エドモンド・ハミルトン

『宇宙戦艦ヤマト2199』のSFネタ解説その2:コスモリバースシステム

2013年5月24日 雑記, 『宇宙戦艦ヤマト2199』のSFネタ解説 1 comment , , , , , , , , , , , , ,

 宇宙戦艦ヤマト2199に出てくるギミックや台詞を元に妄想をたくましくしていくSFネタ解説シリーズの2回目。
 今回は人類救済のためのコスモリバースシステム、旧作では放射能除去装置コスモクリーナーDについてである。

 いったい、あそこまで破壊された地球の環境を復活させるというコスモリバースシステムとは、いかなるものだろうか。

 まず考えられるのが、旧作のコスモクリーナーDと同じような機械がイスカンダル星にあって、それを部品の状態でヤマトの中に運び込んで組み立て、地球に帰還すると地球が青い星に戻る、というパターンだ。

 このパターンだと、干上がった地球の海が戻り、動物や植物が復活し、しかもそれがごくごく短い時間で成し遂げられるというわけなので、

「ぱんぱかぱーん!世界創造装置ー」
「それはなんだいドラえもん」
「七日間で世界をひとつ創造するという装置さ。もちろん、作られるのは小さな箱庭世界だけど、未来の小学校では夏休みの宿題に、世界創造観察日記というのがあるくらい、よく使われている装置なんだ」
「劇場版じゃあるまいし、それじゃエドモンド・ハミルトンの『フェッセンデンの宇宙』だよ。ロクなオチが待ってないと思うな」
「21世紀ののび太くんは、ノリが悪いなぁ」

 という、ほとんどドラえもんの不思議道具並のパワーが装置に必要となる。
 いずれにせよ、地球環境の現状を考えると、こうした形での再生で一番ネックになるのが、時間である。何しろ人類滅亡までおよそ一年という時間を区切って いるのがヤマト世界だ。コスモリバースシステムを持ち帰ったはいいが、地球再生に千年も二千年もかかっていたのでは、地下都市に暮らす人々が全滅してしま う。
 時間を圧縮する方法として20世紀末あたりからSFでよく使われてきたのが、ナノマシンの使用である。今流行のノリでいくと、ナノマシンで作った物質を3Dプリンタ方式で組み立てて、植物や動物を作り出すのだ。
 このノリでいくともうひとつの地球が作れるということで……

「カーティス、きみは地球をもうひとつ造れるというのか」
「もうひとつの地球を造れるかと聞いたんだ、カーティス。山や海や街を造り、男や女や子供たちの声でいっぱいにすることができるのか。そして、もうひとりの、オットーやグラッグやサイモンを造れると言うのか」
(エドモンド・ハミルトン『物質生成の場の秘密』より)

 またもやエドモンド・ハミルトンが!

 さらに逆転の発想としてロバート・チャールズ・ウィルスンの『時間封鎖』手法がある。生き残った人間の方を時間的に凍結しておいて、地球環境が何万年かかけて復活するまで待ってからこれを解凍するという方法が考えられる。
 時間操作となるとかなりの超技術だが、ラリイ・ニーヴンのノウンスペースシリーズで登場した停滞フィールド的なものを使えば、ヤマト2199の作中のテクノロジー的にも妥当な範疇で何とかなりそうだ。人類が暮らす地下都市を、停滞フィールドに閉じこめておくのである。

 あとは並行宇宙とアクセスする技術を使って、人類が誕生していないが自然がそのままの並行宇宙から、地球を引きずりだして今の赤茶けた地球と交換 するという荒技もある。そろそろこのあたりになると、ハリイ・ハリスンの『ステンレス・スチールラット 世界を救う』っぽくなってきたな。

 なんにしても、遊星爆弾であそこまでむちゃくちゃになった地球を元に戻すのはよほどのテクノロジーがなくては難しそうである。惑星環境というのは、破壊するのは簡単だが再生してバランスを取り戻すには手間がかかるのである。

 だがしかし。
 ここでやはり、大いなる疑問が出てくる。
 いったいぜんたい、なぜ、イスカンダルは、そしてスターシャは「地球の環境を回復させる」ために「イスカンダルまで来い」という迂遠な方法をとっているのか、ということだ。
 これが神話や民話などの物語世界であれば、この流れはごくごく自然なものである。
 ウラジーミル・プロップが『昔話の形態学』で31の類型にまとめたように、物語はしばしば、主人公に試練を課してその力を証明させる。そこで使われるの が、苦難の旅路だ。連れ去られた幼なじみを取り戻すために、雪の女王の宮殿に行ったアンデルセンの『雪の女王』のように、ヤマトは地球環境を取り戻すため に、イスカンダルへ向かうのである。
 ヤマト2199も物語である以上、この構造自体に問題はないが、SF的な仕掛けもまた、そこにありそうである。

 そこで出てくるのが第5章で登場したビーメラ4の遺跡である。
 ビーメラ4には、今から400年ほど前にイスカンダルの使者がやってきて、波動コアを渡して、当時はまだ存在していたビーメラ星人に救済を約束している。
 遺跡や、不時着したイスカンダル宇宙船の様子からみて、どうもビーメラ星には恒星間航行に十分な科学力がまだ存在しなかったのではないかと考えられる。

 にも関わらず、イスカンダルが示した救済策は「イスカンダルへ来い」であったようだ。波動コアの内部情報からみて、ビーメラ星人に与えられた情報 の中にはイスカンダル人が作り(400年前の時点では)ガミラス人がメンテナンスしているゲートネットワークの情報も入っている。
 つまり、十分なワープ技術を作れないであろうビーメラ星人には、ゲートネットワークによるショートカット航路を、イスカンダルは示したと思われる。

 そしてもうひとつ、ビーメラ4の遺跡で気になる点がある。
 それは、イスカンダルの宇宙船が「そのまま」である点だ。
 これまで、サーシャの乗っていた宇宙船が1話で火星まで到達したところで爆発したから忘れていたが、実はイスカンダルからの宇宙船はもう1隻、ユリーシャが乗って無事に到着した1年前の宇宙船があるのだ。
 それはどうなったのか?

 思うに、もともとイスカンダルから送られる宇宙船というのは『一方通行』なのではないだろうか。サーシャの宇宙船のように爆発せずとも、地球に着陸したところで、自壊して機能を停止してしまうような。
 イスカンダルの、スターシャの一族は、400年の昔から、あるいはそれよりはるか昔から。滅亡の危機が訪れた知的生命体の星に、そうやって一族を宇宙船で送り出した。救済が欲しければ、イスカンダルへ来るよう伝えるメッセージを携えて。
 そして、成功すれば、一族のものは知的生命と共にイスカンダルへと帰還する。
 失敗したら――そう、失敗したら、その星で一生を終えるのである。ユリーシャも、サーシャも、元から任務に失敗すればイスカンダルへ戻れない運命だったのだ。
 400年前、ビーメラ4に送り込まれた過去の姉妹がそうであったように。

 これはまた、えらい覚悟である。なるほど、ある程度は裏の事情を知っていた沖田艦長がメ号作戦において「信じるんだ、彼らを」と言ったのも分かる。血を分けた一族の者を地球人と道連れにする覚悟で、イスカンダルは地球を救済しようというのだから。
 いったいぜんたい、何がイスカンダルをして、そのような理想追求というか、宗教的な情熱に駆り立てているのか。
 そこについては、まだ不明である。ガミラスとの関係も、何やらきな臭いものを孕んでいるようだ。

 しかし、もしすべての裏側に救済という名の罠があるとしても、どうやらスターシャやユリーシャらの一族は(ひょっとしたらガミラスやデスラーも!)その犠牲者であるらしい、と考えられる。
 滅びたくなければイスカンダル星へ来い、という救済の仕組みは、400年以上前から、地球やガミラスとは無関係なところで存在していたようだからだ。

 ガミラス人と地球人が遺伝的にほぼ同一であるように(そして、第5章冒頭で滅ぼされた惑星オルタリアの住人や、シュルツ司令の故郷ザルツも)大マゼランから銀河系にかけては広く、同一種族がはるか大昔に播種された可能性がある。
 それがイスカンダルの唱える救済とやらのシステムを作り出した連中だろう。
 我らの銀河系や大マゼラン銀河が巨大な「農場」だとすれば。
 イスカンダルの救済は、種をまいた「農夫」が用意したツールなのかもしれない。
 それぞれの惑星で育った「苗」が、日照りやその他の理由で滅びようとしたら、イスカンダルがチェックをする。よく育った「苗」であれば、救済を。育ってない「苗」はそのまま間引くのである。
 ビーメラ4は間引かれた。「農夫」が望む知的生命体としては、出来が悪かったからである。
 では、地球人は?
 地球に育った「苗」は、果たして間引くべきか?
 それとも、コスモリバースシステムという救済を与えて、育てるべきか?

 そして、だとすると。
 すでにコスモリバースシステムは、地球にあるのではないだろうか?
 「農夫」が「苗」を育てるために、地球環境をはるか昔に操作したシステムは、今も地球の地下深くに残されており、イスカンダルへ到着する、というのは、そのシステムを再起動するための試練であるのかもしれないのだ。

『機動戦士ガンダムAGE』のSFネタ解説その6:火星植民

2012年2月28日 『機動戦士ガンダムAGE』のSFネタ解説 No comments , , , , , , , , , , , , , , , ,

 機動戦士ガンダムAGEに出てくるギミックや台詞を元に妄想をたくましくしていくSFネタ解説シリーズの6回目。

 第6回はガンダムAGEの敵役、UE(アンノウンエネミー)あらためヴェイガンが生まれるきっかけとなった火星植民である。真面目七分に法螺三分、大嘘ついても小嘘はつくなの三割精神でいく。最後までおつきあいいただければ、幸いである。

 火星植民とその失敗というと、SFでその例は列挙の暇もない。
 有名どころをいくつか紹介すると、レイ・ブラッドベリの『火星年代記』。これの失敗は、人々が地球に魂を引かれてしまったからだ。東西の冷戦が全面核戦 争となり、ラジオでそのニュースを聞いた火星植民地の人々が、何やかにやと理由をつけて夜空に浮かぶ地球をながめていると、そこから発光信号で伝えられ る、戦争勃発の知らせと、「カエリキタレ」の言葉。この「カエリキタレ」は今読んでも涙がだばだばとあふれんばかりの名シーンである。
 また、光瀬龍さんの『宇宙史シリーズ』における火星植民都市も、その多くが荒廃し、砂に埋もれるようにして消えていく。火星の乾いた砂の上に作られたこの中でしばしば語られる“東キャナル市”という言葉は、日本SFの生み出した素晴らしい言霊のひとつであろう。
 漫画でいえば、萩尾望都さんの『スター・レッド』の火星でも植民が失敗している。なぜかあらゆる胎児が死んでしまうため、植民不可として見捨てられた火 星は流刑星として扱われるが、そこでどういうわけか生き残り、子孫を残し続けた火星人が超能力を得て、再び地球を訪れた人間と敵対する、というものであ る。
 ガチな戦争というと、川又千秋さんの『火星人先史』はカンガルー改良型の知的生物を火星に送り込んで奴隷&食料として使役するもカンガルーの反乱で火星 から人間が追い出されてしまうし、荒巻義雄さんの『ビッグ・ウォーズ』では火星はテラフォーミングによって海を持つ惑星になるも、太陽系に帰ってきた神々 によって人類は火星から駆逐されてしまう。

 さて――それまで大量に描かれていた火星植民を扱ったSFは、ヴァイキング1号、2号が火星に到着した頃になると、しだいに新しい話があまり語ら れなくなっていく。もちろん、『マン・プラス』『赤い惑星への航海』『レッドマーズ』『火星夜想曲』『火星縦断』などなど、その後も火星を扱ったSFはそ れなりに豊作である。谷甲州さんの『航空宇宙軍史』でも、『火星鉄道一九』のように、オリュンポス山の火口をまるごとリニアカタパルトにしている工学技術 的に希有壮大なお話も出てくる。

 だが、それらに共通するのは――『火星夜想曲』のような、少しファンタジー寄りの話をのぞくと――ガチでハード寄りのSFなのである。
 ひとむかし前の、火星にまだ運河が見えてた時代には、それこそH.G.ウェルズが『宇宙戦争』でタコ型の火星人だしたり、エドモンド・ハミルトンの 『キャプテン・フューチャー』シリーズの地球よりも古い古代王朝が存在する星だったり、エドガー・ライス・バロウズの『火星のプリンセス』あられもない格 好のお姫様に卵を産ませたりと「ちょっとエキゾチックで、手頃な舞台装置」として扱われていた火星も、気が付けば、生半可な科学知識で触れにくい、ちょっ と重たい星になってしまったのだ。

 そして同時に、火星の扱いが難しくなった理由のひとつが「なんで苦労して火星で暮らすの?」である。これは、こと日本においてはガンダムもおおい に関係していると我田引水できなくもない。機動戦士ガンダムが、「スペースコロニー」という宇宙に浮かぶ人工の大地を、もっともらしく描けてしまったせい で、「わざわざ惑星に降りなくても」という、コペルニクス的転回が、あまりSFに濃くない人にも、それなりに広まったのである。やはり、視覚情報は偉大で ある。
 実際問題として、火星を「人が暮らすようにする」ためのテラ・フォーミングには、どう見積もっても、天文学的な時間とお金がかかる。お金の方は何とか誤 魔化すとしても、時間は難しい。なお、これまたコロンブスの卵的に「時間がかかるなら、時間を早めればいいじゃない」という火星植民のSFがロバート・ チャールズ・ウィルスンの『時間封鎖』である。
 むろん、ここでも人間の叡智に限りはなく、「火星全部をテラ・フォーミングしようとするから難しいんだ。火星には渓谷がたくさんあるんだから、そこに蓋 してその底だけ暮らせるようにするとかどうだろう」とか「特殊な植物でドームのように覆った中で暮らすというのはどうだろう」とかいろいろと手は考えられ ている。アニメ『カウボーイ・ビバップ』の火星も、そんな風にして都市の周囲に、空気の壁を作っている描写があった。

 だが、やはり火星は遠い。
 そこに植民都市のひとつふたつを作るのは何とかなっても、大金のかかるプロジェクトを、いつまでも維持することは政治的な理由で難しいだろう。
 
 そこで思い出すのが、人類が月へと熱狂的に向かった1960年代の月レースである。
 松浦晋也さんが、この時代の宇宙開発をして『戦争型宇宙開発』(大人の科学マガジン/ロケットと宇宙開発)と称されたことがあるが、戦争や宗教などで生まれた人々の熱狂は、時に、経済原則を無視してでもひとつの方向へすべてを投入することがある。
 ガンダムAGEにおける過去に連邦が行った『マーズ・バースディ計画』というのは、そういう、一時の熱狂が生み出した計画なのかもしれない。そして熱狂 が冷めた時、連邦も、地球に残った人々も、火星について忘れてしまったのだろうか。金のかかる地球からの物資や援助を打ち切り、それが火星に住む人々の命 の綱を断ち切ることにつながると分かっていても、いや、分かっていたからこそ、後ろめたさのこもった思いから、すべてを「忘却しようとした」のではないだ ろうか。
 次第に乏しくなる物資をやりくりしながら、火星の人々は、明日は、物資が届くか。来年には、支援が再開されるのではないか。そう望み、何度も地球へ通信を送るが、やがて自分たちが捨てられたことに気付かされる。
 明日の人類の未来を切り開く英雄として送り出されながら、金や物資がもったいないからという理由で打ち捨てられ、それだけなら我慢もできたろうに、記録も消され、すべてが「なかったこと」にされていく。
 ある程度民主的で、そこそこに開かれた情報化社会でそのようなことができる場合、その理由は一部の支配階級、ビッグブラザー的な統制ではありえない。地 球に暮らす人々の多くが、政府が消していく火星植民の情報を、「黙って受け入れた」からに他ならない。罪の意識を、いつまでも持ち続けたくないがために。
 そしてそれこそが、ヴェイガンという組織の根幹にあるのだろう。政治的・経済的な理由で援助が打ち切られたのなら、それは仕方がない。そもそもが、火星植民とは無理のある計画だったのだ。壮大な計画が失敗に終わったことは無念ではあるが、受け入れることもできよう。
 けれども、「なかったこと」にされるのだけは。これは許せない。
 火星植民に抱いた夢を、理想を。それが無惨に打ち捨てられていく過程での苦労を、悲しみを。
 そのすべてが、「なかったこと」にされてしまうのであれば。
 それらの思いは、どこに行けばいいのか。
 ヴェイガンが、そうやって生まれ、「なかったこと」にされた恨みを糧に成長していったのだとすれば。
 彼らがUE(アンノウン・エネミー)と呼ばれていることを知りながら、長い間、じっと沈黙を守り続けたことには、理由があったのではないかと私は考える。

 ――呼んでくれ。
 ――私たちの名前を呼んでくれ。
 ――私たちの先祖が、どうやって、どこに送り込まれたのか、言ってくれ。

 もしここで、彼らの名前を呼んでやっていれば。
 「なかったこと」にした過去を取り戻させてやれば。
 UE(アンノウン・エネミー)との間には、また、別の関係が築けたのかもしれない。