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『宇宙戦艦ヤマト2199』のSFネタ解説その2:コスモリバースシステム

2013年5月24日 雑記, 『宇宙戦艦ヤマト2199』のSFネタ解説 1 comment , , , , , , , , , , , , ,

 宇宙戦艦ヤマト2199に出てくるギミックや台詞を元に妄想をたくましくしていくSFネタ解説シリーズの2回目。
 今回は人類救済のためのコスモリバースシステム、旧作では放射能除去装置コスモクリーナーDについてである。

 いったい、あそこまで破壊された地球の環境を復活させるというコスモリバースシステムとは、いかなるものだろうか。

 まず考えられるのが、旧作のコスモクリーナーDと同じような機械がイスカンダル星にあって、それを部品の状態でヤマトの中に運び込んで組み立て、地球に帰還すると地球が青い星に戻る、というパターンだ。

 このパターンだと、干上がった地球の海が戻り、動物や植物が復活し、しかもそれがごくごく短い時間で成し遂げられるというわけなので、

「ぱんぱかぱーん!世界創造装置ー」
「それはなんだいドラえもん」
「七日間で世界をひとつ創造するという装置さ。もちろん、作られるのは小さな箱庭世界だけど、未来の小学校では夏休みの宿題に、世界創造観察日記というのがあるくらい、よく使われている装置なんだ」
「劇場版じゃあるまいし、それじゃエドモンド・ハミルトンの『フェッセンデンの宇宙』だよ。ロクなオチが待ってないと思うな」
「21世紀ののび太くんは、ノリが悪いなぁ」

 という、ほとんどドラえもんの不思議道具並のパワーが装置に必要となる。
 いずれにせよ、地球環境の現状を考えると、こうした形での再生で一番ネックになるのが、時間である。何しろ人類滅亡までおよそ一年という時間を区切って いるのがヤマト世界だ。コスモリバースシステムを持ち帰ったはいいが、地球再生に千年も二千年もかかっていたのでは、地下都市に暮らす人々が全滅してしま う。
 時間を圧縮する方法として20世紀末あたりからSFでよく使われてきたのが、ナノマシンの使用である。今流行のノリでいくと、ナノマシンで作った物質を3Dプリンタ方式で組み立てて、植物や動物を作り出すのだ。
 このノリでいくともうひとつの地球が作れるということで……

「カーティス、きみは地球をもうひとつ造れるというのか」
「もうひとつの地球を造れるかと聞いたんだ、カーティス。山や海や街を造り、男や女や子供たちの声でいっぱいにすることができるのか。そして、もうひとりの、オットーやグラッグやサイモンを造れると言うのか」
(エドモンド・ハミルトン『物質生成の場の秘密』より)

 またもやエドモンド・ハミルトンが!

 さらに逆転の発想としてロバート・チャールズ・ウィルスンの『時間封鎖』手法がある。生き残った人間の方を時間的に凍結しておいて、地球環境が何万年かかけて復活するまで待ってからこれを解凍するという方法が考えられる。
 時間操作となるとかなりの超技術だが、ラリイ・ニーヴンのノウンスペースシリーズで登場した停滞フィールド的なものを使えば、ヤマト2199の作中のテクノロジー的にも妥当な範疇で何とかなりそうだ。人類が暮らす地下都市を、停滞フィールドに閉じこめておくのである。

 あとは並行宇宙とアクセスする技術を使って、人類が誕生していないが自然がそのままの並行宇宙から、地球を引きずりだして今の赤茶けた地球と交換 するという荒技もある。そろそろこのあたりになると、ハリイ・ハリスンの『ステンレス・スチールラット 世界を救う』っぽくなってきたな。

 なんにしても、遊星爆弾であそこまでむちゃくちゃになった地球を元に戻すのはよほどのテクノロジーがなくては難しそうである。惑星環境というのは、破壊するのは簡単だが再生してバランスを取り戻すには手間がかかるのである。

 だがしかし。
 ここでやはり、大いなる疑問が出てくる。
 いったいぜんたい、なぜ、イスカンダルは、そしてスターシャは「地球の環境を回復させる」ために「イスカンダルまで来い」という迂遠な方法をとっているのか、ということだ。
 これが神話や民話などの物語世界であれば、この流れはごくごく自然なものである。
 ウラジーミル・プロップが『昔話の形態学』で31の類型にまとめたように、物語はしばしば、主人公に試練を課してその力を証明させる。そこで使われるの が、苦難の旅路だ。連れ去られた幼なじみを取り戻すために、雪の女王の宮殿に行ったアンデルセンの『雪の女王』のように、ヤマトは地球環境を取り戻すため に、イスカンダルへ向かうのである。
 ヤマト2199も物語である以上、この構造自体に問題はないが、SF的な仕掛けもまた、そこにありそうである。

 そこで出てくるのが第5章で登場したビーメラ4の遺跡である。
 ビーメラ4には、今から400年ほど前にイスカンダルの使者がやってきて、波動コアを渡して、当時はまだ存在していたビーメラ星人に救済を約束している。
 遺跡や、不時着したイスカンダル宇宙船の様子からみて、どうもビーメラ星には恒星間航行に十分な科学力がまだ存在しなかったのではないかと考えられる。

 にも関わらず、イスカンダルが示した救済策は「イスカンダルへ来い」であったようだ。波動コアの内部情報からみて、ビーメラ星人に与えられた情報 の中にはイスカンダル人が作り(400年前の時点では)ガミラス人がメンテナンスしているゲートネットワークの情報も入っている。
 つまり、十分なワープ技術を作れないであろうビーメラ星人には、ゲートネットワークによるショートカット航路を、イスカンダルは示したと思われる。

 そしてもうひとつ、ビーメラ4の遺跡で気になる点がある。
 それは、イスカンダルの宇宙船が「そのまま」である点だ。
 これまで、サーシャの乗っていた宇宙船が1話で火星まで到達したところで爆発したから忘れていたが、実はイスカンダルからの宇宙船はもう1隻、ユリーシャが乗って無事に到着した1年前の宇宙船があるのだ。
 それはどうなったのか?

 思うに、もともとイスカンダルから送られる宇宙船というのは『一方通行』なのではないだろうか。サーシャの宇宙船のように爆発せずとも、地球に着陸したところで、自壊して機能を停止してしまうような。
 イスカンダルの、スターシャの一族は、400年の昔から、あるいはそれよりはるか昔から。滅亡の危機が訪れた知的生命体の星に、そうやって一族を宇宙船で送り出した。救済が欲しければ、イスカンダルへ来るよう伝えるメッセージを携えて。
 そして、成功すれば、一族のものは知的生命と共にイスカンダルへと帰還する。
 失敗したら――そう、失敗したら、その星で一生を終えるのである。ユリーシャも、サーシャも、元から任務に失敗すればイスカンダルへ戻れない運命だったのだ。
 400年前、ビーメラ4に送り込まれた過去の姉妹がそうであったように。

 これはまた、えらい覚悟である。なるほど、ある程度は裏の事情を知っていた沖田艦長がメ号作戦において「信じるんだ、彼らを」と言ったのも分かる。血を分けた一族の者を地球人と道連れにする覚悟で、イスカンダルは地球を救済しようというのだから。
 いったいぜんたい、何がイスカンダルをして、そのような理想追求というか、宗教的な情熱に駆り立てているのか。
 そこについては、まだ不明である。ガミラスとの関係も、何やらきな臭いものを孕んでいるようだ。

 しかし、もしすべての裏側に救済という名の罠があるとしても、どうやらスターシャやユリーシャらの一族は(ひょっとしたらガミラスやデスラーも!)その犠牲者であるらしい、と考えられる。
 滅びたくなければイスカンダル星へ来い、という救済の仕組みは、400年以上前から、地球やガミラスとは無関係なところで存在していたようだからだ。

 ガミラス人と地球人が遺伝的にほぼ同一であるように(そして、第5章冒頭で滅ぼされた惑星オルタリアの住人や、シュルツ司令の故郷ザルツも)大マゼランから銀河系にかけては広く、同一種族がはるか大昔に播種された可能性がある。
 それがイスカンダルの唱える救済とやらのシステムを作り出した連中だろう。
 我らの銀河系や大マゼラン銀河が巨大な「農場」だとすれば。
 イスカンダルの救済は、種をまいた「農夫」が用意したツールなのかもしれない。
 それぞれの惑星で育った「苗」が、日照りやその他の理由で滅びようとしたら、イスカンダルがチェックをする。よく育った「苗」であれば、救済を。育ってない「苗」はそのまま間引くのである。
 ビーメラ4は間引かれた。「農夫」が望む知的生命体としては、出来が悪かったからである。
 では、地球人は?
 地球に育った「苗」は、果たして間引くべきか?
 それとも、コスモリバースシステムという救済を与えて、育てるべきか?

 そして、だとすると。
 すでにコスモリバースシステムは、地球にあるのではないだろうか?
 「農夫」が「苗」を育てるために、地球環境をはるか昔に操作したシステムは、今も地球の地下深くに残されており、イスカンダルへ到着する、というのは、そのシステムを再起動するための試練であるのかもしれないのだ。

『宇宙戦艦ヤマト2199』のSFネタ解説その1:第二次火星会戦

2013年4月12日 『宇宙戦艦ヤマト2199』のSFネタ解説 No comments , , , , , , ,

 宇宙戦艦ヤマト2199に出てくるギミックや台詞を元に妄想をたくましくしていくSFネタ解説シリーズの1回目。
 第1話で名前だけ出てきた第二次火星沖会戦である。

 まずは2199年1月の太陽系の惑星の配置は以下の通り。
(※この図は、Solar System Liveを使って作成したものに、手を加えた)

2199_太陽系惑星配置図.preview

 第一話の冒頭。沖田提督率いる地球艦隊は、冥王星軌道の近くで、ガミラス軍と接触、交戦に入る。
 彼我の戦力は圧倒的で、地球艦隊はたちまち壊滅状態に追い込まれる。

 地球艦隊の目的は、表面上は、ガミラスの冥王星基地の破壊である。
 この段階で、地球は海が干上がり、赤茶けた死の星となっている。それを成したのが、冥王星から発射される遊星爆弾だ。
 冥王星基地に打撃を与えて、これを食い止める、というのはいかにも納得のいく作戦目的である。ガミラス側も、地球艦隊の総力を挙げたこの作戦に、全力で迎撃をしている。

 さて、それにしては――地球艦隊が妙に弱いようには思えないだろうか。
 ビーム砲は跳ね返されるわ、ガミラス艦の砲撃に対して地球艦隊の装甲は紙同然だわで、とてもではないが、戦いになっていない。
 作中で名前だけ出てくる第二次火星沖会戦では、ガミラス艦隊の侵攻を阻止できるほどの損害を与えたはずなのに……である。
 これには、戦場における準備と支援の有無が影響していると考えられる。
 地球艦隊は、火星において迎撃戦を行った。
 メ号作戦では、はるばる冥王星まで進出したあげく、迎撃されたのである。
 艦の性能差に加え、はるばる地球から(おそらく、有力な拠点は他にもうないものと考えられる)ワープ航法は使わずにやってきたのである。燃料(推進剤)もギリギリの状態だったのではないか。

 では、作中の描写を踏まえて、第二次火星沖会戦の展開を妄想してみよう。なお、妄想のソースとして谷甲州さんの『アナンケ迎撃作戦』を使用している。

2199_第二次火星沖会戦.preview

 

 火星での迎撃作戦前。ガミラス艦隊との交戦記録から、ガミラス艦の基本性能や、戦術については地球艦隊も理解していた。
 ワープ航法(ゲシュタム航法)を使わない場合の機動力はほぼ互角としても、彼我には火力と防御力に圧倒的な差がある。通常の戦い方では、勝ち目がない。

 地球艦隊が対抗策として用意したものがふたつ。
 ひとつは、ダイモスに設置した要塞砲である。
 もうひとつは、試作の反物質機雷だ。
 だが、どちらも運用には制限がある。
 要塞砲はガミラス艦が相手でもアウトレンジ砲撃が可能だが、射角に制限があり、また、冷却やエネルギーの注入に時間がかかるため、連射ができない。
 反物質機雷は、威力は十分だが大型なのでステルス化は困難。敵が接近すれば、搭載したブースターで加速しての攻撃が可能だが、通常の方法では接近する前に迎撃されて破壊されてしまう。

 沖田提督は、このふたつを組み合わせて運用する作戦を立てた。
 まず、火星のフォボス軌道に囮の艦隊と戦闘衛星を配置して、ここが火星の絶対防衛線であるように見せかけた。使われたのは、内惑星戦争時の旧式艦と、同じく内惑星戦争で火星独立同盟から終戦時に接収した戦闘衛星である。
 どちらも、追加の核融合エンジンを搭載させ、エネルギー(赤外線)反応を実際よりも高く見せかけてある。接近すれば、張り子の虎であることは明らかだが、この作戦は敵に接近されてしまえば、どちらにせよ負けである。
 続いて、ダイモス軌道にありったけのレーダー衛星を設置した。レーダー衛星群は要塞砲とデータリンクされており、接近するガミラス艦隊をアウトレンジ攻 撃するための照準データを送り届ける役目である。数が多いのはデータの精度と、戦闘開始直後から敵の攻撃でその多くが失われることが想定されていたからで ある。
 最後に、地球艦隊の主力艦は、主砲の1/3~2/3を降ろして身軽になり、代わりに反物質機雷を曳航・敷設する機能を備え付けた。そして、ダイモスのクレバス内部で、息を潜めて作戦開始を待ち続けたのである。

 戦闘は、沖田提督の想定通りに始まった。
 ゲシュタムアウトしたガミラス艦隊は、フォボス軌道に浮かぶ囮艦隊と戦闘衛星をテロンの主力と考え、接近を開始した。これまでの戦いからテロンの艦艇の 砲撃力を甘く見ていたのだろう。ダイモス軌道のレーダー衛星群からのレーダー照射も、さほど気にする様子がなく、艦隊を前進させた。

 十分な照準データを蓄えた後、ダイモスの要塞砲が砲撃を開始した。最初の一発は狙い違わずガミラスの大型艦に命中。これを撃破する。
 こしゃくな要塞砲の反撃に、ガミラス艦隊はしばし混乱したが、要塞砲が連射できないことを察知するや、すぐさま駆逐艦隊を分遣し、要塞砲の死角に回り込んだ。その間に、要塞砲は七回砲撃をするが、命中は三発。撃沈できたのは最初の一隻を含めても二隻だけである。

 ここで沖田提督の罠が発動する。

 ダイモスのクレバスから、偽装地表を突き破って、地球艦隊が躍り出たのだ。地球艦隊はいずれも大型の反物質機雷を一個、ないし二個曳航していた。そして、接近するガミラス艦隊の軌道前方、宇宙的な距離感覚ではすぐ鼻先で切り離したのである。
 ガミラス艦隊に与えた被害は甚大なものがあった。七割の駆逐艦が撃破され、残りも大量にばらまかれた高出力ガンマ線によってむき出しのアンテナ類に損傷を被ったのである。
 そしてそこに、反物質機雷を切り離して身軽になった地球艦隊が転進して迫ってきた。
 艦砲の撃ち合いとなれば、ガミラス艦隊はさすがのタフさを見せたが、地球艦隊は損害にかまわず肉薄して主砲とミサイルをたたき込む。戦いはこのまま、地球艦隊が優勢で終わるかと思われた。

 だが、ここで新たなガミラス艦隊がゲシュタムアウトする。
 ガミラス艦隊を率いるシュルツもまた、艦隊をふたつに分け、ゲシュタム航法を使った時間差攻撃で地球艦隊の側背を衝く作戦を立てていたのである。反物質機雷を使い尽くし、激しい機動戦で推進剤の多くを消耗した地球艦隊に、この新たな艦隊と戦う力はなかった。

 それでも、地球艦隊は死力を振り絞って最初のガミラス艦隊(α)を壊滅に追いやり、新たなガミラス艦隊(β)の追撃を振り切って地球へと撤退に成 功する。だが、その時には艦隊の九割が失われ、ダイモスもフォボスも陥落し、囮艦隊や戦闘衛星のすべてが破壊され尽くしていた。
 地球艦隊は、この時点で宇宙戦力をほぼ喪失したが、ガミラス側もまた、ゲシュタム航法も持たない辺境の蛮族相手としては前代未聞の手痛い損失を被ってい た。慎重なシュルツ司令は――二等ガミラス人である自分たちの空間機甲旅団に増援があるはずもないという現実も踏まえて――地球への直接侵攻を断念。以後 の作戦を、冥王星からのロングレンジ攻撃に切り替えることとなる。

 

ガールズ&パンツァー二次創作短編:九七式戦車隊、奮闘す

2012年11月21日 小説 No comments , , , , , , , , , ,

 アニメ『ガールズ&パンツァー』の第6話(未見)で、九七式戦車が主人公のお姉ちゃんが乗るティーガー戦車に全滅させられるエピソードがあると聞いて、その場面の二次創作を妄想しつつ、書いてみました。
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 九七式戦車が、丘を駆け上がる。履帯が小石を弾き、柔らかい土を抉る。
 土埃はほとんどでない。昨夜降った雨が、地面を濡らしているからだ。
「天佑は我にあり、だな」
 一号車に乗る戦車長はそう言って、砲塔のハッチを開き、身を乗り出した。左右に二両ずつ、計四両の九七式戦車が見える。いずれも、土煙はあげていない。音はさすがに消せないが、こちらの位置を特定されるほどではないはずだ。
「これならば、敵に気付かれることなく丘の上まであがれるな」
 袋に入れた地図を確認する。斜面のこちら側の等高線の間隔は開いていて、敵のいる反対側の等高線は詰まっている。
 ――これならば、いける。反対側の斜面からは、この丘の上にあがってこられない。
 戦車長は、ほっこりと笑った。沖田畷作戦は、成功しそうだった。

 三日前。学校の作戦会議。
「オキナワ作戦?」
「沖縄ではない。沖田畷(おきたなわて)。戦国時代の、島津&有馬の連合軍と龍造寺軍の戦いだ」
 ぽっちゃりした隊長は、手にしたポッキーで卓の上に広げた地図をとんとん、とつつく。先ほど学校に届けられた、黒森峰高校との戦場に選ばれた演習場の地図だ。
「それが今回の作戦の名前ですか。どんな戦いだったんです?」
「人口に膾炙している戦いの様子は、大軍を擁する龍造寺軍が湿地帯の細い道でにっちもさっちもいかなくなり、島津と有馬連合軍に敗北した、となっている。実際は違うようだが」
「湿地帯……なるほど」
 ポッキーで示された地点を見ると、大きな川と湿地帯が広がっていた。
「黒森峰高校は、自慢のティーガー戦車を持ち出すだろう。対する我が校は、九七式戦車だ。おい、我らが愛するチハたんが、ティーガー戦車とまともに戦えると思うか?」
「冗談はやめてください」
 ドイツのティーガー戦車は、戦車道で使用を許された戦車の中では最強クラスだ。前面装甲は一〇〇ミリ。側面と後面の装甲も八〇ミリである。
「我らがチハは、歩兵支援戦車。戦う相手は、敵の歩兵とその陣地です。搭載された五七ミリ戦車砲では、距離一〇〇mまで近づいても、装甲貫通力は二五ミリ。ティーガーの重装甲が相手では、生卵をぶつけるようなものです」
「まあそうだ。そしてチハの装甲は最大で二五ミリ。こいつは、当時の主力だった三七ミリ対戦車砲に一発くらいは耐える厚さ、という理由で決まった」
「黒森峰のティーガーの主砲は名高い八・八センチ砲。射程二〇〇〇mで、八四ミリの装甲を撃ち抜きます。牛刀を持って鶏を割くどころの騒ぎではありません」
「射程に入りしだい、撃ち抜かれるな」
「我が校の戦車隊はいずれも名人揃いですが、これは技量や大和魂で何とかなるレベルを超えています」
 戦車長は、大きく溜息をついた。正直、彼女の頭では華々しく散る以外の選択肢は思い浮かばなかった。
「まあ待て。三本のポッキーという教えがあってだな。このように一本のポッキーは」
 ぽりん。
 隊長は口にくわえたポッキーを歯で折り、もぐもぐと食べた。
「簡単に折れてしまう。だが、三本のポッキーを束ねると」
 隊長は口にポッキーを三本まとめてくわえる。
「ふひゃひゃように、ひゃほへほっひーへも」
「何やってんですか」
「あ」
 ばりん。
 戦車長がぺしりと隊長の頭をたたいた拍子に、口にくわえたポッキーが折れた。
 もぐもぐ。
「まあ、ポッキーは何本集まってもポッキーということだな」
「ダメじゃないですか」
 ティーガーと戦うとなると九七式戦車は、まさにポッキーのようなものである。装甲は簡単に折れるし、主砲はゼロ距離まで近づいても、弾かれる可能性が高い。当たり所がよければ、火災を起こすか履帯を外すことも期待できるが、それで勝つのはいくらなんでもムシが良すぎた。
「それで、沖田畷ですか。湿地帯にティーガーをおびき寄せて、足回りを封じて接近すると」
 戦車長は地図の上に定規をあてて線を引き、コンパスをあてて距離を算出する。ティーガーの射界に入れば九七式戦車は一発で撃破される。うまく、地形を利 用して隠れながら敵に接近できる経路を見つけ出せば、たとえ無駄でも、零距離射撃で黒森峰の心胆を寒からしめることが可能なはずだと考えたのだ。
 あれこれ考えること小一時間。ようやく戦車長は納得のいく経路を見つけ出した。
「何とか、二百メートルくらいまでは接近できそうですね。相手がのってきてくれるかどうかは、賭けですが……」
 戦車長がそう言うと、それまで暢気に携帯をいじっていた隊長はびっくりした顔になった。
「おいおい、黒森峰ともあろうものが、こんな見え透いた手にのってくるわけがないだろ。ちょっと射界は狭いけど、この丘の麓に待ち伏せされて遠距離砲撃で全滅だ」
 ぶちんっ。戦車長のこめかみに青筋が浮かぶ。
「た~い~ちょ~う~~」
「まてっ、コンパスはやめろっ、刺さる、刺さるっ!」
 しばらくして。
 戦車長は、隊長のおごりで買った缶の汁粉をぐびりとやった。疲労した脳にブドウ糖が染み渡る。
「いい加減、私をからかってないで、本当の作戦を教えてくださいよ」
「作戦名が沖田畷ってのは、本当だ。作戦内容は公表しないけど黒森峰の連中は優秀だからな。名前くらいはすぐに突き止めるだろう」
「そうですね」
「んで、これから三日間、我々は九七式戦車に発煙筒を増設する。これも、黒森峰にはすぐ伝わるだろう。九七式戦車にとっては珍しいことじゃないから隠すまでもないし」
「そりゃそうですね」
 九七式戦車は、車体後部に発煙弾発射筒を搭載してある。実際の戦いでは発煙筒を砲塔などに増設したものも多かった。装甲の薄さと、主砲の貫通力の弱さから、発煙筒で姿を隠しつつ接近するのが戦場での常套手段になっていたのである。
「そして彼我の性能差。さて、黒森峰の西住がこれらを知ったらどう考えると思う?」
「私と同じ結論になるでしょうね。湿地帯におびき寄せて足回りの差を活かして肉薄攻撃を仕掛けると」
「そうだ。だが、悲しいかな、その作戦は絶対に失敗する。この丘の麓に陣取れば、一両のティーガーで我が校の戦車を全滅させられるだろう」
「絶望的ですね」
「いや、そうじゃない。ここに。ここだけに、勝機があるんだ」
「え?」
「おい、しっかりしろ。敵のティーガーは、絶対に、この場所にいるんだ」
 隊長はポッキーの先で、ぐりぐりと丘の麓を指し示した。
「丘の上からなら、この場所にいるティーガーを、狙えるんだ」

 そして試合の日。
「急げ急げっ! 黒森峰がこの作戦に気付けば、勝機はなくなる!」
 車体の後部をにらむ。ディーゼルエンジンの煙すら、今はうらめしい。
 隊長の乗るフラッグ戦車をのぞくすべての九七式戦車が、この作戦に投入されていた。
 丘の上から、麓にいる黒森峰のティーガーまでの距離は約三〇〇m。その距離での主砲の装甲貫通力は二〇~二五ミリ。
 ――ティーガーの上面装甲は二五ミリ。上からの砲撃ならば、可能性はある。
 もちろん、こちらから狙える以上、敵からも狙える。そして九七式戦車はどこに当たろうが撃破確実だ。
「もうすぐ稜線を超える。いいか、この作戦は、こちらの五両が全滅するまでに、敵のフラッグ戦車を撃破できるかどうかにかかっている。左右の僚車にはかまうな。一発でも多く、敵に砲弾を命中させることだけを考えろ、いいな!」
 戦車長は、無線で全車にそう伝えた。返事は必要ない。作戦開始前のブリーフィングで、全員が、そのことを理解している。
「行くぞ!」
 五両の九七式戦車は、一斉に稜線を超えた。

 次の瞬間、四両になった。

「なにっ?」
 一撃で砲塔が吹き飛ばされた九七式戦車が横倒しになる。
 威力をみれば、誰に撃たれたかは、一目瞭然。八八ミリ戦車砲。ドイツが誇る高射砲FLAK88を対戦車用にしたもので、ドイツ軍が戦ったすべての敵戦車を打ち砕く、重騎士の槍だ。
 撃ったのは、ティーガー戦車。
 問題なのは、どこから撃ったか、だ。
「なぜだ! なぜ、ここにいる!」
 戦車長は叫んだ。
 距離一〇〇メートル。戦車戦においては至近距離。丘の麓にいるはずのティーガー戦車は、丘の上にあがって待ち伏せていたのだ。
 ティーガー戦車の砲塔のハッチが開き、戦車長が顔を出した。黒森峰高校の隊長、西住まほ。国際強化選手にも選ばれる、沈着冷静な戦車乗りだ。
 その冷たい視線を見て、戦車長はすべてを理解した。彼女は、こちらの作戦をその裏まですべて読みきっていたのだ。
「だが、こんな急斜面を、鈍重なティーガー戦車がこちらより先に上がってこられるはずが……む?」
 戦車長の視線が、まだ濡れた地面に残る轍の跡に気付いた。目の前のティーガーのものではない。戦車長の視線が轍の跡を追って左の茂みを見る。
 いた。砲塔のない、ティーガー戦車の車体。
「戦車回収型(ベルゲパンター)ティーガー……こいつに牽引されて、ここまで上がったのか!」
 戦車長の視線と、推理に気付いたのだろう。ティーガーに乗る西住まほがわずかに顎を下げてうなずいた。
「なるほど。湿地が多いような、足場が悪い場所での戦いも、想定済みということか。さすがは黒森峰! だが!」
 戦車長は通信を開いた。砲塔の周囲を囲む鉢巻きアンテナに電流が流れ、じじっと音をたてる。
「全車突撃! 目の前にいるのは黒森峰の隊長車だ! 討ち取って名をあげるぞ!」
 残った四両の九七式戦車が左右に広がりながらティーガーに迫る。
 たとえかなわぬまでも、最後まで諦めない。
 それが、九七式戦車に乗る彼女たちの戦車道だから。

(おしまい)

『機動戦士ガンダムAGE』のSFネタ解説その9:マーズレイ

2012年6月30日 『機動戦士ガンダムAGE』のSFネタ解説 No comments , , , , , , , , , , , , ,

 機動戦士ガンダムAGEに出てくるギミックや台詞を元に妄想をたくましくしていくSFネタ解説シリーズの9回目。今回は火星で暮らすヴェイガンを襲う謎の奇病、マーズレイである。

 今が1940年代や50年代くらいであれば、このマーズレイの説明は、それほど困難ではない。
 まだ分子生物学や、遺伝子に関する知見が乏しい時代のSFでは、マーズレイのような「移住した星で謎の奇病が蔓延」という設定に読者の側で疑問を抱くことはあまりなかった。

 しかし、今は21世紀である。この時代にさすがに、火星の磁気とか放射線がどうこうで、謎の奇病が蔓延するといわれても、はいそうですかとは、なかなか納得しにくい。
 逆に、オカルト的な理由を持ち出して、これは呪いによるもの、とした方が納得はたやすい。たとえば、萩尾望都先生の『スターレッド』(1978~9年) での火星植民は、胎児がすべて死亡することで頓挫するが、これは医学的な理由ではなく、どちらかといえばファンタジーめいた銀河の星々の運命によるもので ある。

 しかし、ここに来て火星に新たなSF設定を持ち出すのも美しくない。何とかしてこれまでガンダムAGEに出ているSF設定を応用して理由はつけられないものだろうか?

 ひとつだけある。銀の杯条約で破棄された、EXA-DBがそれだ。火星植民とテラフォーミングにあたって、連邦が開いたEXA-DBの中に、マー ズレイを引き起こす技術が含まれていたというパターンである。治療ができないことも、原因が不明なことも、火星に由来するのではなく、EXA-DBから持 ち出したテラフォーミング技術の副作用であるとするならば、説明は簡単になる。

 だが、マーズレイが実際にヴェイガンの民を苦しめているとして、今度はイゼルカントの真意が謎になってくる。
 火星に住む人々を地球に帰還させるのが最終目的であるとして、ひとまず地球圏の使っていないエリアに、コロニーを設置するわけにはいかないのだろうか?  というものだ。現時点で、ヴェイガンの民は火星の地表で暮らしているわけではなく、セカンドムーンなどのコロニー暮らしである。
 そのまま地球まで帰るのは難しいにしても、マーズレイの影響が及ばない軌道に遷移するのは、それほど困難とは思えない。

 あえてイゼルカントが、それをやらないのだとしたら、考えられることはひとつ。

 それはマーズレイが、火星から離れてもヴェイガンの民を侵食し続ける、解除不能の呪いになっている、という想定だ。
 マーズレイの原因が、火星そのものではなく、火星移住者の肉体や精神を強化するための遺伝子改造によるもので、発症するか否かは確率の問題でしかないの だとすれば、全員が植民第一世代の段階で遺伝子を改造されたヴェイガンは、たとえエデンたる地球に帰還しようが、マーズレイから逃れられないことになる。
 イゼルカントの真意が、地球への帰還ではなく、地球がどこかに隠したEXA-DBから遺伝子改造技術を引き出し、それによってヴェイガンの民からマーズ レイを根絶すること、であるとすると、これまでのどこか手探りな感があるヴェイガンの侵攻作戦にも、相応に納得がいくというものだ。

 となれば、やはり。

 EXA-DBはどこに隠れているのか?
 EXA-DBを誰が隠しているのか?

 が問題になってくる。
 一時期は、連邦で最高権力に近い立場に立ったフリットですら、触れ得なかったEXA-DB。そしてキャプテン・アッシュことアセムが、フリットとは独自 にEXA-DB捜索に動いている点から考えて、連邦政府が隠しているとは考えにくい。また、ガンダムUCにおけるラプラスの箱を隠し持っていたビスト財団 のような存在を今更に持ち出すのも、美しくない。

 ここは、竹宮恵子先生の『地球へ…』におけるコンピュータ・テラのように、EXA-DBそのものが自らを封印し、あるいは、裏から人類の歴史そのものを操っているという仮説を提唱したい。
 何より、このパターンであれば、クライマックスフェイズにおけるラスボスを、地球人でもヴェイガンでもない、EXA-DBにやらせることができる。
 とにかく敵と味方がはっきりせずにグダグダした時には、共通の敵を登場させてそれをボコるのがよろしい。

 ここはひとつ、すっきり終わるためにもラスボスとしてのEXA-DBがマーズレイを始めとする悪い原因のすべてを引き受けてくれる、逆デウス・エクス・マキナとして登場してくれることを期待したい。

『機動戦士ガンダムAGE』のSFネタ解説その8:AGEデバイスと遺失技術

2012年6月6日 『機動戦士ガンダムAGE』のSFネタ解説 No comments , , , , , , , , , , , , , , , , , , , ,

 機動戦士ガンダムAGEに出てくるギミックや台詞を元に妄想をたくましくしていくSFネタ解説シリーズの8回目。今回はAGEデバイスと遺失技術である。

 ガンダムAGE世界は、テクノロジーが頂点であった時代から滑り落ちている。
 ヴェイガンが持つ技術もそうだし、AGEデバイスもそうだ。ガンダムAGEの世界では、かつてあった科学技術のいくつかが失われ、それはヴェイガンとの戦争が始まってから三世代目になっても復興を遂げていない。

 ここでSF的に疑問になるのは、なぜ復興できないか、ではなく。
 なぜ、かつての人類はかくも高いレベルの技術に到達できたのか、である。
 ガンダムAGE世界における人々は、決して迷信に囚われているわけではない。『デューン 砂の惑星』(フランク・ハーバート)のように、コンピュータを始めとする技術を忌避しているわけでもない。
 なのに、銀の杯条約によって封印されたモビルスーツなどの兵器に関する技術は、ヴェイガンとの全面戦争が続く今(第3部開始のAG164年)なお、現用兵器を上回っていると推測される。

 そう考えてみれば、やはり。AGEデバイスに代表される、かつての超技術は、それが生まれた当時の時点で、すでに人類の手に負えるものではなかったのではないか、という仮定が成り立つ。
 では、何者がその超技術を生み出したのか?
 私はAGE世界の過去に、超AIとも言うべき存在が誕生したのではないかと考える。ヴァーナー・ヴィンジの『遠き神々の炎』から名前を借りて、それらの超AIをここでは“神仙”と呼ぼう。(ここから先は、私の妄想設定となる)

 “神仙”がどのように生まれたのかは分からない。『マン・プラス』(フレデリック・ポール)や映画『ターミネーター』のスカイネットのように、 ネットワークの中から自然発生的に生み出されたのかもしれない。『未来の二つの顔』(ジェイムズ・P・ホーガン)のスパルタカスように、人類自らが生み出 したのかもしれない。
 いずれにせよ“神仙”は生まれ、その叡智によって人類のテクノロジーを新たなステージへと導いた。人間には理論すら意味不明な超技術の数々を“神仙”は生み出した。
 超高速の思考力を持ち、『竜の卵』(ロバート・L・フォワード)のチーラよろしく1日で人類史の1万年に近い進化を遂げた“神仙”は、SFが長年にわ たって妄想してきたありとあらゆるガジェットを短い期間に作り上げた。ナノマシン工場、超光速通信、恒星間航行、反物質生成技術、真空エネルギーポンプ、 タイムマシン、不老不死、死者の復活、妄想の具現化……ドラえもんのふしぎ道具よろしく“神仙”は神々の御業を達成した。

 そして“神仙”は消えた。

 高速の進化の果てに『まどかマギカ』のまどか神か、あるいはFate/stay night世界の魔術師が根源に到達したように、この宇宙との関わりが断ち切れてしまったのだ。

 後に残されたのは、“神仙”がひっくり返したおもちゃ箱のガジェットである。後期に作られた高いレベルのものは、もはやどのように扱えばいいのかすら分からなかった。
 残されたガジェットによって『ブラッドミュージック』(グレッグ・ベア)的な人類の危機が発生し、人々は“神仙”というジョーカーすぎるレアカードをも う一度歴史というデッキに組み込むことを諦めた。それどころか、人類はガジェットの暴走で何度か絶滅し、さすがに責任を感じた“神仙”の介入によってタイ ムラインが巻き戻され、やばすぎるガジェットが『封仙娘々追宝録』(ろくごまるに)的に回収されもした。

 “神仙”は消えたが、その残した夢を追い求める人はいた。
 アスノ家の始祖もまた、そのひとりである。彼/彼女は“神仙”に近づくため、残されたガジェットのひとつを手に入れ、AGEデバイスを作り上げた。
 “神仙”が駆け抜けた進化を可視化し、再現できるようにするために。
 しかし、その後の混乱と戦乱の時代の中、アスノ家はMS鍛治としての役割だけが残り、AGEデバイスもMSを進化させる便利なツールとしてのみ使われるようになった。
 それでも、AGEデバイスが遺失技術の塊であり、進化を司るデバイスであるのならば。
 その最終的な目的は、人類では届かない、人類を継ぐ存在。
 人類種の天才をもってしても、かつて生まれた技術の頂点を復活させることができないのならば、人類はAGEシステムにとって『そこまでの存在』である。
 ならば、人類が滅びた後に、その文明を継承し発展させる存在を生み出すことがAGEシステムの真の目的とするのではないかと考える。

 ひょっとすると、イゼルカントという人物は存在しないか傀儡であり、火星にいてヴェイガンを操っているのはもうひとつのAGEデバイスではないだ ろうか。アスノ家が忘れた人類を継ぐ者を生み出す使命を、火星のAGEデバイスは今も追い続けているのかもしれない。マーズレイという謎の奇病も、火星植 民に失敗したはずなのに、高度な科学技術と生産力をヴェイガンが誇っているのも、火星側に“神仙”が残した遺失技術と、それを操る自律型のAGEデバイス による操作だとすれば、うなずける。
 100年にわたる地球と火星の戦争は、そのすべてが、アスノ家のAGEデバイスに、人類かガンダムの最終進化を促すためのもの、であったとするのなら。
 最後に火星のAGEデバイスが生み出すのは、果たして、人を必要としない究極のガンダムか?
 それとも、全盛期のフリットを上回る、新しい人類か?
 そしてそうやって生まれた最強の敵を、アスノ家3代の男たちは、打ち破ることができるのだろうか?

『宇宙戦艦ヤマト2199 第1章遥かなる旅立ち』妄想外伝『もうひとりの、ヤマト戦術長になるはずだった男』

2012年4月17日 雑記 No comments , , , , , , , , ,

 大阪のなんばパークスシネマで、ヤマト2199の第1章を見ました。
 たいへん素晴らしい内容で、感動しましたが、同時に、ガミラス高速空母の攻撃を受け、古代と島の足下のドック内で戦死したヤマトセクションリーダー候補たちの無念も感じました。
 表に出ることなく散った彼らの供養のため、妄想外伝を書きました。よろしければ、お読みくださいませ。
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 二週間前、男は宇宙戦艦ヤマト戦術長の内示を受けた。
 そして今、男は宇宙戦艦ヤマト建造ドッグにあるシェルターの中にいる。
「よりによって、健康診断の帰りに空襲警報が鳴るとはな。十分前なら、地下司令部の中。十分後なら、ヤマトの中だってのに」
 豪放磊落に笑う頬に放射線の傷痕を持つ青年は、男の同期で、ヤマト航海長の内示を一ヶ月前に受けている。その同じ時に、男が受けたのはヤマトの砲雷長の内示だった。
 男は狭いシェルターの中を見回した。このシェルターは、空襲に備えてのものではない。ヤマト建造ドッグは地表のすぐ下にあり、大気や土壌の汚染が、浄化しても浄化しても染みこんでくる。汚染が悪化した時に一時的に避難する化学防護シェルターだ。
 そこには、この一年をヤマトの艤装委員として過ごした仲間たちがいた。いずれもが、地球の至宝とも言うべき人材だ。男自身を除いて。
「おいどうした、戦術長。不景気な面して」
 その肩書きは、本来なら男ではない別の人間に与えられるべきものだった。
 古代守。貴公子然とした顔立ちの下に、熱い宇宙戦士の魂を持つ男。あまりに駆逐艦長として優秀すぎ、連合艦隊が手放さなかったのでヤマト艤装委員にこそ 入っていないが、ヤマト計画であれ、イズモ計画であれ、古代守が中核メンバーとなることを、誰もが納得し、そして待ち望んでいた。
 男も一ヶ月前にヤマト砲雷長の内示を受けた際には、古代守の下で戦える期待と興奮で眠れなかったほどである。
「ん、端末広げて何やってるんだ?」
「主砲の自動追尾プログラムの改良だ。先のシミュレーションでいくつか不具合が見つかったからな」
「へぇ、たいしたもんだ」
 ――これ以外に、取り柄がないからな。
 その言葉を、男はぐっと呑み込んだ。航海長は、第二次火星沖海戦の英雄のひとりだ。彼が乗る「こんごう」は艦橋を撃ち抜かれて艦長が戦死、さらに副長 も、砲術長も倒れて先任士官が全滅した中で指揮を引き継ぎ、満身創痍の「こんごう」を生還させたのみならず、巧みな操船でガミラスの戦艦四隻(※デストリ ア級重巡洋艦)を試製「アマ」型反物質機雷に誘導して轟沈する大金星をあげている。「こんごう」の奮戦がなければ、第二次火星沖海戦でガミラス艦隊主力を 撃破することはかなわなかったとまで分析されている。
 しかし、至近距離で爆発した反物質機雷の放つ強烈なガンマ線の余波は頬の傷以上に航海長の体内を蝕んでいる。おそらく彼の余命は数年とないだろう。そんな航海長の前で、自分を卑下する情けない真似はできなかった。
「ちょっと、ふたりとも。やばいわよ、これ」
「ん? なんだ船務長……て、おい。なんでヤマトの情報系にアクセスしてんだよこの女は。保安部にしょっぴかれるぞ、おい」
 航海長が目をむいた。男も絶句する。ヤマト計画は超極秘計画だ、たとえ艤装委員で、ここがドックの内であっても、外からヤマトの情報系にアクセスすることは許されていない。士官学校時代から“電子の妖精”と呼ばれた船務長の技量は、さらに向上しているようだ。
「うっさいわね。ばれなきゃ犯罪じゃないのよ」
 船務長は、可愛らしい顔に似合わない伝法な口調で言った。
「それより、これを見て。衛星軌道にガミラスの高速空母が来てるわ。しかも大気圏内に降下している」
「何? 一隻でか? くそっ、狙いはヤマトか!」
 航海長が頬の傷痕を歪ませた。
 第二次火星沖海戦の後、ガミラスは地球への艦隊侵攻を諦め、冥王星からのロングレンジ攻撃に切り替えた。その後の偵察やピンポイント爆撃は、高速空母を使った一撃離脱のみ。
 だが、地球大気圏に降下すれば、いかな高速空母でも空気との摩擦で出せる速度は限られる。いまだ十分な力を保有している防空隊の迎撃を受け、撃沈されることも覚悟の上ということだ。
 そこまでガミラスの艦長に覚悟させるほどの標的は、ヤマトしかない。
「くそっ、こうなったら規則を遵守してる場合じゃねえ! シェルターを出てヤマトに――」
 航海長の言葉を、重い衝撃と震動が遮った。
「うわっ」
「きゃあっ」
 男は素早く船務長をかばい、床に伏せた。男の背中に、落ちてきた機材がぶつかる。自らの痛みをこらえ、男は船務長のきゃしゃな身体に傷がないか確認する。
「大丈夫か?」
「あ……ありがと……」
 船務長が礼を言う。非常電源に切り替えたシェルターのオレンジ色の灯りの下では、普段は口やかましい船務長が頬を染めているようにも見える。
 ――ま、そんな殊勝な女じゃないのは、士官学校時代からの付き合いなんで分かってるが。
 何しろ、校内の女性全員が熱をあげていた古代守にすら、興味を示さなかったのだ。
「くそっ、爆撃か。いよいよまずいな。すぐにヤマトに行くぞ」
「待てっ!」
 男は航海長の肩を掴んだ。
「止めるなっ!」
「まずは外の汚染状態を確認しろ! 今の爆撃でドッグ内が汚染されている危険がある!」
「え? あ――ええいっ! なんてこった!」
 航海長がシェルターの壁を殴る。外の汚染数値は防護服なしでは一分と保たないレベルにまで上がっていた。
 男は続いて船務長に向き直った。
「俺の端末と接続してくれ。ヤマトの情報系、アクセスは維持できてるな?」
「う、うん。できたわ、どうするの?」
「ここからヤマトの主砲を動かす。戦闘空母をヤマトの主砲で沈めるんだ」
「ば――おい――」
 船務長が口をぱくぱくさせる。
「言いたいことは分かる。こいつは、ばれなきゃ犯罪じゃないどころの騒ぎじゃない。ヤマトの主砲を動かせば、ヤマトの存在は確実にガミラスに明らかにな る。すでにヤマトの存在がバレているとしても、主砲を動かせばそれだけでヤマトの作業進捗状態や性能を分析するデータを敵に与えることになる。そんなこと はせず、防空隊が戦闘空母を沈めるまで待つのが現時点で最善である可能性も高い」
 男は状況を早口で説明した。
「それでも、俺はヤマトの主砲で高速空母を落とすべきだと判断する。なぜなら、最悪の場合、ヤマトは発進できぬまま、ここで破壊されるからだ。今防ぐべきは、その最悪だ」
 防空隊の戦力とガミラス高速空母の持つ戦力。両者を比較し、動きと戦術を組み立てた結果、男は、防空隊では間に合わない、と判断した。
「……分かった。俺にできることはないか? おっと、保安部うんぬんはなしだぞ? こうなりゃ、スパイ容疑で銃殺刑になるとしても一蓮托生だ。船務長もいいな?」
「は? 今さらになってバカ言ってんじゃないわよ。もうすでにヤマト内部の情報系のプロテクト、全部あたしが落っことしたんだから。銃殺の一番手はあたしよ」
 男が航海長に説明している間、船務長の指は止まることなく動き続けていた。今やヤマトの情報系は丸裸も同然、どのようなコントロールも、このシェルターの中から可能となっている。
「ありがとう。やってくれると信じてたよ」
「うっさい。いいからさっさとやる! 司令部もとっくに気付いて攻勢防壁がんがん飛ばしてきてんだから、長くは保たないわよ」
「分かった。動かせる主砲は一基だけだな――波動エンジンが動いてないから、陽電子衝撃砲は撃てない。となると、相手が高速空母なら、三式融合弾の方が確実だな。第一砲塔には三式融合弾を試験のために運び込んであるから――よし。艦内のエネルギーを第一砲塔に向けてくれ」
「あいよ……うお、コスモタービン、出力あがらねぇ。しょうがないな、電力をドッグ内の工作機械からちょろまかして……と」
「早く早く! 司令部のバカ、ヤマトの情報系を直接狙ってシステムダウンさせようとしてるわ。ええいっ、こうなったら司令部の情報系、こっちからぶっ壊してやろうかしら」
「いや、もういい。終わった」
「え?」
「すでに命令はすべて終わっている。後は艦内から手動で止めない限り、主砲は高速空母を自動追尾して、三式融合弾を撃ち込む。そしてその手動での操作が可能な人間は、今はヤマトの中にはいない。何しろ、ここにいるのだからね」
 おどけた調子で肩をすくめてみせると、航海長がげらげらと笑った。
「たいしたもんだよ、戦術長! やっぱり、お前と組めて正解だ。船務長もそう思うだろ?」
「私はそんなこと、とっくに気付いてたわよ。こいつはね、自分に自信がないだけで、本当は、誰よりスゴイんだから!」
「え?」
 男は、船務長の顔を見た。船務長がしまった、という表情をする。航海長が、ニヤニヤと笑いながら、男と船務長の肩を叩こうとする。

 次の瞬間、戦闘空母からの攻撃が、爆撃によって開いた隙間からシェルターを直撃した。
 防護服を着た救急隊員がシェルターの中を確認した時、三人の遺体はひとつに固まっていた。
 救急隊員のひとりは、固く抱き合う戦術長と船務長を、かばうかのように航海長の身体がおおいかぶさっていたと、同僚に語っている。
(おわり)

宇宙の戦場:宇宙戦艦ヤマト2199 第1章冒頭10分を見てのSFネタ解説

2012年3月31日 『宇宙戦艦ヤマト2199』のSFネタ解説 No comments , , , , , , , , ,

 この春から公開予定の『宇宙戦艦ヤマト2199』。リメイクされた新たなヤマトの第1話冒頭10分が、バンダイチャンネルで期間限定で配信されている。
 密度の濃い映像に、蛇足を承知であれこれSFネタ解説と、ついでに妄想考察を入れてみよう。

1:「ゆきかぜ」の役割
 先遣艦「ゆきかぜ」は第1艦隊に先行して、冥王星に接近している。
 「ゆきかぜ」の役割は、敵(ガミラス)の動きを確認し、第1艦隊が安全に冥王星まで到達できるよう、水先案内人を務めることである。
 この時、「ゆきかぜ」は無線通信ではなく発光信号(ビームを絞ったレーザー照射?)で後続の第1艦隊に敵影を確認せず、と伝えている。
 それは第1艦隊が「無線封鎖」をしていたためだ。

 「無線封鎖」とは、敵の逆探知を避けるために電波の発信を控えることである。通信だけではなく、レーダーの使用も禁止される。
 遠距離の敵を探るには本来はレーダーが便利だ。だが、レーダーは電波で周囲を照らし、その反射で敵を浮かび上がらせるため、敵がレーダー波を探知するセ ンサを備えていれば、自分がここにいることを知らせるはめになる。いわば、レーダーを点けたままで冥王星の近くに行くのは、闇夜の中で懐中電灯を持って敵 地へ近づいているようなもの。懐中電灯の明かりで何かを細かく識別するには、かなり近づかないといけないが、誰かが懐中電灯を持って近づいてきている、と いうのは冥王星にいるガミラスからは丸見えになる。

 ここから先は妄想であるが、先行する「ゆきかぜ」は、画面の外に、電波、赤外線、あるいは重力波のための巨大な受信アンテナを有線で曳航していた のではあるまいか。アクティブな波を出すレーダーと違い、赤外線や重力波はパッシブであるから、己の存在を敵にさらす危険が少ない。偵察衛星の配置など、 敵基地がある冥王星の防衛状態を確認するためにも、先遣艦「ゆきかぜ」には使い捨ての曳航アンテナがあるとうれしい。(私が)

2:待ち伏せされた第1艦隊
 だが、ここまでしても第1艦隊はガミラスの待ち伏せと迎撃を受ける。
 艦種識別画面では次のように読める。
 『ガ軍超弩級宇宙戦艦』1(シュルツの旗艦?)
 『ガ軍宇宙戦艦』7
 『ガ軍宇宙巡洋艦』22(読み上げは、『ふたじゅうふた』)
 『ガ軍宇宙駆逐艦』89~(多数)
 特にここで注目したいのが、『超弩級1』である。旧テレビ版と同じくガミラスの冥王星基地司令シュルツが乗る旗艦がこの時点で1隻しか冥王星に配備されていないのだとしたら、これは偶然パトロールしていたガミラス艦に見つかった、というレベルのものではない。
 ガミラスは、明らかに第1艦隊の動きを把握し、全力で迎撃に出てきたのである。1隻も逃さず殲滅するつもりで。
 ガミラス艦隊の動きからも、それは伺える。ガミラス艦隊は、正面に浮かぶ冥王星から迎撃にやってきていない。「右舷、40度」つまり、側背から追いかけ て合流するかのように接近している。艦隊同士の相対速度はゼロに近く、第1艦隊がどっちの方角に逃げようとしても、無理なく追随できる「同航戦」の状況に 持ち込んでいる。
 相手の動きを見切り、戦力を揃えた圧倒的な優位こそが、「直ちに降伏せよ」という余裕綽々の通信となっているのだろう。

3:「アマノイワト開く」――囮となったオザワ……じゃなくて沖田艦隊
 続く戦いは、ガミラスが予想していた通りに進む。冥王星までたどりついた第1艦隊は、ガミラス艦隊にまるで歯が立たず、次々と轟沈していく。一方的な殲 滅戦。まるで日露戦争の日本海海戦(ツシマ海戦)におけるロジェストヴェンスキー率いるバルチック艦隊(第2太平洋艦隊)もかくやの無惨さである。
 だが、沖田は自らの家族とも言うべき乗員と地球にとってもはやかけがえのない虎の子の艦隊が屠殺される中、じっと耐え、待ち続ける。
 何を? 「あまてらす」からの入電を、である。
 そして入る通信。太陽系の外からの飛行物体(イスカンダルの連絡船)が海王星軌道を通過したというのである。
 2199年時点の太陽系の惑星配列では、冥王星と海王星は、何十億kmも離れている。なぜ、そんな遠くを通過して太陽系に入る宇宙船が大事なのか?

 ここで、この冥王星会戦(ネ号作戦)の真の姿が明らかになる。
 国連宇宙軍と沖田司令は、人類に残された最後の艦隊をこの一戦ですり潰す覚悟を決めて、イスカンダルからの宇宙船がガミラスの哨戒網をくぐり抜けられるよう、陽動にでたのである。戦史でたとえるならば、レイテ沖海戦における小沢艦隊のように。
 そして彼らはこの無謀な賭けに似た作戦に成功した。
 ガミラスは太陽系に配備された艦隊戦力の全力でもって第一艦隊に対する迎撃を行い、イスカンダルからの連絡船を見逃してしまったのである。

4:火星の回収要員
 イスカンダルの連絡船が目指す星は、火星である。
 これは、冥王星会戦のあるなしに関わらず、地球にはこの時点でガミラスの偵察部隊が常時貼り付いているからと思われる。おそらく、偵察にも爆撃にも使え るマルチロールな宇宙戦闘機を搭載した戦闘空母がローテーションを組んで地球周辺を警戒しているのだろう。イスカンダルの連絡船は非武装で、発見されれば 簡単に撃墜されてしまう。だから、イスカンダルからの連絡船が到着するのは、ガミラスとの戦闘で死の星となった――それゆえに、ガミラスも警戒していない ――火星と最初から決められていたのだと考えられる。
 ここまでの展開や登場人物の言動から、ヤマト2199が、最初のヤマトと導入部分を大きく変えていることが分かる。イスカンダルからの連絡と援助は、こ れが最初、というわけではないのだ。すでに何度か無人機でやりとりが行われており、ある程度はイスカンダルを信用できる交渉相手と認めている節が伺えるの である。波動エンジンやワープ機能を搭載したヤマトの建造も、無人機で伝えられたイスカンダルからの事前情報で行われているのだろう。
 火星の回収要員は、古代進と島大介のふたりである。「3週間前に落とされた」と会話にあるように、カプセル型の居住基地を宇宙船から分離(冥王星へ向かう途中の第1艦隊から?)してそこで待機していたのだろう。
 通信カプセルを手にして「これか」と島大介が言ってるが、ブリーフィングでイスカンダルについての基礎情報はふたりとも得ているからか、ためらうことや、とまどう場面がない。テンポが良く、好印象。

 以上、第1章冒頭10分を見ての『宇宙戦艦ヤマト2199』のSFネタ解説である。
 もちろん、これは私が映像を見ながらあれこれ妄想したもので、実際には違う可能性があることを、お断りしておく。

 それにしても、こんな立派なものが、期間限定とはいえネット配信される時代になるとは良い時代になったものである。

『機動戦士ガンダムAGE』のSFネタ解説その7:ビッグリングの戦いとモビルスーツ戦術

2012年3月22日 『機動戦士ガンダムAGE』のSFネタ解説 No comments , , , , , , , , ,

 機動戦士ガンダムAGEに出てくるギミックや台詞を元に妄想をたくましくしていくSFネタ解説シリーズの7回目。

 第7回は第22話『ビッグリング絶対防衛線』を題材に、モビルスーツ戦術について考えてみよう。モビルスーツと戦術の組み合わせは、ミリタリー ファンは現実の戦術や兵器を持ち込み、SFファンは現実の科学や数式を持ち込み、ガンダムファンはガンダムへの愛を持ち込むことで皆が不幸になる、悪魔の 三位一体である。その全員にいい顔をしたいコウモリ村の有袋類である私としてはできるだけ地雷は避ける方向でいきたい。どちらにせよ、いつもとおり真面目 七分に法螺三分、大嘘ついても小嘘はつくなの三割精神だ。最後までおつきあいいただければ、幸いである。

●なぜビッグリングは宇宙にあるのか?
 初代ガンダムでは、南アメリカの地下の洞窟に連邦軍本部ジャブローがあった。きわめて堅牢な基地であり、コロニー落としでもなければ無力化は困難なほどだ。
 ジャブローに比べると、ビッグリングは宇宙に浮かんでおり、攻撃には脆そうだ。司令部をこんなところに置くのは間違いのようにも思える。
 だが、ビッグリングが宇宙にあることには、立派な理由がある。
 というのも、衛星軌道を優勢な敵に制圧されると、地上のどこもが安全とは言えなくなるからだ。地球のどの地点にも、空から質量兵器を落とすだけで甚大なダメージを受ける。分厚い岩盤に守られていない地下基地ならともかく、都市も工場も農地も鉱山も、爆撃され放題である。
 かつて米ソ冷戦時代にソ連が衛星スプートニクを打ち上げた当時、アメリカに「スプートニク・ショック」と呼ばれる衝撃が走った。衛星軌道に物体を打ち上 げる能力を保有するということは、地上のどこにでも爆弾を落とせるということを意味していたからだ。余談ながら、ロケットに軍用か科学用かの技術的な違い はない。弾頭を搭載すればミサイルであり、衛星や探査機を乗せれば宇宙ロケットなのである。
 それと同じで、ヴェイガンが衛星軌道を支配すれば、地上のどこもが危険にさらされる。核弾頭でなくとも良い。十分な質量を持つ石ころを月か資源小惑星か ら切り取ってコンテナに詰めて落とすだけで、ピンポイント爆撃から都市への戦略爆撃まで自由自在である。十分な岩塊が手に入るのならば、火山灰が太陽光を 遮る要領で、気象を制御して飢饉を起こすことだって可能なのだ。
 侵攻作戦においても、軌道を支配する有利は圧倒的だ。衛星軌道を支配する側は、手薄な場所を狙って奇襲攻撃を仕掛けることができる。一戦した後で地上か ら宇宙へ上がるにはツィオルコフスキー的に大変であるが、機動性が高いモビルスーツ兵器によるゲリラ的な降下作戦と離脱――ガンダムに大きな影響を与えた ロバート・A・ハインラインの『宇宙の戦士』で、強化歩兵部隊が得意とした作戦でもある――ならば、連邦軍がおっとり刀で集まってくる前に撤退が可能だ。
 そして、敵の動きを読んでの待ち伏せ以外の方法でこの襲撃を防ぐ手だてはない。衛星軌道を敵に奪われるというのは、部隊の展開に関してそれほどのアドバンテージと主導権を敵に与えることを意味するのだ。

●ビッグリング攻略
 連邦にとって是が非でも死守しなければならないビッグリングだが、宇宙空間の拠点防衛は、超技術(エネルギーバリアとか)がなければ、それだけで難しい。
 たとえば、ヴェイガンが地球近傍天体(NEO:Near Earth Object)にブースターを取り付けて加速させ、ビッグリングとの衝突軌道に乗せたとしよう。時間をかけて加速した巨大質量は、それだけで脅威となる。 もちろん、加速する側にも超技術(バーゲンホルム機関的な慣性制御)がなければ、衝突時の相対速度はせいぜいが秒速10~30kmであろうが、こういうの は質量さえあれば速度は遅くても脅威は高い。
 質量兵器に対する現実的な回答は、ビッグリングを動かすことである。宇宙空間に浮かぶものは、それがたとえコロニーであろうが要塞であろうが、動かせ る。そして、質量兵器ほどに巨大な物体は、遮蔽物のない宇宙空間で隠れるのは難しい。惑星のように動けない物体と違い、軌道上の物体は敵が質量兵器を持ち 出すことさえ想定していれば、対処は可能なのだ。

 それゆえに、だろうか。AGE22話でヴェイガンが取った作戦は、きわめて正攻法だった。モビルスーツ部隊を展開してビッグリングの防衛線を突破し、取り付いてこれを落とすというものだ。
 ビッグリングを要塞と考えた場合、城攻めにはふたつの方法がある。ひとつは、ドイツ軍がセヴァストポリ要塞を攻めたように、ひたすら大火力を集中するや り方。もうひとつは、日本軍が旅順要塞を落としたように、ひたすら守備兵力を消耗させ、失血死させるやり方。ゼハートが選んだのは後者である。
 ここでポイントとなるのがヴェイガンの特殊なステルス能力である。第22話でも撤退時には使っているところから見て、使用に制限があると思われる。おそ らく推進時の噴射ガスがステルス圏外に出ると赤外線が漏れて発見される、一度解除した場合二度目の利用に一定時間経過後などの条件があるのだろう。加えて 連邦軍側にも、ステルスを防ぐ備えはあると思われる。
 だが、たとえ完全な戦術的奇襲ができなくとも、接近をぎりぎりまで悟らせないことで、連邦軍に対応の時間を与えない作戦レベルでの奇襲は可能だ。第22 話で連邦側が戦力的に不利、というのはステルスで接近したヴェイガンに対し、連邦軍には戦力を集中する時間がなかったためだと思われる。

●『ビッグリング絶対防衛線』の流れ

 まずは司令部の画面からだいたいの戦況の流れを。

 攻める側のヴェイガンは大型艦5隻、守る連邦軍は母艦が9隻である。出撃したモビルスーツについては不明ながら、ビッグリングを直接基地とする部隊なども含めて100~200機前後というところだろうか?
 戦闘規模から考えると、Xラウンダーの持つ優位性は高い。どちらも数で揉み潰すような戦いができず、手持ちの駒をどう使うかの戦術が重要な戦いとなる。

 双方がモビルスーツ部隊を展開させた後、最初に動いたのはヴェイガンだった。Xラウンダー部隊『マジシャンズエイト』を投入し、戦線に突破口を開こうとしたのである。
 だが、これは連邦の司令官フリットの想定内の動きであった。フリットは、複数の部隊で局所的な戦力優勢を実現し、Xラウンダーの動きを封じ込める。突破 前進ができなくなったXラウンダーの一部は弱い箇所を狙って戦線中央へと移動し、そこでウルフとAGE2に乗るアセムと交戦している。

 味方の攻勢が頓挫したことで、ヴェイガンの司令官であるゼハートは兄デシルと共に出撃する。これは、状況を打破するに足る予備戦力がヴェイガン側 にもうなかったことを意味する。ゼハートは、ビッグリング攻略に、最初からほぼ全力を投入したのだ。戦力の逐次投入は各個撃破の的であるから、考え方とし ては正しい。また、あまり時間をかけると、ビッグリング救援のため、連邦軍部隊が集結してしまう。時間はヴェイガンの敵だ。

 しかし、おそらくそこまでフリットは見切っていたのではないかと思う。
 ゼハートとデシルのふたりのXラウンダーが戦線を押し上げ始めた時、フリットはためらうことなく自らAGE1で出撃している。
 これはこの時点でフリットが勝利を確信したためであろう。すでにこの状況までが想定内で、自分が出撃することも含めて後の作戦をどうするかもあらかじめ決めてあり、それゆえに参謀のアルグレアスに何も言わずに出撃し、アルグレアスもまったく驚く様子がなかったのだ。

 では、いったい何がフリットとアルグレアスをして、ゼハートとデシルが出撃した時点で勝利を確信させたのか?
 それは、「時間」ではないかと思う。

 この後、カメラはフリット対デシル、アセム対ゼハートに集中しており、他の戦線でどのような戦いがあったかは分からない。
 が、結果としてヴェイガンは大型艦1隻を失う損害を被り、ゼハートに代わって指揮をしていたメデル・ザントがゼハートに撤退を進言することになる。この時のメデル・ザントの言葉が興味深い。

「連邦の戦術によって、我が部隊の多くが退却を強いられており――」

 そう、撃墜されたのではなくて、退却を強いられているのである。
 可能性として考えられるのは、ヴェイガン側のモビルスーツ部隊が燃料や弾薬が切れて母艦へと後退し、それを連邦が追撃してついには大型艦の一隻を落とした、ということである。
 ヴェイガン側のモビルスーツは攻勢に出る必要上、推進剤をどんどん消費して機動し、連邦軍の防衛線に穴を開けようとした。Xラウンダー部隊『マジシャン ズエイト』が戦線の左翼で頭を押さえられた後、戦線の中央まで出てアセムとウルフと交戦していることからも、それが伺える。
 華々しい機動戦は、だが、推進剤の過剰消費につながる。推進剤と共に攻勢のモメンタムを失ったヴェイガンは、部隊単位で後退し、前線からは櫛の歯が抜けるように穴が生じる。そこを連邦軍は突いたのだ。敵を倒すのではなく、敵が後退した穴を埋めるように。
 序盤からの、やたらと細かいビッグリングからの戦術指揮も、モビルスーツ部隊の推進剤消費をできるだけ小さくするため、だとすると納得できることは多い。
 それを悟ったからこそ、ゼハートは撤退を決めたのであろう。フリットのAGE1が脅威だったのではない。フリットがゼハートとデシルとの戦いに出る前に、すでに自軍の勝ちを決めていたことに気が付いたのだ。

 つまるところ、この戦いは最初から最後まで、フリットの掌の中で行われていたことになる。高いステルス能力を持ち、Xラウンダー部隊をも有する ヴェイガンの戦術的有利と、短期決戦でビッグリングを落とす必要がある戦略的不利を見切って作戦を立てていたフリットに、ゼハートはまったく歯が立たな かった。

 恐るべきはやはり、天才フリット・アスノということだろうか。がんばれ、アセム! お父ちゃんを超えるのは息子の役目だ!

『機動戦士ガンダムAGE』のSFネタ解説その6:火星植民

2012年2月28日 『機動戦士ガンダムAGE』のSFネタ解説 No comments , , , , , , , , , , , , , , , ,

 機動戦士ガンダムAGEに出てくるギミックや台詞を元に妄想をたくましくしていくSFネタ解説シリーズの6回目。

 第6回はガンダムAGEの敵役、UE(アンノウンエネミー)あらためヴェイガンが生まれるきっかけとなった火星植民である。真面目七分に法螺三分、大嘘ついても小嘘はつくなの三割精神でいく。最後までおつきあいいただければ、幸いである。

 火星植民とその失敗というと、SFでその例は列挙の暇もない。
 有名どころをいくつか紹介すると、レイ・ブラッドベリの『火星年代記』。これの失敗は、人々が地球に魂を引かれてしまったからだ。東西の冷戦が全面核戦 争となり、ラジオでそのニュースを聞いた火星植民地の人々が、何やかにやと理由をつけて夜空に浮かぶ地球をながめていると、そこから発光信号で伝えられ る、戦争勃発の知らせと、「カエリキタレ」の言葉。この「カエリキタレ」は今読んでも涙がだばだばとあふれんばかりの名シーンである。
 また、光瀬龍さんの『宇宙史シリーズ』における火星植民都市も、その多くが荒廃し、砂に埋もれるようにして消えていく。火星の乾いた砂の上に作られたこの中でしばしば語られる“東キャナル市”という言葉は、日本SFの生み出した素晴らしい言霊のひとつであろう。
 漫画でいえば、萩尾望都さんの『スター・レッド』の火星でも植民が失敗している。なぜかあらゆる胎児が死んでしまうため、植民不可として見捨てられた火 星は流刑星として扱われるが、そこでどういうわけか生き残り、子孫を残し続けた火星人が超能力を得て、再び地球を訪れた人間と敵対する、というものであ る。
 ガチな戦争というと、川又千秋さんの『火星人先史』はカンガルー改良型の知的生物を火星に送り込んで奴隷&食料として使役するもカンガルーの反乱で火星 から人間が追い出されてしまうし、荒巻義雄さんの『ビッグ・ウォーズ』では火星はテラフォーミングによって海を持つ惑星になるも、太陽系に帰ってきた神々 によって人類は火星から駆逐されてしまう。

 さて――それまで大量に描かれていた火星植民を扱ったSFは、ヴァイキング1号、2号が火星に到着した頃になると、しだいに新しい話があまり語ら れなくなっていく。もちろん、『マン・プラス』『赤い惑星への航海』『レッドマーズ』『火星夜想曲』『火星縦断』などなど、その後も火星を扱ったSFはそ れなりに豊作である。谷甲州さんの『航空宇宙軍史』でも、『火星鉄道一九』のように、オリュンポス山の火口をまるごとリニアカタパルトにしている工学技術 的に希有壮大なお話も出てくる。

 だが、それらに共通するのは――『火星夜想曲』のような、少しファンタジー寄りの話をのぞくと――ガチでハード寄りのSFなのである。
 ひとむかし前の、火星にまだ運河が見えてた時代には、それこそH.G.ウェルズが『宇宙戦争』でタコ型の火星人だしたり、エドモンド・ハミルトンの 『キャプテン・フューチャー』シリーズの地球よりも古い古代王朝が存在する星だったり、エドガー・ライス・バロウズの『火星のプリンセス』あられもない格 好のお姫様に卵を産ませたりと「ちょっとエキゾチックで、手頃な舞台装置」として扱われていた火星も、気が付けば、生半可な科学知識で触れにくい、ちょっ と重たい星になってしまったのだ。

 そして同時に、火星の扱いが難しくなった理由のひとつが「なんで苦労して火星で暮らすの?」である。これは、こと日本においてはガンダムもおおい に関係していると我田引水できなくもない。機動戦士ガンダムが、「スペースコロニー」という宇宙に浮かぶ人工の大地を、もっともらしく描けてしまったせい で、「わざわざ惑星に降りなくても」という、コペルニクス的転回が、あまりSFに濃くない人にも、それなりに広まったのである。やはり、視覚情報は偉大で ある。
 実際問題として、火星を「人が暮らすようにする」ためのテラ・フォーミングには、どう見積もっても、天文学的な時間とお金がかかる。お金の方は何とか誤 魔化すとしても、時間は難しい。なお、これまたコロンブスの卵的に「時間がかかるなら、時間を早めればいいじゃない」という火星植民のSFがロバート・ チャールズ・ウィルスンの『時間封鎖』である。
 むろん、ここでも人間の叡智に限りはなく、「火星全部をテラ・フォーミングしようとするから難しいんだ。火星には渓谷がたくさんあるんだから、そこに蓋 してその底だけ暮らせるようにするとかどうだろう」とか「特殊な植物でドームのように覆った中で暮らすというのはどうだろう」とかいろいろと手は考えられ ている。アニメ『カウボーイ・ビバップ』の火星も、そんな風にして都市の周囲に、空気の壁を作っている描写があった。

 だが、やはり火星は遠い。
 そこに植民都市のひとつふたつを作るのは何とかなっても、大金のかかるプロジェクトを、いつまでも維持することは政治的な理由で難しいだろう。
 
 そこで思い出すのが、人類が月へと熱狂的に向かった1960年代の月レースである。
 松浦晋也さんが、この時代の宇宙開発をして『戦争型宇宙開発』(大人の科学マガジン/ロケットと宇宙開発)と称されたことがあるが、戦争や宗教などで生まれた人々の熱狂は、時に、経済原則を無視してでもひとつの方向へすべてを投入することがある。
 ガンダムAGEにおける過去に連邦が行った『マーズ・バースディ計画』というのは、そういう、一時の熱狂が生み出した計画なのかもしれない。そして熱狂 が冷めた時、連邦も、地球に残った人々も、火星について忘れてしまったのだろうか。金のかかる地球からの物資や援助を打ち切り、それが火星に住む人々の命 の綱を断ち切ることにつながると分かっていても、いや、分かっていたからこそ、後ろめたさのこもった思いから、すべてを「忘却しようとした」のではないだ ろうか。
 次第に乏しくなる物資をやりくりしながら、火星の人々は、明日は、物資が届くか。来年には、支援が再開されるのではないか。そう望み、何度も地球へ通信を送るが、やがて自分たちが捨てられたことに気付かされる。
 明日の人類の未来を切り開く英雄として送り出されながら、金や物資がもったいないからという理由で打ち捨てられ、それだけなら我慢もできたろうに、記録も消され、すべてが「なかったこと」にされていく。
 ある程度民主的で、そこそこに開かれた情報化社会でそのようなことができる場合、その理由は一部の支配階級、ビッグブラザー的な統制ではありえない。地 球に暮らす人々の多くが、政府が消していく火星植民の情報を、「黙って受け入れた」からに他ならない。罪の意識を、いつまでも持ち続けたくないがために。
 そしてそれこそが、ヴェイガンという組織の根幹にあるのだろう。政治的・経済的な理由で援助が打ち切られたのなら、それは仕方がない。そもそもが、火星植民とは無理のある計画だったのだ。壮大な計画が失敗に終わったことは無念ではあるが、受け入れることもできよう。
 けれども、「なかったこと」にされるのだけは。これは許せない。
 火星植民に抱いた夢を、理想を。それが無惨に打ち捨てられていく過程での苦労を、悲しみを。
 そのすべてが、「なかったこと」にされてしまうのであれば。
 それらの思いは、どこに行けばいいのか。
 ヴェイガンが、そうやって生まれ、「なかったこと」にされた恨みを糧に成長していったのだとすれば。
 彼らがUE(アンノウン・エネミー)と呼ばれていることを知りながら、長い間、じっと沈黙を守り続けたことには、理由があったのではないかと私は考える。

 ――呼んでくれ。
 ――私たちの名前を呼んでくれ。
 ――私たちの先祖が、どうやって、どこに送り込まれたのか、言ってくれ。

 もしここで、彼らの名前を呼んでやっていれば。
 「なかったこと」にした過去を取り戻させてやれば。
 UE(アンノウン・エネミー)との間には、また、別の関係が築けたのかもしれない。