●水雷戦隊の憂鬱
 海軍休日(ネイバルホリデー)を始めて数日が経過した。

〈天龍〉「提督ー、暇だー、戦争しようぜ、戦争ー」

 積極的な攻勢に出ず、新たに加わった正規空母と戦艦のレベル上げと改造に専念していたせいで、しだいに資源が蓄えられてきた。

 石油:10k(1万)
 弾薬:12k(1万2千)
 鋼鉄:4k(4千)
 ボーキサイト:9k(9千)
 バケツ:30個
 司令部レベル:57(資源備蓄最大数15k)

 資源は期間限定マップ攻略以前の数字を超えるようになった。
 修理用ドックが4つになったので、バケツの消費も抑えられている。

〈天龍〉「資源余ってんじゃんかよー。殴り込みしようぜー、新しいマップでよー」

 こうしてのんびりと、鎮守府の港に釣り糸をたらしつつ資源の備蓄とレベルアップを繰り返していると、なんとなくこのゲームというものが見えてくる。

 艦これというゲームでは、資源というリソースを艦や装備(ハードウェア)に交換するか、あるいは、戦果とレベルアップ(ソフトウェア)に交換する か、提督が決めることができる。戦果の中にはドロップされる艦娘の確保もあるが、図鑑が埋まってくると、ほとんどの艦娘はだぶりであり、戦力化されること なく既存の艦娘に食われて、性能アップに使われることになる。

〈天龍〉「あれ? 俺、食わせてもらったことないぜ?」

 レベルが上がり、艦娘を改造(進化)させると、他の艦を食わせて得たボーナスはなくなる。そのため、改造した後に食わせる方が効率が良いし、無駄もない。

〈天龍〉「じゃあ、レベルアップさせろよー。空母や戦艦ばかりずるいぞー」

 いやあ、それがなぁ……お前は名前はスゴイんだけど、基本性能がなぁ……〈天龍〉って、英語にするとスカイドラゴンとかハイドラゴンとか、そんな 感じで、上級ルールブックにのってそうな名前なのに……オリエント系の古代種ドラゴンっつうたら、たいてい、魔法とか使えるんだぜ。なのにお前が使えるの は、酸素魚雷だけ。

〈天龍〉「RPG脳はやめろよ! 酸素魚雷が搭載できるんだからいいだろ!」

 うむ。魚雷攻撃は一発逆転の兵器で、酸素魚雷は夜襲では恐るべき効果を発揮する。それは認めよう。

〈天龍〉「だろ? 夜襲は艦娘のロマンだよなっ!」

 しかし、夜襲まで戦いが続くと、たいていボロボロになってんじゃん、お前。

〈天龍〉「ぐっ」

 敵に空母がいれば、空から爆弾降ってくるし、戦艦がいれば、2回砲撃&空襲がある。
 その間、無事でいられればいいが、当たれば軽巡や駆逐艦はタダではすまない。

〈天龍〉「そこを耐えるから、ロマンだろうが!」

 うん、そうなんだがな。ぶっちゃけると、そこまで敵を生かしておく方が戦い方としては、悪手なんだ。

〈天龍〉「う?」

 空母を使えば、敵に一撃も撃たせることなく沈めることができる。戦艦の砲撃で魚雷を撃つ前に仕留めるのもいい。
 人間の兵器の進化には、遠戦志向がある。より遠くから攻撃し、より我が身が安全になるようにする。我らがご先祖様は石のナイフに棒をくっつけて槍とし、さらには弓矢を作り出した。罠を仕掛けてそこに獲物を追い込む方法を考え出しもした。
 そして21世紀の現代、アメリカなどの先進国では安全な場所にいる兵士が遠隔操作で動かす無人機が、はるか彼方で敵を攻撃するようにもなっている。

 艦これにおいても、艦娘に戦艦や空母がそろいはじめると、これら強力な艦娘にリソースを集中して育てる方が、結果的に損害が少なくなって効率的なのだ。

〈天龍〉「むー……そりゃ、提督がそれでいいなら、俺が無理強いするわけにはいかないけどよ……でもよ、ゲームでまでそんな効率考えて楽しいのか?」

 効率の良いことをするのは、これはこれで楽しいのだ。
 しかし、お前の言うことにも一理はある。効率ばかり考えると、飽きがくるのが早い。
 たとえ非効率でも、ロマンを優先する時の方がドラマが生まれやすいこともある。

〈天龍〉「だろ? だろ? じゃあ、さっそく……」

 うむ、〈大井〉と〈北上〉と、ついでに拾ったばかりの〈夕張〉を育てて重雷装艦隊を作るのもいいかもしれんな。
 ……あれ、どうした〈天龍〉?

〈天龍〉「……うわーんっ、提督のバカーっ!」

 ちょっとからかいすぎたかな。
 けど、そろそろ南西諸島海域をクリアするため、沖ノ島海域攻略にかかる頃合いかもしれん。

〈龍田〉「だめですよー、提督さんー? 〈天龍〉ちゃんをいじめる時には、私の許可をとってくださらないとー?」

 はい、すみません。謝ります。私が全面的に悪うございました。