『宇宙戦艦ヤマト2199』のSFネタ解説

『宇宙戦艦ヤマト2199』のSFネタ解説その5:ガミラスによる地球侵攻作戦とデスラー

2013年9月29日 雑記, 『宇宙戦艦ヤマト2199』のSFネタ解説 No comments

 宇宙戦艦ヤマト2199に出てくるギミックや台詞を元に妄想をたくましくしていくSFネタ解説シリーズの5回目。
 いよいよTV放送も最終回。今回は、ガミラスによる地球侵攻作戦についてあれこれ考えてみたい。今回はSFネタはあまりなく妄想多めであり、ちょっとデスラーに手厳しい内容となっていることを、事前におことわりしておく。

●開戦~地球側からの先制攻撃
 比較的設定のスジがすっきりしているヤマト2199において、最終回まで見てなお、大いなる疑問として私が頭をひねっているのが地球からのガミラスへの先制攻撃である。

 考えてみてほしい。
 太陽系外縁に宇宙人のものと思われる宇宙船がやってきた。こちらからの通信に反応はない。
 その状態で、よし攻撃だ! やられる前にやるのだ! というのは、論理が何段階かすっとばされている。

 相手(ガミラス)がどのくらいのテクノロジーと勢力を持っているのか、あの時点で地球側には推測する最低限の情報すらない。
 また、場所は太陽系外縁である。地球の衛星軌道に陣取られたわけではない。いきなり攻撃されたわけでもない。

 なんで? とは誰しもが思うだろう。
 とはいえ、こればっかりは情報が足りなさすぎる。
 もしかしたら、火星との内惑星戦争がトラウマになって地球政府に地球外の生命はみんなクトゥルフだくらいの宇宙恐怖症みたいなものが蔓延していて、意味もなく攘夷を始めたのかもしれない。
 あるいは、芹沢一派は、地球にすでに潜入した暗黒星団勢力(あるいはボラーかガトランティス)の手先に騙されて、ガミラスとの開戦を決意したのかもしれない。

 とにかく戦争は始まった。それもかなりなし崩しに。唐突に。
 この時点で、デスラーが地球について知っていたとは思えない。また、何らかの陰謀を企んだりもしていないだろう。

●第二次火星沖会戦~遊星爆弾攻撃に切り替え
 旧作の宇宙戦艦ヤマトでは、地球はガミラスの新たな母星になる、という設定だった。
 当時のガミラス人は「放射能が含まれる大気でないと生活できない」などの設定が与えられており、地球を放射能汚染させたのも、そこで生活するためである。
 しかし、ヤマト2199世界のガミラス人は、佐渡先生がメルダを診断した時に明らかになったように、遺伝子の99%が地球人と同じで、まずもって地球人と同根であることが分かっている。メルダやユリーシャがそうであるように、地球人とイスカンダル人とガミラス人は同じ環境でのみ生存できる。地球環境が破壊されれば、ガミラス人も暮らすことはできない。

 ヤマト2199では、それゆえに地球を新たなガミラスの母星にするという設定は消えている。第1話で環境が破壊されたことに対して森雪が「自分たちが暮らそうとしているのかも」という旨の発言をしているが、これも無視していいだろう。どう考えても、デスラーたちがあの状態の地球で暮らせるとは思えない。このへんは、冥王星基地にいたシュルツら、ザルツ人も同様である。

 では、いったいぜんたい、木星の浮遊大陸のプラントを利用してまで変えようとしたあの謎生態は何なのか?
 ガミラス人にとっても生存に適さないような奇妙な生物を蔓延させる理由はどこにあるのか?
 地球を焦土にするだけなら、単に遊星爆弾による質量攻撃だけで十分である。

 ここでシュルツが漫画版で口にしている言葉が気にかかる。
 地球へのこうした攻撃は、「総統の肝いり」なのだそうだ。
 二線級の部隊であるザルツ人旅団に任せた辺境の星への攻撃が「総統の肝いり」?
 どうもこのあたりから、デスラーは地球侵攻に何か目的を見いだしたのではないかと考えられる。

●イスカンダルからの使者~コスモリバースシステムの供与
 では、デスラーの狙いは何か?
 地球ではない。地球人でもない。
 地球は辺境の星だし、地球人のような二級臣民はガミラスの版図に大勢いる。
 であれば、デスラーの狙いはただひとつ。
 彼が愛してやまない、スターシャを手に入れることだ。
 地球はそのための釣り餌である。

 地球がガミラスとの戦争で支配された、滅ぼされた、というのであれば、スターシャ側のリアクションは「抗議」だけで終わる可能性が高い。
 支配されたザルツがそうであるように。また、反乱を起こして焼き尽くされたオルタリアがそうであろうように。
 スターシャの、イスカンダルのリアクションは、戦争であればそこで止まる。
 だが、異星生物の繁茂による環境破壊はどうだ?
 おそらく、イスカンダルには、環境破壊によって滅びようという星には、コスモリバースシステムの供与を申し出て救いの手を差し伸べるという、国法のようなものがあると思われる。かつて、ビーメラ星に、救いを差し伸べようとしたように。

 地球がガミラスに支配されることは座視できても、遊星爆弾で環境破壊されて滅びることを、イスカンダルは見過ごすことができない。そういう、ややこしくも厳密なルールがイスカンダルにはある。
 しかし、今のイスカンダルには、イスカンダル人は3人の姉妹しか残っていない。
 スターシャ、サーシャ、ユリーシャである。
 使者を送ろうとすれば、どうしても、サーシャとユリーシャを地球に送らねばならない。
 それは、とても危険なことだ。
 サーシャが火星で亡くなったように、ユリーシャもまた地球での事故(テロ?)やヤマトの航海で危険にさらされたように。

 かなりの確率で、スターシャは、3人しかいないイスカンダル人の姉妹2人を失うことになる。

 ただし、スターシャの妹がヤマトに乗っていることをデスラーが確信したのは、セレステラによる調査の後のようだ。それまでは、デスラー魚雷を使ってヤマトを沈めようとしているし、その頃はまだ、スターシャの目論見を打ち砕いて「君のやり方では、宇宙を救うことはできないと分かったろう?」と精神的に追いつめることが主な目的だったのではないかと思われる。

●ただスターシャを手に入れるためだけに
 デスラーの目的が、地球環境を破壊してスターシャを精神的に追いつめる、あるいは妹を拿捕することだとすれば、その目的は後一歩で成功するところだった。
 そして、そうやってスターシャを絶対の孤独に追い込み、彼女を救えるのは自分だけ、という状況を作り出すのがデスラーの真の狙いだったとすれば、これはもう……なんというか……愛というよりは……

 ストーカー行為である。
 宇宙レベルの、コスモストーカーだ。

 いったいぜんたい、デスラーはどこで間違ってしまったのか。
 ガミラスの指導者を伯父がやっていて、権力のない若造だった時代。その時代に、スターシャにもっと強引に迫っていればよかったのか。
 それとも、スターシャのことはすっぱり諦めて、自分を愛するセレステラの想いに答えてやればよかったのか。
 あるいは、宇宙に平和と秩序をもたらすなどと無理なことは考えず、総統府で艦これを遊んで、〈雷〉に「そうそう。もーっと私に頼っていいのよ!」と言ってもらえていれば、宇宙は平和だったのか。

 なんとなく、最後の選択肢が一番、誰も不幸にならないような気がしないでもない。
 シャアもそうしていれば良かったのに。

 それにしても、とばっちりを食らったのは、やはり地球である。
 先に攻撃したのは自分たちの方とはいえ(しかもそれを今なお隠蔽する体質は、かなりどうかと思われる。芹沢以外はまともそうな指導者が多いので、これはもしかしたら、本気で別の宇宙勢力の陰謀かもしれない)地球の生態系を無茶苦茶にされるほどの失態ではあるまい。
 (歪んだ)愛は地球を滅ぼす。
 愛、恐るべし。

『宇宙戦艦ヤマト2199』のSFネタ解説その4:七色星団の戦い(第6章ネタバレあり)

2013年7月23日 雑記, 『宇宙戦艦ヤマト2199』のSFネタ解説 3 comments

 宇宙戦艦ヤマト2199に出てくるギミックや台詞を元に妄想をたくましくしていくSFネタ解説シリーズの4回目。
 今回は、旧作ヤマトから山場のひとつである、七色星団の戦いについてあれこれ解説をしていく。TVではまだ未放映(8月放映?)なので、ネタバレになる人は注意されたし。

●ヤマト側から:なぜ、七色星団なのか?
 戦場では何が起きるか分からない。それゆえに、指揮官は何が起こり得るかを常に考えて行動しなくてはいけない。
 大マゼランに到達した沖田艦長にとって、起こり得る最悪のパターンは、もう一度、中性子星カレル163で戦った敵将が、前と同じかそれ以上の戦力で戦いを挑んでくる、というものだ。あの一糸乱れぬ艦隊運動で襲撃を受ければ、今度こそヤマトは沈められる可能性が高い。
 だからこそ、沖田艦長はイオンの乱流渦巻く七色星団への道を選んだ。
 もし敵がこの七色星団でヤマトを食い止めようとしても、イオン乱流で航路が狭められる七色星団の中では大軍の運用は困難だ。加えてレーダーなどの索敵能力も低下するので、戦いは近距離戦となる。敵が優勢な戦力で待ちかまえていても、戦いようはあるのだ。

 もちろん、視聴者(神)視点であれば、ドメルはデスラー総統暗殺未遂事件の余波でカレル163より大幅に削減された戦力しか持たないのだが、それは沖田艦長が知り得る情報ではない。

●ドメル側から:ふたつの目標を与えられた作戦
 これまでと比べてずいぶんと少ない空母4隻+ドメラーズ+次元潜行艦UX-01の戦力でヤマトと戦うことになったドメルであるが、彼の不利がそれだけであるのならば、七色星団の戦いは、ドメルの勝利に終わったろう。
 物質転送装置を利用したアウトレンジ攻撃と、次元潜行艦による異次元からの攻撃を組み合わせて奇襲をかければ、ヤマト1隻を沈めるのは不可能ではないからだ。奇襲の効果がある序盤に、全力をたたきつけることができれば、ヤマトは対応する時間の余裕を持てない。
 しかし、ドメルには総統からの勅命としてヤマト艦内にいるイスカンダル人を救出するという作戦目標があった。
 同時にふたつの作戦目標は、忌むべきことである。かつてミッドウェーの戦いにおいて、ハワイで討ち漏らした敵空母を沈めることと、ミッドウェー島の占領というふたつの作戦目標が与えられた結果は、第一航空艦隊の全滅であった。
 それでも、ドメルは中性子星カレル163におけるヤマトとの交戦経験から「行ける」と判断した。
 ドメルの判断は、ほぼ的確であり、わずか紙一重の部分で間違っていた。
 そして戦場では、その紙一重が勝敗を分けるのである。

●七色星団の戦いⅠ:接触~第二次攻撃隊

ヤマト2199七色星団1
 情報をより多く握った側が、戦いにおいて有利となる。
 この原則に従い、ドメルは次元潜行艦を七色星団に先行させ、偵察を行わせた。そして見事、ヤマトの動きを捉えたのである。
 以後、戦いの主導権はドメルの側となる。どこでいつ戦うか、いつ撤退するかがドメルの意志だけで決められるわけで、これは大きなアドバンテージである。

 まず、空母バルグレイがドメル艦隊本隊から分離して前進。
 戦闘機だけからなる第一次攻撃隊を発艦させる。この第一次攻撃隊は、対艦戦闘能力を持たないが、目的はヤマト艦載機を誘引し拘束することなので、問題ない。
 ヤマトはこの囮部隊に引っかかり、加藤率いるコスモファルコン部隊は、第一次攻撃隊との死闘で身動きがとれない状態となる。
 ただし、イニシアティブを喪失しているがゆえに、加藤はヤマトに山本のコスモゼロを残してあった。このコスモゼロが後々、大きな影響を与える。

 続いて、空母ランベアが急降下爆撃機からなる第二次攻撃隊を発艦させる。第二次攻撃隊は物質転送装置による短距離ワープでヤマトへの奇襲に成功する。この爆撃でヤマトはレーダーと波動防壁を失う。
 この時が、ヤマトのもっとも危険な一瞬だった。
 もし、ヤマトを沈めることだけがドメルの作戦目的であれば、ここで次元潜行艦による攻撃と、第三次攻撃隊による攻撃を続けて行い、ヤマトにとどめを刺すことができた可能性は高い。
 しかし、次元潜行艦が行ったのは攻撃ではなくコバンザメと呼ばれる宙雷艇で、ヤマト艦内に特殊部隊を送り込むというものだった。

 ある意味で、この時にドメルの手から勝利はすり抜けていたのだ。

●七色星団の戦いⅡ:森船務長拉致~第三次攻撃隊失敗

ヤマト2199七色星団2
 ヤマト艦内に突入した特殊部隊が活動すると同時に、重爆撃機が物質転送装置でヤマトにドリルミサイル(特殊削岩弾)を撃ち込む。これが艦内で爆発すれば、ヤマトは終わりである。沖田艦長は真田副長の提言を受けて、情報解析のスペシャリストである新見とアナライザーを、ドリルミサイルの制御を奪うために送り込む。
 その頃、ザルツ義勇軍からなる特殊部隊は、ヤマト艦内で出会った森船務長をイスカンダル人と間違えて拉致し、損害を出しながらも脱出に成功する。

 次元潜行艦UX-01は、特殊部隊の生き残りと森船務長を回収し、戦場を離脱した。
 ここは少しばかり、違和感の残る場面であった。
 次元潜行艦の艦長であるフラーケンの性格であれば、ここで行きがけの駄賃として、手持ちの魚雷を発射してヤマトを沈めそうなものである。

 フラーケンが攻撃しなかった理由であるが、長時間の次元潜行偵察と、宙雷艇輸送のために、次元潜行艦は武装の多くを取り外していたのかもしれない。手持ちの魚雷やミサイルが0であれば、いかにフラーケンといえども攻撃はできない理由である。

 前後して、空母バルグレイが沈没する。そして、それまでヤマト艦載機部隊の足止めに成功していた第一次攻撃隊が壊滅する。
 ここで興味深いのは、空母バルグレイがわずか2機のコスモファルコンの攻撃で、手も足も出ずに轟沈していることである。命中したミサイルは小型の4発のみ。ヤマトと比べるのは申し訳ないが、あまりにも脆い。ガミラスにおける空母の役割というのは、あくまで補助的なものだということが、ここから分かる。

 バルグレイは失ったものの、ヤマトには手傷を負わせ、ドリルミサイルも命中している。ドメルは勝利を確信しており、その勝利を確実にするために、第三次攻撃隊を送り込む。
 第二次攻撃隊と同じく、物質転送装置による奇襲攻撃だ。

 しかし、この第三次攻撃隊の奇襲は、失敗に終わる。
 山本と古代のコスモゼロによる迎撃を受けたこと、そしてコスモファルコン部隊が帰還してヤマトの援護に回ったことが主な理由だが、何より、すでに物質転送装置による奇襲が、奇襲でなくなっていた。
 第二次攻撃隊の奇襲を受けるや、沖田艦長はこれを短距離ワープによるものと判断し、目視による対空警戒を行わせていた。ヤマトで対空火器を担当している部署も、次にまた同じようにワープで奇襲攻撃をかけられるものと警戒していたと思われる。
 第二次攻撃隊と、第三次攻撃隊の間のわずかな時間に、物質転送装置の魔力は失われていたのだ。

 第三次攻撃隊の失敗を知ったドメルは、物質転送装置と艦載機の攻撃に頼ることはもうできない、と見切りをつける。これは正しい。
 しかし、戦艦の砲撃戦で勝利を掴もうとしたことは、ドメルの最大の失策だった。
 自軍はヤマトの位置を見抜いているが、ヤマトはドメルがどこにいるか知らない。
 ドメルの持つ最大のアドバンテージが、砲撃戦を挑むことを決意した時に、失われたのだ。

●七色星団の戦いⅢ:砲撃戦

ヤマト2199七色星団3
 戦いが始まってから、ずっとヤマトは受け身であり続けた。
 敵の場所も、戦力も分からないので、とにかくやり過ごす以外の選択肢がない。
 そこに、敵艦隊の方から接近してきたのである。
 沖田の命令は、この時あるを期待して調べさせた、イオン乱流の本流への転進であった。
 ドメルの側からは、ヤマトが戦いを避けて逃げようとしているように見えただろう。
 ドメルは艦隊を増速させ(たんじゃないかな?)、ヤマトへ近づく。

 しかし、そのドメル艦隊に、ヤマトから分離したドリルミサイルが接近する。
 戦闘空母ダロルドとドリルミサイルが重なったその瞬間、ヤマトからの砲撃でドリルミサイルは爆発、ダロルドは轟沈する。
 さらに、ダロルドの爆発に巻き込まれる形で空母シュデルグが沈み、さらに空母ランベアがヤマトの砲撃で沈む。
 ドメルが率いてきた4隻の空母は、ここに失われたのである。

 囮となって沈んだバルグレイと、戦闘空母のダロルドはともかく、他の2隻の喪失はまったくもって無用の損害であった。
 さらに言うなら、戦闘空母のダロルドも、本来ならば後方に下げておくべき艦であった。ヤマトとの砲撃戦で空母であり、戦艦でもあるダロルドでは、火力はともかく、防御力があまりに心許ない。ドリルミサイルの爆発で失われなくとも、おそらく1回か2回のヤマトからの砲撃で戦闘力を喪失しただろう。

 では、ドメルはどこで間違ったか?

 それは、「ヤマトが戦闘力と戦意を喪失している」と考えた点にある。

 彼の誤解も、分からなくはない。戦意はともかく、この時点で、戦闘力を維持できているヤマトがどうかしているのである。
 すでにヤマトが戦闘力を失っているのであれば、防備の薄いダロルドでも火力は使い物になるし、2隻の空母も、ふらっとどこからか迷い出てきたヤマト艦載機に攻撃されないよう、艦隊行動を維持しておくのも悪い手ではない。

 一連の急展開により、残っていたのはドメラーズⅢただ1隻。ドメルは、どちらかが沈むまで殴り合う覚悟を決める。
 ここからは、沖田にとっても賭けであった。満身創痍のヤマトがドメラーズⅢに沈められるのが早いか。ドメラーズⅢがイオン乱流にはまって航行不能になるのが早いか。

 沖田はこの賭けに勝つ。
 ドメラーズⅢはイオン乱流の中で沈み、七色星団の戦いはヤマトの勝利に終わる。

 ヤマトの勝利は、ただひたすら、敵の失策を待つという受け身のものであった。
 敵の居場所も、戦力も分からない状態では、他に打つ手はない。自分が沈まず粘り続けることで、いつか訪れるかもしれない、敵の失策を沖田は待ち続けた。
 それは、地球とガミラスの戦争の構図そのものでもあった。

『宇宙戦艦ヤマト2199』のSFネタ解説その3:ガミラスの猛将ドメル

2013年7月15日 雑記, 『宇宙戦艦ヤマト2199』のSFネタ解説 No comments

 宇宙戦艦ヤマト2199に出てくるギミックや台詞を元に妄想をたくましくしていくSFネタ解説シリーズの3回目。
 今回はヤマトの好敵手である、ガミラスの猛将ドメルと、その戦い方をみていきたい。

■ヤマト2199第11話『いつか見た世界』での小マゼランの戦い
 ドメルがどのような指揮をするかは、ガトランティス(旧作の白色彗星帝国)との戦いである程度読み取ることができる。
ヤマト2199第11話小マゼランの戦い
 ドメル対ガトランティスの辺境での戦いは、かなり途中経過がはしょられているので画面から推測するしかないが、それがこの図である。

 囮で敵艦隊を誘引、拘束したかどうかは画面からは読み取ることができないが、私はかなり高い確率で囮艦隊がいたものと考える。
 こうした、主攻と陽動を分けるというのは、戦術の基本である。ガトランティス側が何も警戒せず、単にドメルの奇襲を受けた間抜け……という可能性は、もしあるとしても、ドメルが、そういう敵の間抜けさに頼る戦いを仕掛けるとは思えない。

 私は、ガミラスの戦い方の基本は機動力を活かした戦い方であると考える。そして、自軍の機動力を活かすために重要なのが、敵の動きを制限することである。
 機動力というのは相対的なものだ。こちらの機動力は艦や指揮通信などのハード・ソフトでどうしても上限が決まる。ドメルとて、艦に性能以上の速度は出させられない。
 だからこそ、自軍の機動力が、より、致命的になるように、敵の動きを制限することにドメルは意を配るだろう。

 ガトランティスの持つ一番高い機動力は(彼らが旧作の白色彗星帝国に近いとして)航空戦力である。艦載機の持つ機動力こそ、ガトランティスが持つ強みだ。しかし、艦載機は常時、飛ばしておくわけにはいかない。普段は空母の中に格納しておき、敵を発見したら、発進してこれを攻撃するのだ。

 ドメルはそれゆえに「敵の偵察部隊に発見されない」ことを第一とした。
 惑星の公転面から垂直になるように艦隊を動かし、死角のような場所から一気に逆落としで高速の駆逐艦隊を突入させたのは、偵察部隊に発見されず敵本隊に接近し、一撃で敵空母を壊滅させるためだと思われる。


■ヤマト2199第15話『帰還限界点』中性子星の戦い
 ドメルがヤマトと戦う前にまず何をしたか……というと、まずはヤマトの戦力分析をしたと考えられる。
 ヤマト最大の武器は、なんといっても波動砲である。
 この時点でドメルがヤマトの旅の目的を理解しているとは思えないが、惑星に直撃させれば、ただではすまない破壊兵器を、ガミラス帝国の中に入れるわけにはいかない。母星の滅びを迎えてやぶれかぶれになったテロン人(地球人)が、ガミラスの首都に自爆攻撃を仕掛けることは大いに考えられるからだ。実際、地球への扱いや、この話の冒頭での親衛隊の暴挙を考えれば、ガミラスはそのくらい恨まれている。

 ならば、この波動砲を使わせない、使っても大丈夫な場所での戦いを考えねばならない。
 すでに恒星が寿命を迎えて大爆発(スーパーノバ)した残骸である中性子星カレル163は、うってつけの戦場である。
 ここでならば、周囲を気にせず自由に戦える。
 ドメルがガミラスの誇る猛将である理由は、彼の旺盛な戦意だ。第11話で登場した後、ガミラス首都でのドメルは、良き夫、良き軍人としての顔しか見せていない。政治には興味がなく、良識的で、妻や子を愛しているごく普通の男だ。
 しかし、この15話でドメルの裏に隠れているものが露わになる。彼は、戦争が大好きなのだ。その彼にとって、カレル163は格好の遊び場だった。
ヤマト2199第15話中性子星の戦い
 そしていよいよヤマトと戦うにあたり、ドメルが一番気を配ったのは、何か。
 それは、ヤマトに「ガミラスには戦意がない」と思わせることだった。

 罠というものは、こちらの意図に気づかれてしまうと、まず不発に終わる。
 中性子星カレル163は重力勾配が強く、ワープ時にその影響を受けやすいことは、罠の存在を知らない時のヤマトですら、ある程度は見抜いていた。
 じっくり時間をかけてヤマトが重力勾配をチェックし、カレル163を迂回したり、ドメルが待ちかまえるポイントとは違う場所へワープしては、ドメルの策は失敗してしまう。
 だから、ドメルは頻繁に偵察を繰り返させ、しかも戦いは慎重に避けてきた。苛立ちと共に、ガミラスには戦意がない、という意識がヤマトクルーの中にはあったはずだ。

 カレル163へのワープ直前への、偵察部隊の突然の攻撃。
 沖田艦長に代わってヤマトを指揮していた真田副長は、交戦を避け、急いでカレル163へワープするよう命令する。これは、ガミラスに戦意がない、という前提が正しければ、無理のない選択である。攻撃をしてきたとはいえ、相手は小型艦が2隻。ヤマトの戦力をもってすれば、簡単に打ち払える。

 そして、当然ながら『ガミラス艦も彼我の戦力差は知っている』のである。

 敵艦がヤマトと本気で交戦するはずがない。真田副長はそう考え、この戦いをこれまでの嫌がらせの延長と考えた。これまでは、少し距離を置いて逃げていったが、今回は少し踏み込んできた。これを追えば逃げ出すだろう。こんな小型艦の嫌がらせに、毎回時間を食われてはたまらない。いつも冷静であっても、真田副長もタイムスケジュールの遅れは気にしている。時間のかかることは極力避けたい意識が働く。
 ならば、さっさとワープしてこの場を離れるのが得策だ。

 真田副長の推論は正しい。
 「ガミラスには戦意がない」という前提が正しいかぎり。

 事実は逆である。
 ドメルは旺盛すぎる戦意の持ち主である。だからこそ、自分の戦意を隠すためにわざわざ手間をかけて偵察艦による嫌がらせを繰り返したのだ。
 前提を間違えていれば、どんな頭脳の持ち主でも、正しい結論にはたどりつけないからだ。

 カレル163にヤマトがワープした時点で、ドメルの罠はほぼ完成していた。
 大規模な敵艦隊に囲まれていることを知った真田副長の命令が、艦載機(ハヤブサ)を発進させるというものであったのは、この時点においても、真田副長の頭の中に「ガミラスには戦意がない」という前提があることをうかがわせる。
 真田副長は、まずここで「様子を見る」ことにしたのだ。
 「ガミラスには戦意がない」のだとしたら、これは遭遇戦である可能性が高い。ガミラスがどう動くかを見極めると同時に、いざ戦闘という時のために手持ちの戦力を増やしておくべきだ、と考えたわけである。

 ここで、沖田艦長が指揮に戻る。
 ぎりぎりのタイミングである。もし、真田副長の命令通りに、艦載機を発進させていれば、そのままヤマトは敵の重包囲の中で沈められていただろう。

 沖田艦長は状況に気づくや、これまでのドメルの策略のほぼすべてを見抜いたに違いない。とにかく、いきなり命じたのが敵艦隊への正面からの突撃である。顔つきも険しい。

「死中に活を求めねば、この包囲を突破することはできない!」

 これまで疑問だったガミラス偵察部隊の動きの真意を沖田艦長だけは見抜いている。
 そして、それが意味するものも。
 ガミラス艦隊は、ここでヤマトを仕留めるつもりなのだ。逃げればとことん追いかけてくるし、他にどんな罠が仕掛けられているかわからない。(事実、分散配置した別働隊が集まってきた)

 正面から突っ込んできたヤマトを見て、ドメルの顔が歓喜に歪む。ヤマトとすれ違う時の表情たるや、嫁さんや亡くなった子供がみたら、ドン引くのではないかというくらい、嬉しそうである。二面性、というよりはどちらもドメルの素顔なのだろう。

 沖田艦長の打った手は、罠に落ちたヤマトの取り得る最善手だった。
 しかし、今回ばかりは準備と仕掛けに時間をかけたドメルの側に分があった。

 ドメルの直衛艦隊を正面突破して振り切ろうとするヤマトを、分散配置した別働隊が取り囲む。いずれも高速艦。傷ついたヤマトが振り切れる相手ではない。

 ドメルにしてみれば、してやったり、である。
 ヤマトの艦長が無能であれば、あるいは真田副長のように頭脳明晰でも慎重であれば、ドメルの本隊だけでヤマトを仕留めることができる。時間がかかったとしても、部隊をローテーションさせて傷ついた艦艇を後方に下げ、新しい艦を前に出させていくというやり方で、勝利できる。

 しかし、ヤマトの艦長が有能で度胸があれば?
 その時は、即座に正面から突破するはずだ。沖田艦長がそう判断したように。

 だからドメルは、自分の本隊をヤマトが突破した時の位置に、別働隊を集結させたのである。あるいは子飼いの前線指揮官なら、このくらいの判断は具体的に指示せずとも臨機応変にやってくれると確信していたか。

 ヤマト艦内で、ドメルの仕掛けた罠の全体像に気づいたのは沖田艦長だけだろう。しかし、激しい戦いの連続に南部が戦意喪失したように、このままでは勝てないとは多くのクルーが感じたはずだ。

 この時点でなおも、古代進だけは旺盛な戦意を保っている。
 どうやればこのピンチを切り抜けられるか、という計算は古代にはない。
 しかし、彼は諦めていない。このあたりは、さすが古代守の弟である。

 そして、沖田艦長もまた、諦めていない。
 諦めてはいないが、計算もできてしまうのが沖田艦長である。
 ヤマトの側に、新たに打つ手はない。後はもう、ひたすら耐えるだけだ。
 ヤマトに積極的に打つ手がない以上、何か変化が起きるのを沖田艦長は待っている。
 なので、敵の猛攻が一瞬だけ途切れた、その変化に沖田艦長は即座に反応する。

 カレル163での変化は、ガミラス艦隊の全面撤退だった。
 しかし、ここまでの僥倖でない場合――たとえば、敵の別働隊同士が接近しすぎて、艦隊運動に乱れが生じた、など――でも、沖田はすぐにその変化に気づき、敵から離脱するための策を練ったはずだ。
 その変化が、ヤマトが沈められる前に起きたかどうか、それは分からない。
 しかし、沖田艦長は最後の一瞬まで、諦めることなく、罠をかいくぐるきっかけを探り続けたはずだ。
 諦めることのないものにこそ、幸運の女神は微笑むのだから。

『宇宙戦艦ヤマト2199』のSFネタ解説その2:コスモリバースシステム

2013年5月24日 雑記, 『宇宙戦艦ヤマト2199』のSFネタ解説 1 comment , , , , , , , , , , , , ,

 宇宙戦艦ヤマト2199に出てくるギミックや台詞を元に妄想をたくましくしていくSFネタ解説シリーズの2回目。
 今回は人類救済のためのコスモリバースシステム、旧作では放射能除去装置コスモクリーナーDについてである。

 いったい、あそこまで破壊された地球の環境を復活させるというコスモリバースシステムとは、いかなるものだろうか。

 まず考えられるのが、旧作のコスモクリーナーDと同じような機械がイスカンダル星にあって、それを部品の状態でヤマトの中に運び込んで組み立て、地球に帰還すると地球が青い星に戻る、というパターンだ。

 このパターンだと、干上がった地球の海が戻り、動物や植物が復活し、しかもそれがごくごく短い時間で成し遂げられるというわけなので、

「ぱんぱかぱーん!世界創造装置ー」
「それはなんだいドラえもん」
「七日間で世界をひとつ創造するという装置さ。もちろん、作られるのは小さな箱庭世界だけど、未来の小学校では夏休みの宿題に、世界創造観察日記というのがあるくらい、よく使われている装置なんだ」
「劇場版じゃあるまいし、それじゃエドモンド・ハミルトンの『フェッセンデンの宇宙』だよ。ロクなオチが待ってないと思うな」
「21世紀ののび太くんは、ノリが悪いなぁ」

 という、ほとんどドラえもんの不思議道具並のパワーが装置に必要となる。
 いずれにせよ、地球環境の現状を考えると、こうした形での再生で一番ネックになるのが、時間である。何しろ人類滅亡までおよそ一年という時間を区切って いるのがヤマト世界だ。コスモリバースシステムを持ち帰ったはいいが、地球再生に千年も二千年もかかっていたのでは、地下都市に暮らす人々が全滅してしま う。
 時間を圧縮する方法として20世紀末あたりからSFでよく使われてきたのが、ナノマシンの使用である。今流行のノリでいくと、ナノマシンで作った物質を3Dプリンタ方式で組み立てて、植物や動物を作り出すのだ。
 このノリでいくともうひとつの地球が作れるということで……

「カーティス、きみは地球をもうひとつ造れるというのか」
「もうひとつの地球を造れるかと聞いたんだ、カーティス。山や海や街を造り、男や女や子供たちの声でいっぱいにすることができるのか。そして、もうひとりの、オットーやグラッグやサイモンを造れると言うのか」
(エドモンド・ハミルトン『物質生成の場の秘密』より)

 またもやエドモンド・ハミルトンが!

 さらに逆転の発想としてロバート・チャールズ・ウィルスンの『時間封鎖』手法がある。生き残った人間の方を時間的に凍結しておいて、地球環境が何万年かかけて復活するまで待ってからこれを解凍するという方法が考えられる。
 時間操作となるとかなりの超技術だが、ラリイ・ニーヴンのノウンスペースシリーズで登場した停滞フィールド的なものを使えば、ヤマト2199の作中のテクノロジー的にも妥当な範疇で何とかなりそうだ。人類が暮らす地下都市を、停滞フィールドに閉じこめておくのである。

 あとは並行宇宙とアクセスする技術を使って、人類が誕生していないが自然がそのままの並行宇宙から、地球を引きずりだして今の赤茶けた地球と交換 するという荒技もある。そろそろこのあたりになると、ハリイ・ハリスンの『ステンレス・スチールラット 世界を救う』っぽくなってきたな。

 なんにしても、遊星爆弾であそこまでむちゃくちゃになった地球を元に戻すのはよほどのテクノロジーがなくては難しそうである。惑星環境というのは、破壊するのは簡単だが再生してバランスを取り戻すには手間がかかるのである。

 だがしかし。
 ここでやはり、大いなる疑問が出てくる。
 いったいぜんたい、なぜ、イスカンダルは、そしてスターシャは「地球の環境を回復させる」ために「イスカンダルまで来い」という迂遠な方法をとっているのか、ということだ。
 これが神話や民話などの物語世界であれば、この流れはごくごく自然なものである。
 ウラジーミル・プロップが『昔話の形態学』で31の類型にまとめたように、物語はしばしば、主人公に試練を課してその力を証明させる。そこで使われるの が、苦難の旅路だ。連れ去られた幼なじみを取り戻すために、雪の女王の宮殿に行ったアンデルセンの『雪の女王』のように、ヤマトは地球環境を取り戻すため に、イスカンダルへ向かうのである。
 ヤマト2199も物語である以上、この構造自体に問題はないが、SF的な仕掛けもまた、そこにありそうである。

 そこで出てくるのが第5章で登場したビーメラ4の遺跡である。
 ビーメラ4には、今から400年ほど前にイスカンダルの使者がやってきて、波動コアを渡して、当時はまだ存在していたビーメラ星人に救済を約束している。
 遺跡や、不時着したイスカンダル宇宙船の様子からみて、どうもビーメラ星には恒星間航行に十分な科学力がまだ存在しなかったのではないかと考えられる。

 にも関わらず、イスカンダルが示した救済策は「イスカンダルへ来い」であったようだ。波動コアの内部情報からみて、ビーメラ星人に与えられた情報 の中にはイスカンダル人が作り(400年前の時点では)ガミラス人がメンテナンスしているゲートネットワークの情報も入っている。
 つまり、十分なワープ技術を作れないであろうビーメラ星人には、ゲートネットワークによるショートカット航路を、イスカンダルは示したと思われる。

 そしてもうひとつ、ビーメラ4の遺跡で気になる点がある。
 それは、イスカンダルの宇宙船が「そのまま」である点だ。
 これまで、サーシャの乗っていた宇宙船が1話で火星まで到達したところで爆発したから忘れていたが、実はイスカンダルからの宇宙船はもう1隻、ユリーシャが乗って無事に到着した1年前の宇宙船があるのだ。
 それはどうなったのか?

 思うに、もともとイスカンダルから送られる宇宙船というのは『一方通行』なのではないだろうか。サーシャの宇宙船のように爆発せずとも、地球に着陸したところで、自壊して機能を停止してしまうような。
 イスカンダルの、スターシャの一族は、400年の昔から、あるいはそれよりはるか昔から。滅亡の危機が訪れた知的生命体の星に、そうやって一族を宇宙船で送り出した。救済が欲しければ、イスカンダルへ来るよう伝えるメッセージを携えて。
 そして、成功すれば、一族のものは知的生命と共にイスカンダルへと帰還する。
 失敗したら――そう、失敗したら、その星で一生を終えるのである。ユリーシャも、サーシャも、元から任務に失敗すればイスカンダルへ戻れない運命だったのだ。
 400年前、ビーメラ4に送り込まれた過去の姉妹がそうであったように。

 これはまた、えらい覚悟である。なるほど、ある程度は裏の事情を知っていた沖田艦長がメ号作戦において「信じるんだ、彼らを」と言ったのも分かる。血を分けた一族の者を地球人と道連れにする覚悟で、イスカンダルは地球を救済しようというのだから。
 いったいぜんたい、何がイスカンダルをして、そのような理想追求というか、宗教的な情熱に駆り立てているのか。
 そこについては、まだ不明である。ガミラスとの関係も、何やらきな臭いものを孕んでいるようだ。

 しかし、もしすべての裏側に救済という名の罠があるとしても、どうやらスターシャやユリーシャらの一族は(ひょっとしたらガミラスやデスラーも!)その犠牲者であるらしい、と考えられる。
 滅びたくなければイスカンダル星へ来い、という救済の仕組みは、400年以上前から、地球やガミラスとは無関係なところで存在していたようだからだ。

 ガミラス人と地球人が遺伝的にほぼ同一であるように(そして、第5章冒頭で滅ぼされた惑星オルタリアの住人や、シュルツ司令の故郷ザルツも)大マゼランから銀河系にかけては広く、同一種族がはるか大昔に播種された可能性がある。
 それがイスカンダルの唱える救済とやらのシステムを作り出した連中だろう。
 我らの銀河系や大マゼラン銀河が巨大な「農場」だとすれば。
 イスカンダルの救済は、種をまいた「農夫」が用意したツールなのかもしれない。
 それぞれの惑星で育った「苗」が、日照りやその他の理由で滅びようとしたら、イスカンダルがチェックをする。よく育った「苗」であれば、救済を。育ってない「苗」はそのまま間引くのである。
 ビーメラ4は間引かれた。「農夫」が望む知的生命体としては、出来が悪かったからである。
 では、地球人は?
 地球に育った「苗」は、果たして間引くべきか?
 それとも、コスモリバースシステムという救済を与えて、育てるべきか?

 そして、だとすると。
 すでにコスモリバースシステムは、地球にあるのではないだろうか?
 「農夫」が「苗」を育てるために、地球環境をはるか昔に操作したシステムは、今も地球の地下深くに残されており、イスカンダルへ到着する、というのは、そのシステムを再起動するための試練であるのかもしれないのだ。

『宇宙戦艦ヤマト2199』のSFネタ解説その1:第二次火星会戦

2013年4月12日 『宇宙戦艦ヤマト2199』のSFネタ解説 No comments , , , , , , ,

 宇宙戦艦ヤマト2199に出てくるギミックや台詞を元に妄想をたくましくしていくSFネタ解説シリーズの1回目。
 第1話で名前だけ出てきた第二次火星沖会戦である。

 まずは2199年1月の太陽系の惑星の配置は以下の通り。
(※この図は、Solar System Liveを使って作成したものに、手を加えた)

2199_太陽系惑星配置図.preview

 第一話の冒頭。沖田提督率いる地球艦隊は、冥王星軌道の近くで、ガミラス軍と接触、交戦に入る。
 彼我の戦力は圧倒的で、地球艦隊はたちまち壊滅状態に追い込まれる。

 地球艦隊の目的は、表面上は、ガミラスの冥王星基地の破壊である。
 この段階で、地球は海が干上がり、赤茶けた死の星となっている。それを成したのが、冥王星から発射される遊星爆弾だ。
 冥王星基地に打撃を与えて、これを食い止める、というのはいかにも納得のいく作戦目的である。ガミラス側も、地球艦隊の総力を挙げたこの作戦に、全力で迎撃をしている。

 さて、それにしては――地球艦隊が妙に弱いようには思えないだろうか。
 ビーム砲は跳ね返されるわ、ガミラス艦の砲撃に対して地球艦隊の装甲は紙同然だわで、とてもではないが、戦いになっていない。
 作中で名前だけ出てくる第二次火星沖会戦では、ガミラス艦隊の侵攻を阻止できるほどの損害を与えたはずなのに……である。
 これには、戦場における準備と支援の有無が影響していると考えられる。
 地球艦隊は、火星において迎撃戦を行った。
 メ号作戦では、はるばる冥王星まで進出したあげく、迎撃されたのである。
 艦の性能差に加え、はるばる地球から(おそらく、有力な拠点は他にもうないものと考えられる)ワープ航法は使わずにやってきたのである。燃料(推進剤)もギリギリの状態だったのではないか。

 では、作中の描写を踏まえて、第二次火星沖会戦の展開を妄想してみよう。なお、妄想のソースとして谷甲州さんの『アナンケ迎撃作戦』を使用している。

2199_第二次火星沖会戦.preview

 

 火星での迎撃作戦前。ガミラス艦隊との交戦記録から、ガミラス艦の基本性能や、戦術については地球艦隊も理解していた。
 ワープ航法(ゲシュタム航法)を使わない場合の機動力はほぼ互角としても、彼我には火力と防御力に圧倒的な差がある。通常の戦い方では、勝ち目がない。

 地球艦隊が対抗策として用意したものがふたつ。
 ひとつは、ダイモスに設置した要塞砲である。
 もうひとつは、試作の反物質機雷だ。
 だが、どちらも運用には制限がある。
 要塞砲はガミラス艦が相手でもアウトレンジ砲撃が可能だが、射角に制限があり、また、冷却やエネルギーの注入に時間がかかるため、連射ができない。
 反物質機雷は、威力は十分だが大型なのでステルス化は困難。敵が接近すれば、搭載したブースターで加速しての攻撃が可能だが、通常の方法では接近する前に迎撃されて破壊されてしまう。

 沖田提督は、このふたつを組み合わせて運用する作戦を立てた。
 まず、火星のフォボス軌道に囮の艦隊と戦闘衛星を配置して、ここが火星の絶対防衛線であるように見せかけた。使われたのは、内惑星戦争時の旧式艦と、同じく内惑星戦争で火星独立同盟から終戦時に接収した戦闘衛星である。
 どちらも、追加の核融合エンジンを搭載させ、エネルギー(赤外線)反応を実際よりも高く見せかけてある。接近すれば、張り子の虎であることは明らかだが、この作戦は敵に接近されてしまえば、どちらにせよ負けである。
 続いて、ダイモス軌道にありったけのレーダー衛星を設置した。レーダー衛星群は要塞砲とデータリンクされており、接近するガミラス艦隊をアウトレンジ攻 撃するための照準データを送り届ける役目である。数が多いのはデータの精度と、戦闘開始直後から敵の攻撃でその多くが失われることが想定されていたからで ある。
 最後に、地球艦隊の主力艦は、主砲の1/3~2/3を降ろして身軽になり、代わりに反物質機雷を曳航・敷設する機能を備え付けた。そして、ダイモスのクレバス内部で、息を潜めて作戦開始を待ち続けたのである。

 戦闘は、沖田提督の想定通りに始まった。
 ゲシュタムアウトしたガミラス艦隊は、フォボス軌道に浮かぶ囮艦隊と戦闘衛星をテロンの主力と考え、接近を開始した。これまでの戦いからテロンの艦艇の 砲撃力を甘く見ていたのだろう。ダイモス軌道のレーダー衛星群からのレーダー照射も、さほど気にする様子がなく、艦隊を前進させた。

 十分な照準データを蓄えた後、ダイモスの要塞砲が砲撃を開始した。最初の一発は狙い違わずガミラスの大型艦に命中。これを撃破する。
 こしゃくな要塞砲の反撃に、ガミラス艦隊はしばし混乱したが、要塞砲が連射できないことを察知するや、すぐさま駆逐艦隊を分遣し、要塞砲の死角に回り込んだ。その間に、要塞砲は七回砲撃をするが、命中は三発。撃沈できたのは最初の一隻を含めても二隻だけである。

 ここで沖田提督の罠が発動する。

 ダイモスのクレバスから、偽装地表を突き破って、地球艦隊が躍り出たのだ。地球艦隊はいずれも大型の反物質機雷を一個、ないし二個曳航していた。そして、接近するガミラス艦隊の軌道前方、宇宙的な距離感覚ではすぐ鼻先で切り離したのである。
 ガミラス艦隊に与えた被害は甚大なものがあった。七割の駆逐艦が撃破され、残りも大量にばらまかれた高出力ガンマ線によってむき出しのアンテナ類に損傷を被ったのである。
 そしてそこに、反物質機雷を切り離して身軽になった地球艦隊が転進して迫ってきた。
 艦砲の撃ち合いとなれば、ガミラス艦隊はさすがのタフさを見せたが、地球艦隊は損害にかまわず肉薄して主砲とミサイルをたたき込む。戦いはこのまま、地球艦隊が優勢で終わるかと思われた。

 だが、ここで新たなガミラス艦隊がゲシュタムアウトする。
 ガミラス艦隊を率いるシュルツもまた、艦隊をふたつに分け、ゲシュタム航法を使った時間差攻撃で地球艦隊の側背を衝く作戦を立てていたのである。反物質機雷を使い尽くし、激しい機動戦で推進剤の多くを消耗した地球艦隊に、この新たな艦隊と戦う力はなかった。

 それでも、地球艦隊は死力を振り絞って最初のガミラス艦隊(α)を壊滅に追いやり、新たなガミラス艦隊(β)の追撃を振り切って地球へと撤退に成 功する。だが、その時には艦隊の九割が失われ、ダイモスもフォボスも陥落し、囮艦隊や戦闘衛星のすべてが破壊され尽くしていた。
 地球艦隊は、この時点で宇宙戦力をほぼ喪失したが、ガミラス側もまた、ゲシュタム航法も持たない辺境の蛮族相手としては前代未聞の手痛い損失を被ってい た。慎重なシュルツ司令は――二等ガミラス人である自分たちの空間機甲旅団に増援があるはずもないという現実も踏まえて――地球への直接侵攻を断念。以後 の作戦を、冥王星からのロングレンジ攻撃に切り替えることとなる。

 

宇宙の戦場:宇宙戦艦ヤマト2199 第1章冒頭10分を見てのSFネタ解説

2012年3月31日 『宇宙戦艦ヤマト2199』のSFネタ解説 No comments , , , , , , , , ,

 この春から公開予定の『宇宙戦艦ヤマト2199』。リメイクされた新たなヤマトの第1話冒頭10分が、バンダイチャンネルで期間限定で配信されている。
 密度の濃い映像に、蛇足を承知であれこれSFネタ解説と、ついでに妄想考察を入れてみよう。

1:「ゆきかぜ」の役割
 先遣艦「ゆきかぜ」は第1艦隊に先行して、冥王星に接近している。
 「ゆきかぜ」の役割は、敵(ガミラス)の動きを確認し、第1艦隊が安全に冥王星まで到達できるよう、水先案内人を務めることである。
 この時、「ゆきかぜ」は無線通信ではなく発光信号(ビームを絞ったレーザー照射?)で後続の第1艦隊に敵影を確認せず、と伝えている。
 それは第1艦隊が「無線封鎖」をしていたためだ。

 「無線封鎖」とは、敵の逆探知を避けるために電波の発信を控えることである。通信だけではなく、レーダーの使用も禁止される。
 遠距離の敵を探るには本来はレーダーが便利だ。だが、レーダーは電波で周囲を照らし、その反射で敵を浮かび上がらせるため、敵がレーダー波を探知するセ ンサを備えていれば、自分がここにいることを知らせるはめになる。いわば、レーダーを点けたままで冥王星の近くに行くのは、闇夜の中で懐中電灯を持って敵 地へ近づいているようなもの。懐中電灯の明かりで何かを細かく識別するには、かなり近づかないといけないが、誰かが懐中電灯を持って近づいてきている、と いうのは冥王星にいるガミラスからは丸見えになる。

 ここから先は妄想であるが、先行する「ゆきかぜ」は、画面の外に、電波、赤外線、あるいは重力波のための巨大な受信アンテナを有線で曳航していた のではあるまいか。アクティブな波を出すレーダーと違い、赤外線や重力波はパッシブであるから、己の存在を敵にさらす危険が少ない。偵察衛星の配置など、 敵基地がある冥王星の防衛状態を確認するためにも、先遣艦「ゆきかぜ」には使い捨ての曳航アンテナがあるとうれしい。(私が)

2:待ち伏せされた第1艦隊
 だが、ここまでしても第1艦隊はガミラスの待ち伏せと迎撃を受ける。
 艦種識別画面では次のように読める。
 『ガ軍超弩級宇宙戦艦』1(シュルツの旗艦?)
 『ガ軍宇宙戦艦』7
 『ガ軍宇宙巡洋艦』22(読み上げは、『ふたじゅうふた』)
 『ガ軍宇宙駆逐艦』89~(多数)
 特にここで注目したいのが、『超弩級1』である。旧テレビ版と同じくガミラスの冥王星基地司令シュルツが乗る旗艦がこの時点で1隻しか冥王星に配備されていないのだとしたら、これは偶然パトロールしていたガミラス艦に見つかった、というレベルのものではない。
 ガミラスは、明らかに第1艦隊の動きを把握し、全力で迎撃に出てきたのである。1隻も逃さず殲滅するつもりで。
 ガミラス艦隊の動きからも、それは伺える。ガミラス艦隊は、正面に浮かぶ冥王星から迎撃にやってきていない。「右舷、40度」つまり、側背から追いかけ て合流するかのように接近している。艦隊同士の相対速度はゼロに近く、第1艦隊がどっちの方角に逃げようとしても、無理なく追随できる「同航戦」の状況に 持ち込んでいる。
 相手の動きを見切り、戦力を揃えた圧倒的な優位こそが、「直ちに降伏せよ」という余裕綽々の通信となっているのだろう。

3:「アマノイワト開く」――囮となったオザワ……じゃなくて沖田艦隊
 続く戦いは、ガミラスが予想していた通りに進む。冥王星までたどりついた第1艦隊は、ガミラス艦隊にまるで歯が立たず、次々と轟沈していく。一方的な殲 滅戦。まるで日露戦争の日本海海戦(ツシマ海戦)におけるロジェストヴェンスキー率いるバルチック艦隊(第2太平洋艦隊)もかくやの無惨さである。
 だが、沖田は自らの家族とも言うべき乗員と地球にとってもはやかけがえのない虎の子の艦隊が屠殺される中、じっと耐え、待ち続ける。
 何を? 「あまてらす」からの入電を、である。
 そして入る通信。太陽系の外からの飛行物体(イスカンダルの連絡船)が海王星軌道を通過したというのである。
 2199年時点の太陽系の惑星配列では、冥王星と海王星は、何十億kmも離れている。なぜ、そんな遠くを通過して太陽系に入る宇宙船が大事なのか?

 ここで、この冥王星会戦(ネ号作戦)の真の姿が明らかになる。
 国連宇宙軍と沖田司令は、人類に残された最後の艦隊をこの一戦ですり潰す覚悟を決めて、イスカンダルからの宇宙船がガミラスの哨戒網をくぐり抜けられるよう、陽動にでたのである。戦史でたとえるならば、レイテ沖海戦における小沢艦隊のように。
 そして彼らはこの無謀な賭けに似た作戦に成功した。
 ガミラスは太陽系に配備された艦隊戦力の全力でもって第一艦隊に対する迎撃を行い、イスカンダルからの連絡船を見逃してしまったのである。

4:火星の回収要員
 イスカンダルの連絡船が目指す星は、火星である。
 これは、冥王星会戦のあるなしに関わらず、地球にはこの時点でガミラスの偵察部隊が常時貼り付いているからと思われる。おそらく、偵察にも爆撃にも使え るマルチロールな宇宙戦闘機を搭載した戦闘空母がローテーションを組んで地球周辺を警戒しているのだろう。イスカンダルの連絡船は非武装で、発見されれば 簡単に撃墜されてしまう。だから、イスカンダルからの連絡船が到着するのは、ガミラスとの戦闘で死の星となった――それゆえに、ガミラスも警戒していない ――火星と最初から決められていたのだと考えられる。
 ここまでの展開や登場人物の言動から、ヤマト2199が、最初のヤマトと導入部分を大きく変えていることが分かる。イスカンダルからの連絡と援助は、こ れが最初、というわけではないのだ。すでに何度か無人機でやりとりが行われており、ある程度はイスカンダルを信用できる交渉相手と認めている節が伺えるの である。波動エンジンやワープ機能を搭載したヤマトの建造も、無人機で伝えられたイスカンダルからの事前情報で行われているのだろう。
 火星の回収要員は、古代進と島大介のふたりである。「3週間前に落とされた」と会話にあるように、カプセル型の居住基地を宇宙船から分離(冥王星へ向かう途中の第1艦隊から?)してそこで待機していたのだろう。
 通信カプセルを手にして「これか」と島大介が言ってるが、ブリーフィングでイスカンダルについての基礎情報はふたりとも得ているからか、ためらうことや、とまどう場面がない。テンポが良く、好印象。

 以上、第1章冒頭10分を見ての『宇宙戦艦ヤマト2199』のSFネタ解説である。
 もちろん、これは私が映像を見ながらあれこれ妄想したもので、実際には違う可能性があることを、お断りしておく。

 それにしても、こんな立派なものが、期間限定とはいえネット配信される時代になるとは良い時代になったものである。