に、救いを差し伸べようとしたように。
地球がガミラスに支配されることは座視できても、遊星爆弾で環境破壊されて滅びることを、イスカンダルは見過ごすことができない。そういう、ややこしくも厳密なルールがイスカンダルにはある。
しかし、今のイスカンダルには、イスカンダル人は3人の姉妹しか残っていない。
スターシャ、サーシャ、ユリーシャである。
使者を送ろうとすれば、どうしても、サーシャとユリーシャを地球に送らねばならない。
それは、とても危険なことだ。
サーシャが火星で亡くなったように、ユリーシャもまた地球での事故(テロ?)やヤマトの航海で危険にさらされたように。
かなりの確率で、スターシャは、3人しかいないイスカンダル人の姉妹2人を失うことになる。
ただし、スターシャの妹がヤマトに乗っていることをデスラーが確信したのは、セレステラによる調査の後のようだ。それまでは、デスラー魚雷を使ってヤマトを沈めようとしているし、その頃はまだ、スターシャの目論見を打ち砕いて「君のやり方では、宇宙を救うことはできないと分かったろう?」と精神的に追いつめることが主な目的だったのではないかと思われる。
●ただスターシャを手に入れるためだけに
デスラーの目的が、地球環境を破壊してスターシャを精神的に追いつめる、あるいは妹を拿捕することだとすれば、その目的は後一歩で成功するところだった。
そして、そうやってスターシャを絶対の孤独に追い込み、彼女を救えるのは自分だけ、という状況を作り出すのがデスラーの真の狙いだったとすれば、これはもう……なんというか……愛というよりは……
ストーカー行為である。
宇宙レベルの、コスモストーカーだ。
いったいぜんたい、デスラーはどこで間違ってしまったのか。
ガミラスの指導者を伯父がやっていて、権力のない若造だった時代。その時代に、スターシャにもっと強引に迫っていればよかったのか。
それとも、スターシャのことはすっぱり諦めて、自分を愛するセレステラの想いに答えてやればよかったのか。
あるいは、宇宙に平和と秩序をもたらすなどと無理なことは考えず、総統府で艦これを遊んで、〈雷〉に「そうそう。もーっと私に頼っていいのよ!」と言ってもらえていれば、宇宙は平和だったのか。
なんとなく、最後の選択肢が一番、誰も不幸にならないような気がしないでもない。
シャアもそうしていれば良かったのに。
それにしても、とばっちりを食らったのは、やはり地球である。
先に攻撃したのは自分たちの方とはいえ(しかもそれを今なお隠蔽する体質は、かなりどうかと思われる。芹沢以外はまともそうな指導者が多いので、これはもしかしたら、本気で別の宇宙勢力の陰謀かもしれない)地球の生態系を無茶苦茶にされるほどの失態ではあるまい。
(歪んだ)愛は地球を滅ぼす。
愛、恐るべし。