『宇宙戦艦ヤマト2199』のSFネタ解説その3:ガミラスの猛将ドメル
宇宙戦艦ヤマト2199に出てくるギミックや台詞を元に妄想をたくましくしていくSFネタ解説シリーズの3回目。 今回はヤマトの好敵手である、ガミラスの猛将ドメルと、その戦い方をみていきたい。■ヤマト2199第11話『いつか見た世界』での小マゼランの戦い ドメルがどのような指揮をするかは、ガトランティス(旧作の白色彗星帝国)との戦いである程度読み取ることができる。 ドメル対ガトランティスの辺境での戦いは、かなり途中経過がはしょられているので画面から推測するしかないが、それがこの図である。 囮で敵艦隊を誘引、拘束したかどうかは画面からは読み取ることができないが、私はかなり高い確率で囮艦隊がいたものと考える。 こうした、主攻と陽動を分けるというのは、戦術の基本である。ガトランティス側が何も警戒せず、単にドメルの奇襲を受けた間抜け……という可能性は、もしあるとしても、ドメルが、そういう敵の間抜けさに頼る戦いを仕掛けるとは思えない。 私は、ガミラスの戦い方の基本は機動力を活かした戦い方であると考える。そして、自軍の機動力を活かすために重要なのが、敵の動きを制限することである。 機動力というのは相対的なものだ。こちらの機動力は艦や指揮通信などのハード・ソフトでどうしても上限が決まる。ドメルとて、艦に性能以上の速度は出させられない。 だからこそ、自軍の機動力が、より、致命的になるように、敵の動きを制限することにドメルは意を配るだろう。 ガトランティスの持つ一番高い機動力は(彼らが旧作の白色彗星帝国に近いとして)航空戦力である。艦載機の持つ機動力こそ、ガトランティスが持つ強みだ。しかし、艦載機は常時、飛ばしておくわけにはいかない。普段は空母の中に格納しておき、敵を発見したら、発進してこれを攻撃するのだ。 ドメルはそれゆえに「敵の偵察部隊に発見されない」ことを第一とした。 惑星の公転面から垂直になるように艦隊を動かし、死角のような場所から一気に逆落としで高速の駆逐艦隊を突入させたのは、偵察部隊に発見されず敵本隊に接近し、一撃で敵空母を壊滅させるためだと思われる。■ヤマト2199第15話『帰還限界点』中性子星の戦い ドメルがヤマトと戦う前にまず何をしたか……というと、まずはヤマトの戦力分析をしたと考えられる。 ヤマト最大の武器は、なんといっても波動砲である。 この時点でドメルがヤマトの旅の目的を理解しているとは思えないが、惑星に直撃させれば、ただではすまない破壊兵器を、ガミラス帝国の中に入れるわけにはいかない。母星の滅びを迎えてやぶれかぶれになったテロン人(地球人)が、ガミラスの首都に自爆攻撃を仕掛けることは大いに考えられるからだ。実際、地球への扱いや、この話の冒頭での親衛隊の暴挙を考えれば、ガミラスはそのくらい恨まれている。 ならば、この波動砲を使わせない、使っても大丈夫な場所での戦いを考えねばならない。 すでに恒星が寿命を迎えて大爆発(スーパーノバ)した残骸である中性子星カレル163は、うってつけの戦場である。 ここでならば、周囲を気にせず自由に戦える。 ドメルがガミラスの誇る猛将である理由は、彼の旺盛な戦意だ。第11話で登場した後、ガミラス首都でのドメルは、良き夫、良き軍人としての顔しか見せていない。政治には興味がなく、良識的で、妻や子を愛しているごく普通の男だ。 しかし、この15話でドメルの裏に隠れているものが露わになる。彼は、戦争が大好きなのだ。その彼にとって、カレル163は格好の遊び場だった。 そしていよいよヤマトと戦うにあたり、ドメルが一番気を配ったのは、何か。 それは、ヤマトに「ガミラスには戦意がない」と思わせることだった。 罠というものは、こちらの意図に気づかれてしまうと、まず不発に終わる。 中性子星カレル163は重力勾配が強く、ワープ時にその影響を受けやすいことは、罠の存在を知らない時のヤマトですら、ある程度は見抜いていた。 じっくり時間をかけてヤマトが重力勾配をチェックし、カレル163を迂回したり、ドメルが待ちかまえるポイントとは違う場所へワープしては、ドメルの策は失敗してしまう。 だから、ドメルは頻繁に偵察を繰り返させ、しかも戦いは慎重に避けてきた。苛立ちと共に、ガミラスには戦意がない、という意識がヤマトクルーの中にはあったはずだ。 カレル163へのワープ直前への、偵察部隊の突然の攻撃。 沖田艦長に代わってヤマトを指揮していた真田副長は、交戦を避け、急いでカレル163へワープするよう命令する。これは、ガミラスに戦意がない、という前提が正しければ、無理のない選択である。攻撃をしてきたとはいえ、相手は小型艦が2隻。ヤマトの戦力をもってすれば、簡単に打ち払える。 そして、当然ながら『ガミラス艦も彼我の戦力差は知っている』のである。 敵艦がヤマトと本気で交戦するはずがない。真田副長はそう考え、この戦いをこれまでの嫌がらせの延長と考えた。これまでは、少し距離を置いて逃げていったが、今回は少し踏み込んできた。これを追えば逃げ出すだろう。こんな小型艦の嫌がらせに、毎回時間を食われてはたまらない。いつも冷静であっても、真田副長もタイムスケジュールの遅れは気にしている。時間のかかることは極力避けたい意識が働く。 ならば、さっさとワープしてこの場を離れるのが得策だ。 真田副長の推論は正しい。 「ガミラスには戦意がない」という前提が正しいかぎり。 事実は逆である。 ドメルは旺盛すぎる戦意の持ち主である。だからこそ、自分の戦意を隠すためにわざわざ手間をかけて偵察艦による嫌がらせを繰り返したのだ。 前提を間違えていれば、どんな頭脳の持ち主でも、正しい結論にはたどりつけないからだ。 カレル163にヤマトがワープした時点で、ドメルの罠はほぼ完成していた。 大規模な敵艦隊に囲まれていることを知った真田副長の命令が、艦載機(ハヤブサ)を発進させるというものであったのは、この時点においても、真田副長の頭の中に「ガミラスには戦意がない」という前提があることをうかがわせる。 真田副長は、まずここで「様子を見る」ことにしたのだ。 「ガミラスには戦意がない」のだとしたら、これは遭遇戦である可能性が高い。ガミラスがどう動くかを見極めると同時に、いざ戦闘という時のために手持ちの戦力を増やしておくべきだ、と考えたわけである。 ここで、沖田艦長が指揮に戻る。 ぎりぎりのタイミングである。もし、真田副長の命令通りに、艦載機を発進させていれば、そのままヤマトは敵の重包囲の中で沈められていただろう。 沖田艦長は状況に気づくや、これまでのドメルの策略のほぼすべてを見抜いたに違いない。とにかく、いきなり命じたのが敵艦隊への正面からの突撃である。顔つきも険しい。「死中に活を求めねば、この包囲を突破することはできない!」 これまで疑問だったガミラス偵察部隊の動きの真意を沖田艦長だけは見抜いている。 そして、それが意味するものも。 ガミラス艦隊は、ここでヤマトを仕留めるつもりなのだ。逃げればとことん追いかけてくるし、他にどんな罠が仕掛けられているかわからない。(事実、分散配置した別働隊が集まってきた) 正面から突っ込んできたヤマトを見て、ドメルの顔が歓喜に歪む。ヤマトとすれ違う時の表情たるや、嫁さんや亡くなった子供がみたら、ドン引くのではないかというくらい、嬉しそうである。二面性、というよりはどちらもドメルの素顔なのだろう。 沖田艦長の打った手は、罠に落ちたヤマトの取り得る最善手だった。 しかし、今回ばかりは準備と仕掛けに時間をかけたドメルの側に分があった。 ドメルの直衛艦隊を正面突破して振り切ろうとするヤマトを、分散配置した別働隊が取り囲む。いずれも高速艦。傷ついたヤマトが振り切れる相手ではない。 ドメルにしてみれば、してやったり、である。 ヤマトの艦長が無能であれば、あるいは真田副長のように頭脳明晰でも慎重であれば、ドメルの本隊だけでヤマトを仕留めることができる。時間がかかったとしても、部隊をローテーションさせて傷ついた艦艇を後方に下げ、新しい艦を前に出させていくというやり方で、勝利できる。 しかし、ヤマトの艦長が有能で度胸があれば? その時は、即座に正面から突破するはずだ。沖田艦長がそう判断したように。 だからドメルは、自分の本隊をヤマトが突破した時の位置に、別働隊を集結させたのである。あるいは子飼いの前線指揮官なら、このくらいの判断は具体的に指示せずとも臨機応変にやってくれると確信していたか。 ヤマト艦内で、ドメルの仕掛けた罠の全体像に気づいたのは沖田艦長だけだろう。しかし、激しい戦いの連続に南部が戦意喪失したように、このままでは勝てないとは多くのクルーが感じたはずだ。 この時点でなおも、古代進だけは旺盛な戦意を保っている。 どうやればこのピンチを切り抜けられるか、という計算は古代にはない。 しかし、彼は諦めていない。このあたりは、さすが古代守の弟である。 そして、沖田艦長もまた、諦めていない。 諦めてはいないが、計算もできてしまうのが沖田艦長である。 ヤマトの側に、新たに打つ手はない。後はもう、ひたすら耐えるだけだ。 ヤマトに積極的に打つ手がない以上、何か変化が起きるのを沖田艦長は待っている。 なので、敵の猛攻が一瞬だけ途切れた、その変化に沖田艦長は即座に反応する。 カレル163での変化は、ガミラス艦隊の全面撤退だった。 しかし、ここまでの僥倖でない場合――たとえば、敵の別働隊同士が接近しすぎて、艦隊運動に乱れが生じた、など――でも、沖田はすぐにその変化に気づき、敵から離脱するための策を練ったはずだ。 その変化が、ヤマトが沈められる前に起きたかどうか、それは分からない。 しかし、沖田艦長は最後の一瞬まで、諦めることなく、罠をかいくぐるきっかけを探り続けたはずだ。 諦めることのないものにこそ、幸運の女神は微笑むのだから。