●空母と基地航空隊
 我が艦隊の正規空母は、今もって〈赤城〉1艦のみである。
 これは、艦隊に配属されたばかりの〈赤城〉が、いきなり大破して大量の鋼材をむさぼる(当時は枯渇状態だったので、しばらく放置)という暴挙をやってのけたからである。
 正規空母1隻で、この体たらくである。もしこれが2隻になったら、艦隊の兵站は崩壊しかねない。ドロップ品であればともかく、わざわざ生産してまで手に入れようとは考えない。

 また〈赤城〉加入前に、すでに軽空母〈祥鳳〉と〈隼鷹〉が戦力化していたことも大きい。これら2艦のうち、特に〈隼鷹〉は搭載機数も多く、正規空母に引けを取らない航空戦力を運用でき、さらには資源の消費量も常識的な範疇に収まっていた。
 その後も、軽空母は数を増やしていき、現在では〈隼鷹〉と同じく商船改造空母の〈飛鷹〉も加わっている。艦隊の最大数が6隻というゲームの仕様もあり、 正規空母は〈赤城〉の1隻で、後は必要に応じて〈祥鳳〉〈隼鷹〉〈飛鷹〉を艦隊に組み込めばそれで足りるようになっている。これらはいずれもレベル25以 上になっており、搭載機も零戦52型、流星艦上爆撃機と一世代上だ。さすがに装甲と耐久力は低いが、誘爆して沈まないように、応急修理要員を装備してい る。艦隊がまだ弱かった頃からの付き合いであるこいつらが沈むと、さすがに立ち直れそうにない。

 艦これのプレイヤー提督は、空母は兵站に多大な負担をかけ、しかもすぐにボロボロになって回復に時間がかかる、という印象を抱いている人も多いだろう。
 そしてそれは、ほぼ間違いない。
 空母とは、戦力を維持するのがとても大変な兵器なのだ。

 戦闘において、空母そのものが攻撃の対象となるのは、これは致し方ない。なので艦隊の他の全艦艇は、空母を守るためにある。空母機動艦隊が空母を中心に置き、護衛艦艇を周囲に配置した輪形陣を組むのも、そのためである。
 ミッドウェイ海戦で主力空母4隻を一気に失った日本海軍はさらに徹底していて、空母艦隊と敵との間に、戦艦を中心にした前衛艦隊というのを置いて、敵へ の警戒と、いざという時の盾役を担わせている。さらに戦争の後期になれば、後方に置いた空母艦隊とは別に、前方に装甲空母を配置して、ここを中継基地に敵 空母にアウトレンジ攻撃を仕掛けようと画策するほどである。
 ミッドウェイ海戦というのは、それほどに日本海軍に強い衝撃を与えたのである。
 アウトレンジにこだわったのは、互いに距離を詰めての空母同士の戦いが、せいぜい相打ちにしかならない現実があった。相打ちでは、生産力に勝るアメリカ 海軍に勝てない。日本にとっての勝機は、こちら側だけが相手に一方的にダメージを与える作戦にしかなかった。日本海軍のたてる作戦はどんどん巧妙で複雑に なり、ちょっとしたトラブルで瓦解してしまう現実味のないものへ変わっていく。

 しかし、日本海軍のこうした努力は実ることなく終わる。

 空母機動部隊を再建することはできても、それだけでは意味がない。空母はあくまで航空機を運用するための洋上移動基地であり、搭載された航空機そのものが戦力であるからだ。
 日本海軍とて、母艦航空隊の育成に力を注がなかったわけではない。しかし、アメリカと違って戦前の日本では自動車も飛行機も、ほとんど存在しなかった。民間のパイロットは少なく、大量に育成するための組織や資源を手に入れることもできなかった。
 苦労して育てた母艦航空隊も、南太平洋の消耗戦によって失われていき、新たな機体の開発もさまざまな制約からうまく軌道にのらなかった。

 太平洋の戦いも後半になると、日本海軍は空母機動部隊を再建するよりも、トラックやサイパンなどの島に作った航空基地に航空隊を配置し、その戦力 で戦おうと計画するようになる。空母は沈むが、島は沈まない。それに、地上配備であれば、空母搭載機に比べて大きさや運用面で自由がきき、より高性能の機 体が開発できる。
 アメリカ海軍が空母を連ねて島に攻め込んできた時に、空母機動部隊と基地航空隊とが連携して戦えば、戦力差をくつがえして互角以上の戦いが可能だと考えられたのだ。

 しかし、日本海軍のこうした努力もまた、実ることなく終わる。

 アメリカ海軍は、艦これで言えば重課金プレイヤーで資源もバケツも使い放題である。彼らは、何度も何度も、艦隊を出動させて日本海軍に揺さぶりを かけた。日本海軍は、これに対応できない。出撃すれば、燃料がなくなる。機体も整備しなくてはいけない。日本海軍の基地航空隊も、空母機動部隊には、何度 も出撃するだけの資源もバケツもないのである。アメリカ海軍に振り回されているうちに、ロクな戦果もあげることなく、再建した航空隊は消耗してしまう。そ してそこに、アメリカ海軍が主力を率いてやってくるのだ。

 結局のところ、負けようが作戦が失敗しようが、何度でもやり直せるアメリカ海軍に、たとえ一度や二度はうまく作戦が決まって勝利しても、何度も同じ作戦を行う余裕のない日本海軍に勝ちの目など、最初からなかったのである。

 ありがたいことに、艦これでは、こちらが消耗したところに敵が攻めてくることはない。
 プレイヤー提督が「さて、今日のウチの娘たちはどうしているかしら」とブラウザでつなげたら、炎上する鎮守府と、港に押し込められたまま沈む艦娘たちの阿鼻叫喚を見せられたりはしないのである・・・しないよね?

 であればこそ、プレイヤー提督は、艦が修理され、資源が十分に貯まるまでじっと我慢して、それから戦いに挑むことも可能であり――

 そしてそれこそが、史実の日本海軍には、いかに望んでもかなわぬことであったのだ。