宇宙戦艦ヤマト2199に出てくるギミックや台詞を元に妄想をたくましくしていくSFネタ解説シリーズの4回目。
今回は、旧作ヤマトから山場のひとつである、七色星団の戦いについてあれこれ解説をしていく。TVではまだ未放映(8月放映?)なので、ネタバレになる人は注意されたし。
●ヤマト側から:なぜ、七色星団なのか?
戦場では何が起きるか分からない。それゆえに、指揮官は何が起こり得るかを常に考えて行動しなくてはいけない。
大マゼランに到達した沖田艦長にとって、起こり得る最悪のパターンは、もう一度、中性子星カレル163で戦った敵将が、前と同じかそれ以上の戦力で戦いを挑んでくる、というものだ。あの一糸乱れぬ艦隊運動で襲撃を受ければ、今度こそヤマトは沈められる可能性が高い。
だからこそ、沖田艦長はイオンの乱流渦巻く七色星団への道を選んだ。
もし敵がこの七色星団でヤマトを食い止めようとしても、イオン乱流で航路が狭められる七色星団の中では大軍の運用は困難だ。加えてレーダーなどの索敵能力も低下するので、戦いは近距離戦となる。敵が優勢な戦力で待ちかまえていても、戦いようはあるのだ。
もちろん、視聴者(神)視点であれば、ドメルはデスラー総統暗殺未遂事件の余波でカレル163より大幅に削減された戦力しか持たないのだが、それは沖田艦長が知り得る情報ではない。
●ドメル側から:ふたつの目標を与えられた作戦
これまでと比べてずいぶんと少ない空母4隻+ドメラーズ+次元潜行艦UX-01の戦力でヤマトと戦うことになったドメルであるが、彼の不利がそれだけであるのならば、七色星団の戦いは、ドメルの勝利に終わったろう。
物質転送装置を利用したアウトレンジ攻撃と、次元潜行艦による異次元からの攻撃を組み合わせて奇襲をかければ、ヤマト1隻を沈めるのは不可能ではないからだ。奇襲の効果がある序盤に、全力をたたきつけることができれば、ヤマトは対応する時間の余裕を持てない。
しかし、ドメルには総統からの勅命としてヤマト艦内にいるイスカンダル人を救出するという作戦目標があった。
同時にふたつの作戦目標は、忌むべきことである。かつてミッドウェーの戦いにおいて、ハワイで討ち漏らした敵空母を沈めることと、ミッドウェー島の占領というふたつの作戦目標が与えられた結果は、第一航空艦隊の全滅であった。
それでも、ドメルは中性子星カレル163におけるヤマトとの交戦経験から「行ける」と判断した。
ドメルの判断は、ほぼ的確であり、わずか紙一重の部分で間違っていた。
そして戦場では、その紙一重が勝敗を分けるのである。
●七色星団の戦いⅠ:接触~第二次攻撃隊
情報をより多く握った側が、戦いにおいて有利となる。
この原則に従い、ドメルは次元潜行艦を七色星団に先行させ、偵察を行わせた。そして見事、ヤマトの動きを捉えたのである。
以後、戦いの主導権はドメルの側となる。どこでいつ戦うか、いつ撤退するかがドメルの意志だけで決められるわけで、これは大きなアドバンテージである。
まず、空母バルグレイがドメル艦隊本隊から分離して前進。
戦闘機だけからなる第一次攻撃隊を発艦させる。この第一次攻撃隊は、対艦戦闘能力を持たないが、目的はヤマト艦載機を誘引し拘束することなので、問題ない。
ヤマトはこの囮部隊に引っかかり、加藤率いるコスモファルコン部隊は、第一次攻撃隊との死闘で身動きがとれない状態となる。
ただし、イニシアティブを喪失しているがゆえに、加藤はヤマトに山本のコスモゼロを残してあった。このコスモゼロが後々、大きな影響を与える。
続いて、空母ランベアが急降下爆撃機からなる第二次攻撃隊を発艦させる。第二次攻撃隊は物質転送装置による短距離ワープでヤマトへの奇襲に成功する。この爆撃でヤマトはレーダーと波動防壁を失う。
この時が、ヤマトのもっとも危険な一瞬だった。
もし、ヤマトを沈めることだけがドメルの作戦目的であれば、ここで次元潜行艦による攻撃と、第三次攻撃隊による攻撃を続けて行い、ヤマトにとどめを刺すことができた可能性は高い。
しかし、次元潜行艦が行ったのは攻撃ではなくコバンザメと呼ばれる宙雷艇で、ヤマト艦内に特殊部隊を送り込むというものだった。
ある意味で、この時にドメルの手から勝利はすり抜けていたのだ。
●七色星団の戦いⅡ:森船務長拉致~第三次攻撃隊失敗
ヤマト艦内に突入した特殊部隊が活動すると同時に、重爆撃機が物質転送装置でヤマトにドリルミサイル(特殊削岩弾)を撃ち込む。これが艦内で爆発すれば、ヤマトは終わりである。沖田艦長は真田副長の提言を受けて、情報解析のスペシャリストである新見とアナライザーを、ドリルミサイルの制御を奪うために送り込む。
その頃、ザルツ義勇軍からなる特殊部隊は、ヤマト艦内で出会った森船務長をイスカンダル人と間違えて拉致し、損害を出しながらも脱出に成功する。
次元潜行艦UX-01は、特殊部隊の生き残りと森船務長を回収し、戦場を離脱した。
ここは少しばかり、違和感の残る場面であった。
次元潜行艦の艦長であるフラーケンの性格であれば、ここで行きがけの駄賃として、手持ちの魚雷を発射してヤマトを沈めそうなものである。
フラーケンが攻撃しなかった理由であるが、長時間の次元潜行偵察と、宙雷艇輸送のために、次元潜行艦は武装の多くを取り外していたのかもしれない。手持ちの魚雷やミサイルが0であれば、いかにフラーケンといえども攻撃はできない理由である。
前後して、空母バルグレイが沈没する。そして、それまでヤマト艦載機部隊の足止めに成功していた第一次攻撃隊が壊滅する。
ここで興味深いのは、空母バルグレイがわずか2機のコスモファルコンの攻撃で、手も足も出ずに轟沈していることである。命中したミサイルは小型の4発のみ。ヤマトと比べるのは申し訳ないが、あまりにも脆い。ガミラスにおける空母の役割というのは、あくまで補助的なものだということが、ここから分かる。
バルグレイは失ったものの、ヤマトには手傷を負わせ、ドリルミサイルも命中している。ドメルは勝利を確信しており、その勝利を確実にするために、第三次攻撃隊を送り込む。
第二次攻撃隊と同じく、物質転送装置による奇襲攻撃だ。
しかし、この第三次攻撃隊の奇襲は、失敗に終わる。
山本と古代のコスモゼロによる迎撃を受けたこと、そしてコスモファルコン部隊が帰還してヤマトの援護に回ったことが主な理由だが、何より、すでに物質転送装置による奇襲が、奇襲でなくなっていた。
第二次攻撃隊の奇襲を受けるや、沖田艦長はこれを短距離ワープによるものと判断し、目視による対空警戒を行わせていた。ヤマトで対空火器を担当している部署も、次にまた同じようにワープで奇襲攻撃をかけられるものと警戒していたと思われる。
第二次攻撃隊と、第三次攻撃隊の間のわずかな時間に、物質転送装置の魔力は失われていたのだ。
第三次攻撃隊の失敗を知ったドメルは、物質転送装置と艦載機の攻撃に頼ることはもうできない、と見切りをつける。これは正しい。
しかし、戦艦の砲撃戦で勝利を掴もうとしたことは、ドメルの最大の失策だった。
自軍はヤマトの位置を見抜いているが、ヤマトはドメルがどこにいるか知らない。
ドメルの持つ最大のアドバンテージが、砲撃戦を挑むことを決意した時に、失われたのだ。
●七色星団の戦いⅢ:砲撃戦
戦いが始まってから、ずっとヤマトは受け身であり続けた。
敵の場所も、戦力も分からないので、とにかくやり過ごす以外の選択肢がない。
そこに、敵艦隊の方から接近してきたのである。
沖田の命令は、この時あるを期待して調べさせた、イオン乱流の本流への転進であった。
ドメルの側からは、ヤマトが戦いを避けて逃げようとしているように見えただろう。
ドメルは艦隊を増速させ(たんじゃないかな?)、ヤマトへ近づく。
しかし、そのドメル艦隊に、ヤマトから分離したドリルミサイルが接近する。
戦闘空母ダロルドとドリルミサイルが重なったその瞬間、ヤマトからの砲撃でドリルミサイルは爆発、ダロルドは轟沈する。
さらに、ダロルドの爆発に巻き込まれる形で空母シュデルグが沈み、さらに空母ランベアがヤマトの砲撃で沈む。
ドメルが率いてきた4隻の空母は、ここに失われたのである。
囮となって沈んだバルグレイと、戦闘空母のダロルドはともかく、他の2隻の喪失はまったくもって無用の損害であった。
さらに言うなら、戦闘空母のダロルドも、本来ならば後方に下げておくべき艦であった。ヤマトとの砲撃戦で空母であり、戦艦でもあるダロルドでは、火力はともかく、防御力があまりに心許ない。ドリルミサイルの爆発で失われなくとも、おそらく1回か2回のヤマトからの砲撃で戦闘力を喪失しただろう。
では、ドメルはどこで間違ったか?
それは、「ヤマトが戦闘力と戦意を喪失している」と考えた点にある。
彼の誤解も、分からなくはない。戦意はともかく、この時点で、戦闘力を維持できているヤマトがどうかしているのである。
すでにヤマトが戦闘力を失っているのであれば、防備の薄いダロルドでも火力は使い物になるし、2隻の空母も、ふらっとどこからか迷い出てきたヤマト艦載機に攻撃されないよう、艦隊行動を維持しておくのも悪い手ではない。
一連の急展開により、残っていたのはドメラーズⅢただ1隻。ドメルは、どちらかが沈むまで殴り合う覚悟を決める。
ここからは、沖田にとっても賭けであった。満身創痍のヤマトがドメラーズⅢに沈められるのが早いか。ドメラーズⅢがイオン乱流にはまって航行不能になるのが早いか。
沖田はこの賭けに勝つ。
ドメラーズⅢはイオン乱流の中で沈み、七色星団の戦いはヤマトの勝利に終わる。
ヤマトの勝利は、ただひたすら、敵の失策を待つという受け身のものであった。
敵の居場所も、戦力も分からない状態では、他に打つ手はない。自分が沈まず粘り続けることで、いつか訪れるかもしれない、敵の失策を沖田は待ち続けた。
それは、地球とガミラスの戦争の構図そのものでもあった。