『機動戦士ガンダムAGE』のSFネタ解説その7:ビッグリングの戦いとモビルスーツ戦術

2012年3月22日 『機動戦士ガンダムAGE』のSFネタ解説 No comments , , , , , , , , ,

 機動戦士ガンダムAGEに出てくるギミックや台詞を元に妄想をたくましくしていくSFネタ解説シリーズの7回目。

 第7回は第22話『ビッグリング絶対防衛線』を題材に、モビルスーツ戦術について考えてみよう。モビルスーツと戦術の組み合わせは、ミリタリー ファンは現実の戦術や兵器を持ち込み、SFファンは現実の科学や数式を持ち込み、ガンダムファンはガンダムへの愛を持ち込むことで皆が不幸になる、悪魔の 三位一体である。その全員にいい顔をしたいコウモリ村の有袋類である私としてはできるだけ地雷は避ける方向でいきたい。どちらにせよ、いつもとおり真面目 七分に法螺三分、大嘘ついても小嘘はつくなの三割精神だ。最後までおつきあいいただければ、幸いである。

●なぜビッグリングは宇宙にあるのか?
 初代ガンダムでは、南アメリカの地下の洞窟に連邦軍本部ジャブローがあった。きわめて堅牢な基地であり、コロニー落としでもなければ無力化は困難なほどだ。
 ジャブローに比べると、ビッグリングは宇宙に浮かんでおり、攻撃には脆そうだ。司令部をこんなところに置くのは間違いのようにも思える。
 だが、ビッグリングが宇宙にあることには、立派な理由がある。
 というのも、衛星軌道を優勢な敵に制圧されると、地上のどこもが安全とは言えなくなるからだ。地球のどの地点にも、空から質量兵器を落とすだけで甚大なダメージを受ける。分厚い岩盤に守られていない地下基地ならともかく、都市も工場も農地も鉱山も、爆撃され放題である。
 かつて米ソ冷戦時代にソ連が衛星スプートニクを打ち上げた当時、アメリカに「スプートニク・ショック」と呼ばれる衝撃が走った。衛星軌道に物体を打ち上 げる能力を保有するということは、地上のどこにでも爆弾を落とせるということを意味していたからだ。余談ながら、ロケットに軍用か科学用かの技術的な違い はない。弾頭を搭載すればミサイルであり、衛星や探査機を乗せれば宇宙ロケットなのである。
 それと同じで、ヴェイガンが衛星軌道を支配すれば、地上のどこもが危険にさらされる。核弾頭でなくとも良い。十分な質量を持つ石ころを月か資源小惑星か ら切り取ってコンテナに詰めて落とすだけで、ピンポイント爆撃から都市への戦略爆撃まで自由自在である。十分な岩塊が手に入るのならば、火山灰が太陽光を 遮る要領で、気象を制御して飢饉を起こすことだって可能なのだ。
 侵攻作戦においても、軌道を支配する有利は圧倒的だ。衛星軌道を支配する側は、手薄な場所を狙って奇襲攻撃を仕掛けることができる。一戦した後で地上か ら宇宙へ上がるにはツィオルコフスキー的に大変であるが、機動性が高いモビルスーツ兵器によるゲリラ的な降下作戦と離脱――ガンダムに大きな影響を与えた ロバート・A・ハインラインの『宇宙の戦士』で、強化歩兵部隊が得意とした作戦でもある――ならば、連邦軍がおっとり刀で集まってくる前に撤退が可能だ。
 そして、敵の動きを読んでの待ち伏せ以外の方法でこの襲撃を防ぐ手だてはない。衛星軌道を敵に奪われるというのは、部隊の展開に関してそれほどのアドバンテージと主導権を敵に与えることを意味するのだ。

●ビッグリング攻略
 連邦にとって是が非でも死守しなければならないビッグリングだが、宇宙空間の拠点防衛は、超技術(エネルギーバリアとか)がなければ、それだけで難しい。
 たとえば、ヴェイガンが地球近傍天体(NEO:Near Earth Object)にブースターを取り付けて加速させ、ビッグリングとの衝突軌道に乗せたとしよう。時間をかけて加速した巨大質量は、それだけで脅威となる。 もちろん、加速する側にも超技術(バーゲンホルム機関的な慣性制御)がなければ、衝突時の相対速度はせいぜいが秒速10~30kmであろうが、こういうの は質量さえあれば速度は遅くても脅威は高い。
 質量兵器に対する現実的な回答は、ビッグリングを動かすことである。宇宙空間に浮かぶものは、それがたとえコロニーであろうが要塞であろうが、動かせ る。そして、質量兵器ほどに巨大な物体は、遮蔽物のない宇宙空間で隠れるのは難しい。惑星のように動けない物体と違い、軌道上の物体は敵が質量兵器を持ち 出すことさえ想定していれば、対処は可能なのだ。

 それゆえに、だろうか。AGE22話でヴェイガンが取った作戦は、きわめて正攻法だった。モビルスーツ部隊を展開してビッグリングの防衛線を突破し、取り付いてこれを落とすというものだ。
 ビッグリングを要塞と考えた場合、城攻めにはふたつの方法がある。ひとつは、ドイツ軍がセヴァストポリ要塞を攻めたように、ひたすら大火力を集中するや り方。もうひとつは、日本軍が旅順要塞を落としたように、ひたすら守備兵力を消耗させ、失血死させるやり方。ゼハートが選んだのは後者である。
 ここでポイントとなるのがヴェイガンの特殊なステルス能力である。第22話でも撤退時には使っているところから見て、使用に制限があると思われる。おそ らく推進時の噴射ガスがステルス圏外に出ると赤外線が漏れて発見される、一度解除した場合二度目の利用に一定時間経過後などの条件があるのだろう。加えて 連邦軍側にも、ステルスを防ぐ備えはあると思われる。
 だが、たとえ完全な戦術的奇襲ができなくとも、接近をぎりぎりまで悟らせないことで、連邦軍に対応の時間を与えない作戦レベルでの奇襲は可能だ。第22 話で連邦側が戦力的に不利、というのはステルスで接近したヴェイガンに対し、連邦軍には戦力を集中する時間がなかったためだと思われる。

●『ビッグリング絶対防衛線』の流れ

 まずは司令部の画面からだいたいの戦況の流れを。

 攻める側のヴェイガンは大型艦5隻、守る連邦軍は母艦が9隻である。出撃したモビルスーツについては不明ながら、ビッグリングを直接基地とする部隊なども含めて100~200機前後というところだろうか?
 戦闘規模から考えると、Xラウンダーの持つ優位性は高い。どちらも数で揉み潰すような戦いができず、手持ちの駒をどう使うかの戦術が重要な戦いとなる。

 双方がモビルスーツ部隊を展開させた後、最初に動いたのはヴェイガンだった。Xラウンダー部隊『マジシャンズエイト』を投入し、戦線に突破口を開こうとしたのである。
 だが、これは連邦の司令官フリットの想定内の動きであった。フリットは、複数の部隊で局所的な戦力優勢を実現し、Xラウンダーの動きを封じ込める。突破 前進ができなくなったXラウンダーの一部は弱い箇所を狙って戦線中央へと移動し、そこでウルフとAGE2に乗るアセムと交戦している。

 味方の攻勢が頓挫したことで、ヴェイガンの司令官であるゼハートは兄デシルと共に出撃する。これは、状況を打破するに足る予備戦力がヴェイガン側 にもうなかったことを意味する。ゼハートは、ビッグリング攻略に、最初からほぼ全力を投入したのだ。戦力の逐次投入は各個撃破の的であるから、考え方とし ては正しい。また、あまり時間をかけると、ビッグリング救援のため、連邦軍部隊が集結してしまう。時間はヴェイガンの敵だ。

 しかし、おそらくそこまでフリットは見切っていたのではないかと思う。
 ゼハートとデシルのふたりのXラウンダーが戦線を押し上げ始めた時、フリットはためらうことなく自らAGE1で出撃している。
 これはこの時点でフリットが勝利を確信したためであろう。すでにこの状況までが想定内で、自分が出撃することも含めて後の作戦をどうするかもあらかじめ決めてあり、それゆえに参謀のアルグレアスに何も言わずに出撃し、アルグレアスもまったく驚く様子がなかったのだ。

 では、いったい何がフリットとアルグレアスをして、ゼハートとデシルが出撃した時点で勝利を確信させたのか?
 それは、「時間」ではないかと思う。

 この後、カメラはフリット対デシル、アセム対ゼハートに集中しており、他の戦線でどのような戦いがあったかは分からない。
 が、結果としてヴェイガンは大型艦1隻を失う損害を被り、ゼハートに代わって指揮をしていたメデル・ザントがゼハートに撤退を進言することになる。この時のメデル・ザントの言葉が興味深い。

「連邦の戦術によって、我が部隊の多くが退却を強いられており――」

 そう、撃墜されたのではなくて、退却を強いられているのである。
 可能性として考えられるのは、ヴェイガン側のモビルスーツ部隊が燃料や弾薬が切れて母艦へと後退し、それを連邦が追撃してついには大型艦の一隻を落とした、ということである。
 ヴェイガン側のモビルスーツは攻勢に出る必要上、推進剤をどんどん消費して機動し、連邦軍の防衛線に穴を開けようとした。Xラウンダー部隊『マジシャン ズエイト』が戦線の左翼で頭を押さえられた後、戦線の中央まで出てアセムとウルフと交戦していることからも、それが伺える。
 華々しい機動戦は、だが、推進剤の過剰消費につながる。推進剤と共に攻勢のモメンタムを失ったヴェイガンは、部隊単位で後退し、前線からは櫛の歯が抜けるように穴が生じる。そこを連邦軍は突いたのだ。敵を倒すのではなく、敵が後退した穴を埋めるように。
 序盤からの、やたらと細かいビッグリングからの戦術指揮も、モビルスーツ部隊の推進剤消費をできるだけ小さくするため、だとすると納得できることは多い。
 それを悟ったからこそ、ゼハートは撤退を決めたのであろう。フリットのAGE1が脅威だったのではない。フリットがゼハートとデシルとの戦いに出る前に、すでに自軍の勝ちを決めていたことに気が付いたのだ。

 つまるところ、この戦いは最初から最後まで、フリットの掌の中で行われていたことになる。高いステルス能力を持ち、Xラウンダー部隊をも有する ヴェイガンの戦術的有利と、短期決戦でビッグリングを落とす必要がある戦略的不利を見切って作戦を立てていたフリットに、ゼハートはまったく歯が立たな かった。

 恐るべきはやはり、天才フリット・アスノということだろうか。がんばれ、アセム! お父ちゃんを超えるのは息子の役目だ!

『機動戦士ガンダムAGE』のSFネタ解説その6:火星植民

2012年2月28日 『機動戦士ガンダムAGE』のSFネタ解説 No comments , , , , , , , , , , , , , , , ,

 機動戦士ガンダムAGEに出てくるギミックや台詞を元に妄想をたくましくしていくSFネタ解説シリーズの6回目。

 第6回はガンダムAGEの敵役、UE(アンノウンエネミー)あらためヴェイガンが生まれるきっかけとなった火星植民である。真面目七分に法螺三分、大嘘ついても小嘘はつくなの三割精神でいく。最後までおつきあいいただければ、幸いである。

 火星植民とその失敗というと、SFでその例は列挙の暇もない。
 有名どころをいくつか紹介すると、レイ・ブラッドベリの『火星年代記』。これの失敗は、人々が地球に魂を引かれてしまったからだ。東西の冷戦が全面核戦 争となり、ラジオでそのニュースを聞いた火星植民地の人々が、何やかにやと理由をつけて夜空に浮かぶ地球をながめていると、そこから発光信号で伝えられ る、戦争勃発の知らせと、「カエリキタレ」の言葉。この「カエリキタレ」は今読んでも涙がだばだばとあふれんばかりの名シーンである。
 また、光瀬龍さんの『宇宙史シリーズ』における火星植民都市も、その多くが荒廃し、砂に埋もれるようにして消えていく。火星の乾いた砂の上に作られたこの中でしばしば語られる“東キャナル市”という言葉は、日本SFの生み出した素晴らしい言霊のひとつであろう。
 漫画でいえば、萩尾望都さんの『スター・レッド』の火星でも植民が失敗している。なぜかあらゆる胎児が死んでしまうため、植民不可として見捨てられた火 星は流刑星として扱われるが、そこでどういうわけか生き残り、子孫を残し続けた火星人が超能力を得て、再び地球を訪れた人間と敵対する、というものであ る。
 ガチな戦争というと、川又千秋さんの『火星人先史』はカンガルー改良型の知的生物を火星に送り込んで奴隷&食料として使役するもカンガルーの反乱で火星 から人間が追い出されてしまうし、荒巻義雄さんの『ビッグ・ウォーズ』では火星はテラフォーミングによって海を持つ惑星になるも、太陽系に帰ってきた神々 によって人類は火星から駆逐されてしまう。

 さて――それまで大量に描かれていた火星植民を扱ったSFは、ヴァイキング1号、2号が火星に到着した頃になると、しだいに新しい話があまり語ら れなくなっていく。もちろん、『マン・プラス』『赤い惑星への航海』『レッドマーズ』『火星夜想曲』『火星縦断』などなど、その後も火星を扱ったSFはそ れなりに豊作である。谷甲州さんの『航空宇宙軍史』でも、『火星鉄道一九』のように、オリュンポス山の火口をまるごとリニアカタパルトにしている工学技術 的に希有壮大なお話も出てくる。

 だが、それらに共通するのは――『火星夜想曲』のような、少しファンタジー寄りの話をのぞくと――ガチでハード寄りのSFなのである。
 ひとむかし前の、火星にまだ運河が見えてた時代には、それこそH.G.ウェルズが『宇宙戦争』でタコ型の火星人だしたり、エドモンド・ハミルトンの 『キャプテン・フューチャー』シリーズの地球よりも古い古代王朝が存在する星だったり、エドガー・ライス・バロウズの『火星のプリンセス』あられもない格 好のお姫様に卵を産ませたりと「ちょっとエキゾチックで、手頃な舞台装置」として扱われていた火星も、気が付けば、生半可な科学知識で触れにくい、ちょっ と重たい星になってしまったのだ。

 そして同時に、火星の扱いが難しくなった理由のひとつが「なんで苦労して火星で暮らすの?」である。これは、こと日本においてはガンダムもおおい に関係していると我田引水できなくもない。機動戦士ガンダムが、「スペースコロニー」という宇宙に浮かぶ人工の大地を、もっともらしく描けてしまったせい で、「わざわざ惑星に降りなくても」という、コペルニクス的転回が、あまりSFに濃くない人にも、それなりに広まったのである。やはり、視覚情報は偉大で ある。
 実際問題として、火星を「人が暮らすようにする」ためのテラ・フォーミングには、どう見積もっても、天文学的な時間とお金がかかる。お金の方は何とか誤 魔化すとしても、時間は難しい。なお、これまたコロンブスの卵的に「時間がかかるなら、時間を早めればいいじゃない」という火星植民のSFがロバート・ チャールズ・ウィルスンの『時間封鎖』である。
 むろん、ここでも人間の叡智に限りはなく、「火星全部をテラ・フォーミングしようとするから難しいんだ。火星には渓谷がたくさんあるんだから、そこに蓋 してその底だけ暮らせるようにするとかどうだろう」とか「特殊な植物でドームのように覆った中で暮らすというのはどうだろう」とかいろいろと手は考えられ ている。アニメ『カウボーイ・ビバップ』の火星も、そんな風にして都市の周囲に、空気の壁を作っている描写があった。

 だが、やはり火星は遠い。
 そこに植民都市のひとつふたつを作るのは何とかなっても、大金のかかるプロジェクトを、いつまでも維持することは政治的な理由で難しいだろう。
 
 そこで思い出すのが、人類が月へと熱狂的に向かった1960年代の月レースである。
 松浦晋也さんが、この時代の宇宙開発をして『戦争型宇宙開発』(大人の科学マガジン/ロケットと宇宙開発)と称されたことがあるが、戦争や宗教などで生まれた人々の熱狂は、時に、経済原則を無視してでもひとつの方向へすべてを投入することがある。
 ガンダムAGEにおける過去に連邦が行った『マーズ・バースディ計画』というのは、そういう、一時の熱狂が生み出した計画なのかもしれない。そして熱狂 が冷めた時、連邦も、地球に残った人々も、火星について忘れてしまったのだろうか。金のかかる地球からの物資や援助を打ち切り、それが火星に住む人々の命 の綱を断ち切ることにつながると分かっていても、いや、分かっていたからこそ、後ろめたさのこもった思いから、すべてを「忘却しようとした」のではないだ ろうか。
 次第に乏しくなる物資をやりくりしながら、火星の人々は、明日は、物資が届くか。来年には、支援が再開されるのではないか。そう望み、何度も地球へ通信を送るが、やがて自分たちが捨てられたことに気付かされる。
 明日の人類の未来を切り開く英雄として送り出されながら、金や物資がもったいないからという理由で打ち捨てられ、それだけなら我慢もできたろうに、記録も消され、すべてが「なかったこと」にされていく。
 ある程度民主的で、そこそこに開かれた情報化社会でそのようなことができる場合、その理由は一部の支配階級、ビッグブラザー的な統制ではありえない。地 球に暮らす人々の多くが、政府が消していく火星植民の情報を、「黙って受け入れた」からに他ならない。罪の意識を、いつまでも持ち続けたくないがために。
 そしてそれこそが、ヴェイガンという組織の根幹にあるのだろう。政治的・経済的な理由で援助が打ち切られたのなら、それは仕方がない。そもそもが、火星植民とは無理のある計画だったのだ。壮大な計画が失敗に終わったことは無念ではあるが、受け入れることもできよう。
 けれども、「なかったこと」にされるのだけは。これは許せない。
 火星植民に抱いた夢を、理想を。それが無惨に打ち捨てられていく過程での苦労を、悲しみを。
 そのすべてが、「なかったこと」にされてしまうのであれば。
 それらの思いは、どこに行けばいいのか。
 ヴェイガンが、そうやって生まれ、「なかったこと」にされた恨みを糧に成長していったのだとすれば。
 彼らがUE(アンノウン・エネミー)と呼ばれていることを知りながら、長い間、じっと沈黙を守り続けたことには、理由があったのではないかと私は考える。

 ――呼んでくれ。
 ――私たちの名前を呼んでくれ。
 ――私たちの先祖が、どうやって、どこに送り込まれたのか、言ってくれ。

 もしここで、彼らの名前を呼んでやっていれば。
 「なかったこと」にした過去を取り戻させてやれば。
 UE(アンノウン・エネミー)との間には、また、別の関係が築けたのかもしれない。

アリアンロッド・サガ・キャンペーン シナリオ25『玄武めざめる』今回予告・シナリオ地図

2012年2月24日 アリアンロッド・サガ・キャンペーン No comments , , , , , , , , , ,

■今回予告:
 カムイ地方の地下にある太古のシェルター。
 それは、妖魔王ロスベルクが目覚めた時に、人々を避難させるためのシェルターだった。
 今こそ危急の時である。キミたちは封印されたシェルターの内部へと入る。
 そこでキミたちを待っていたのは、ロスベルクをめぐる、驚くべき真実であった。
 アリアンロッド・サガ「玄武めざめる」
 世界を守るため、キミの力を貸してくれ。

■ギルドハンドアウト:
コネクション:ロスベルク 関係:??
 600年前、妖魔軍団を乗せてアルディオン大陸へ侵攻してきた妖魔王ロスベルク。
 邪神に侵される前は、亜神の位を持つ巨大な亀、玄武であったという。
 封印されて500年。今では300万近い人々がかつて妖魔王であった島の上で暮らしている。
 たとえ封印されて島になったとはいえ、なぜ、誰が、何の目的をもってロスベルク島に人々を移住させたのだろうか。

■第13軍団:
 第13軍団:11800人
 アヴァロン旅団:1800人
 アヴァロン旅団レベル:14
 維持費:18000G
 +カツオブシ工場ひとつ(現在休業中)
 ギルド武勲:317点

■キャンペーン地図:ロスベルク島の現状

●地図の見方
地方(エリア):点線の四角枠が、各地方(エリア)になります。妖魔王ロスベルク本体は海面の下にあり、でこぼこしています。ドードー島とミドルロック島 は、浮上したことでロスベルク本島と地続きになりましたが、道路などのインフラはありませんので、現時点でのエリア間移動は飛行のみとなります。
人口:各地方(エリア)の人口を示します。1マスがおおむね10万前後です。あくまで戸籍として登録されているもので、流動的な人口が数十万存在すると見込まれています。
軍隊:各地方(エリア)の軍隊および、軍事施設を示します。青がグラスウェルズ、赤がレイウォールです。
物資:各地方(エリア)の持つ備蓄された物資です。主に燃料(薪、石炭、錬金術素材)だと考えてください。シナリオ終了時に1つずつ減少します。シナリオ 終了時に消費物資が不足するエリアは、人口や軍隊を維持できなくなります。(隣接エリアに人口は移動します。軍隊は消えます。これは軍事力として使えなく なる、という意味で兵隊が0になるわけではありません)他のエリアから人口が流入したエリアでは、流入したエリア1つに付き、備蓄物資が2倍減ります。
 例:カムイ地方からヴェンシス地方へ人口が流入した場合、ヴェンシス地方では、従来の1+2の3ポイントの物資を消費できないとエリアを維持できなくなる。
 物資のエリア間輸送や、新たな物資の発見や確保、また物資の追加消費によるエリア防御施設の建設などについては、キャンペーン進行に伴って随時、明らかになっていきます。
 いずれにせよ、ロスベルク島の社会と人口は(妖魔王が何もせずとも、空を飛んでいるだけで)遠からず崩壊することだけは確実です。

 そろそろ、あちこちで備蓄物資が限界になってきました。今回のシェルター探索が、事態の打開につながるかどうか。

■ダンジョン地図

■ダンジョン追加情報:
 ミドルロック島の天空城をクリアしているので、『ホワイトノア』の制御精霊ヴィヴィオから、シェルターについて次の情報を得られます。
「シェルターはね、私と同じように精霊制御なの。精霊エンジンが搭載されてて、空も飛べるよ」
「形は空飛ぶ円盤みたいなの。おっきくて、直径2kmくらい」
「このシェルターは、元は“水の粛清”で神様が一部の人や動物を助けるために作った箱船(アーク)なの。水がひくまでの間、中で眠り続けることができるよう、冷凍睡眠システムが搭載されてるわ」
「箱船を目覚めさせるには、16本ある柱のうち、最低でも3ヵ所の柱を起動させる必要がある。でも気をつけて。箱船は、本来が亜神かその域に達した神の戦 士によって動かされることしか想定していない。人間がうかつに起動させようとすると、魂ごと吸収されて干からびてミイラになっちゃうかも」
「対策? 対策と言われても、そうだなぁ……あ、そうだ! 妖魔王の石、あるでしょ? あれをできるだけたくさん集めて持っていくといいよ。すでに浄化されてるから、あれは純粋な魔力の塊。きっと役に立つと思うよ」

※GMから補足:
 妖魔王の石はダンジョンの外で調達するなら、1個5万G。
 ダンジョンの中で追加で欲しくなった場合は、1個10万G。

■キャンペーン追加情報:
 聖域で“撤退派”の妖魔将軍ハンニバルと交渉して分かれたので、ハンニバルが動き始めます。
 アルバン地方の妖魔将軍ヤプールの迷宮に、ハンニバルが集めた軍勢が攻め込みます。現時点では、ヤプール軍が超獣を中心に30万(平均レベル30)に対し、ハンニバル軍がフォモールを中心に10万(平均レベル10)で、ヤプール側が優勢です。

■シナリオ進行について(プレイヤー情報)
 ダンジョンシナリオです。
 ダンジョンは、コントロールセンターまでたどりつけばエンディングです。時間が足りなくなってきたら、切りあげてコントロールセンターへ直行します。
 うまくダンジョンをクリアしていけば、それぞれの場所でボーナスを得られます。がんばってください。
 また、『レボリューション』が発売になりました。フォーキャスターやプリーチャー、そして何よりファランクスがあります。
 リビルドを行なうプレイヤーは、あらかじめキャラクターのリビルド案を持ってきてください。セッション開始前にチェックいたします。

アリアンロッド・サガ・キャンペーン シナリオ24『聖域の試練』ログとレポート

2012年2月21日 アリアンロッド・サガ・キャンペーン No comments , , , , , , , ,

シナリオ24:聖域の試練 キャンペーンログ
■概要:
 PCたちダークドラゴンはファーレン地方のオリアンへ向かう。
 オリアンの中央広場には、地下からせりだしてきた十字架型の塔があった。
 この中に入ったPCは、妖魔将軍ハンニバルと遭遇し、いったんは戦闘になるも、ロスベルクからの撤退派であるハンニバルとは情報交換を行って別れる。
 今後は、バァルの指輪でハンニバルとアニマルメッセンジャーによる連絡が可能。
 同時に、妖魔四天王最後の生き残りジョン・ドゥの背後に、人間に転生(寄生?)した上級魔族がいるらしい、との情報を得る。
 次回は、カムイ地方にあるシェルターへ向かう。

■第13軍団:
第13軍団:11800人
■旅団
アヴァロン旅団人数:1800人
旅団レベル:14
維持費:18000G
■武勲
ギルド武勲317点
■ギルド所有物
輸送飛行船1隻(+1隻の運航を任される)
ノイエ・ガイエスブルク城
ファーレンの旅籠(ギルドの陣宿)
カツオブシ工場(休業中)
バァルの指輪付きおしゃれの盾(新規)★

■シナリオ24期間中の出来事(ROC)
===================================
1:ファーレン地方のオリアンで、地割れから出た妖魔の群れと戦う。
※成長点+40。所持金+8万G
===================================
2:ミドルロック島で武装飛行艇の操縦訓練を受ける。
※成長点+20。所持金+12万G。
===================================
3:カムイ地方でシェルターについて情報収集を行なう。
※シナリオ25の情報収集/罠感知の判定に+2D。所持金+12万G。
===================================
4:ドードー島で、妖魔将軍パットンの大戦車軍団を相手に戦う。
※成長点+20。所持金+12万G。
===================================
5:アルバン地方で、妖魔同士の戦いに遭遇。漁夫の利で妖魔王の石を入手。
※所持金+16万G。
===================================
6:物資輸送任務に携わり、カムイ地方やヴェンシス地方を飛び回る。
※成長点+20。所持金+12万G。
===================================
●全員獲得の成長点:120点

■キャンペーン地図:シナリオ24での状況

■シナリオ地図:オリアン市

■ダンジョン地図:

俺の母親がこんなに(仮題 10

2012年2月4日 俺の母親がこんなに No comments , , , , , , , ,

10)
『ルー、ティオ、ゴルちゃん、モノちゃん。元気かしら』
 どこかの帰りらしく、帽子を脱ぎながら母さんは言った。
 一ヶ月ぶりに見る母さんの姿は、いつものように愛らしく、魅力的で、家庭の持つ温かさと親しみを感じさせながら蠱惑的でもあり……とにかく、最高だった。
「あの鳥の羽がついた帽子、なかなか良いセンスですわね。少し子供っぽいですが……まあ、おばさまなら……」
「羽根の形状からして、水鳥と思われる。色は魔術による染色」
「ボクもあんな帽子が欲しいなぁ」
 後ろに並ぶ三人の言葉を右から左へと聞き流す。何しろ一ヶ月分の母親成分を使い魔のカラスが結ぶ画像と音声で補充しなくてはいけないのだ。
『……ちゃんと記録してる?』
 母さんが手を伸ばしてぺしぺしと使い魔のカラスの頭をたたいた。画像が大きく揺れる。
『どうも心配だなぁ。母さん、こういうの苦手なのよね。一緒に手紙を結わえてあるから、大丈夫だとは思うんだけど……』
 大丈夫だよ、と言いたいところだが、それを二日前の母さんに伝える術はない。
 ガレー船の上甲板に描かれた魔法陣の上に母さんの姿が浮かぶ。空に月はなく、星空だけが広がっている。使い魔が見た映像の再生は陽炎のようなもので、暗いところでなくてははっきりと見えない。
『それでね。良いニュースと、良くないニュースとがあるの』
 母さんが、料理に失敗して食材を駄目にした時しか見せない憂い顔になる。俺は母さんを慰めようと映像に手をさしのべてしまい、ぺしり、とゴル姉に手を叩かれる。
「幻影魔術に衝撃を与えては駄目ですわよ、ルー」
「お触り禁止」
「ボクなら触っていいよ、お兄ちゃん」
 ガレー船での騒動を知る由もない母さんは、こつん、と自分の頭を軽く小突いた。
『ごめん、母さんがこんな顔してる場合じゃないわね。良いニュース……と言えるかどうか分からないけど、モノちゃん家に、“巨人殺し(イッスンボウシ)” を持ち込んだ連中の正体が分かったわ。乱破(らっぱ)よ。それも、かなり裏で悪いことをしていた奴ら。暗殺や火付けなんかね』
 乱破(らっぱ)というのは雇われ忍者だ。忍者だからと言って非合法活動ばかりではないが、金で雇われる連中の中には、謀略を得意とする者がいる。“巨人 殺し(イッスンボウシ)”を餌に、巡回裁判所という公的な機関まで利用してサイクロプス族を追い込もうとしていた手際から、ただ者ではないと思っていた が、案の定だった。
『警備隊長さんが、誰がやったか知らないけど、その首領格を殺した犯人には礼を言いたいくらいだ、って』
 後ろでモノが大きく溜息をつく。
 もちろん、警備隊長も犯人が誰かは分かっているだろう。さらに、俺が気付いたくらいだからモノの一族がはめられそうになった裏の仕掛けも、あらかたは見抜いているはずだ。
 その上で、母さんや周囲にそのような言い方をしているということは、この問題をあまり大きく扱うつもりはない、という意思表示だ。
『でも、雇い主の方はやっぱり、諦めてなかったみたい。これが悪いニュースよ。あのね、落ち着いて聞いてね――第二種の動員令が出たの』
「動員令ですって?!」
「どーいんれーって何だっけ?」
「兵隊を集める命令のこと。バラスでは町内会や職業組合(ギルド)ごとに、人数割り当てが決まっている。第二種なら、かなり多い」
 良く分かっていないティオに、モノが解説している。三人とも、かなり動揺しているようだ。
 俺はというと、あまり動揺していなかった。サイクロプス族に選帝侯を巡回裁判所に提訴させるのは、手間と金がかかっていても、あくまで口実作りでしかな い。本音は、帝国南部に騒乱を引き起こすことであろうと考えていたし、ならば、モノがサイクロプス族への陰謀を防いだところで、背後にいる連中は他の手を 考えるだけだ。
『お父さんも、遊撃隊の隊長で召集されたわ。それで……え? ちょ、ちょっと待って! すぐに支度するから!』
 母さんが、横を向いて、隣の部屋にいる人間――親父――に言った。
『時間がないから、着替えながら話すわね』
 は?
 母さんの言葉が脳に染み渡る前に、母さんが上着のボタンを外しはじめた。
「ちょっ、あっ、母さんっ! 何やってるんだっ!」
「ルー、動揺しすぎですわ。上を脱いだだけでしょう」
「大事な話だからふざけない」
「着替えるって、どこか行くのかな?」
 ここは視線をそらすべきなのだろうが、俺の目は広がっていく肌面積に吸い寄せられて離れない。
『騒乱のきっかけは、巡回裁判所が襲われたことだったわ。場所はバラスの町の境界線ぎりぎりだったから、彼らの保護はバラスの責任なの。それで、リオン侯 爵がバラス領主を辞めて責任を取り、変わってラマンド選帝侯が新しい領主になったわ。あらかじめ筋書きを用意していたかのように、あっさりとね』
「やはり、裏があったようですわね」
「巡回裁判所を襲わせるのは、予定通りと見た」
「モノ姉、予定通りってどういうこと?」
「もしキュクロス家がラマンド選帝侯を告訴しても、その訴えは政治的影響を考えて却下された可能性が高い。そしてその結果に納得できないキュクロス家が、巡回裁判所を襲えば、悪いのはキュクロス家という大義名分ができる」
「そういうことですわ。キュクロス家を巻き込むことができなかったので、次善の策として巡回裁判所を襲わせて難癖つけたのでしょう」
「ということは、これで終わりじゃないんだね」
「そう。これからが本番」
 俺は黙ったまま考えていた。
 ゴル姉が言うように、母さんは裸になったわけではない。脱いだのは上着だけで、下着はつけたままだ。なのに、裸よりもいかがわしく見えるのはなぜだろ う、と。服を脱ぐ、という行為そのものがエロスを感じさせるのもあるだろうし、身体をひねったり腕を動かすことによって肌の見える場所が違ってくることも 関係あるのかもしれない。猫が転がるボールに興味を示すように、狩猟・採集型の動物は獲物の動きに敏感なのだ。
 獲物? いや待て。落ち着けルードヴィヒ。お前は今、何を考えていた。たとえ妄想とはいえ、愛する女性を獲物と考えるなど、どうかしている。
『バラスは帝国の領主を持つけど、自治都市よ。領主の交代には、手続きとして、民会の承認がいる。それまではたとえ選帝侯であっても勝手はできない決ま り。でも、ラマンド選帝侯はすぐに警備隊長の更迭や民会の解散を命令してきたわ。従わない場合には、兵を持って鎮圧する、ってね。もうみんな、プンプン よ』
 母さんは長櫃を引っ張り出した。使い魔のカラスの目には、床にしゃがみこんだ母さんの背中からお尻のラインが映っている。もうちょい、左に寄れば、後ろからの構図が――
「ルー。この映像は使い魔の目で見たもの。後ろに回り込んでも、下からのぞきこんでも別のものが見えたりはしない。何より、すごくみっともないからやめて」
「まったく、おばさま相手だと理性も思慮も吹っ飛ぶのは昔から変わりませんわね」
「お母さんが一番の強敵だよね」
『んしょっと。都市運営委員長のカゴメお婆ちゃんが、交渉引き延ばしの時間稼ぎと帝都への根回しを始めたんだけど、硬軟どっちも必要だろうって、第二種の動員令も出しているってわけ』
 母さんが長櫃の中から取りだしたのは、修道闘士(モンク)の道着だ。親父と結婚して正式には引退しているが、母さんは今でも素手でケルベロスを殴り倒せる強さを持つ。
『ん……しょっと。う、ちょっと太ったかな……いや、そんなことないよね。元々、身体を締め付ける道着だし』
 身体の要所を聖別された拘束具で締め、その間をベルトで繋ぐ。傍目には緊縛しているように見えるが、修道闘士(モンク)はこの道着の補助を受けて気脈と力の流れを作る。半歩の踏み込みだけで暴走する牛をも止める当て身が可能になるのだ。
 ……が、それにしてもちょーっと食い込みすぎな気が。
「おばさまの道着、いったいいつ頃のかしら」
「結婚前、ということはルーが産まれる前なので、十八年くらい?」
「ボク、前に聞いたことあるよ。お母さんが十五才で聖堂付き修道闘士(テンプルモンク)の資格を得た時に、教区管区の司教様がプレゼントしてくれたもので、すっごい高いんだって」
「十五才! それで太ももがあんなことに……」
『よし! お父さんと一緒に母さんも遊撃隊として出ることになったの。でも安心して。本格的な戦争にはならないはずよ。ラマンド侯は近在の領主にもバラス 懲罰の声をかけてるけど、どこも様子見しているわ。ラマンド侯単独ではお金も兵力もないから、山賊紛いの傭兵を送り込んで来るのが精一杯だろう、っていう のがお父さんと警備隊長さんの判断よ。だから、あなた達はこの戦いの決着がつくまでもうしばらく、海で待機してて。大丈夫、母さんは強いんだから!』
 えっへんと、腰に手を当てて母さんが胸を張る。
「「「「あ」」」」
 映像を見ていた四人の声が和声する(ハモる)。
 成長した身体を限界まで締め付けていたことで、何もしないでも気脈が帯の間をぐるぐる回っていたのだろう。母さんの腰に手を当てる最後の仕草が溜まりに溜まった力にひとつの方向性を与えた。
 ばちんっ。拘束具を結ぶベルトが一斉に弾けて飛んだ。上に羽織った布も、下に着た肌着も、その衝撃の犠牲となる。
『え? きゃっ……きゃーっ!』
 真っ赤になった母さんは肌を隠そうとするが、はっと気付いてこちらに――カラスの使い魔を掴む。次の瞬間、カラスの視点は町の上空。神殿の尖塔よりも上の場所にあった。
 そして映像が途切れた。夜の暗闇がガレー船の甲板を覆う。
 俺は黙って目を閉じた。今の一瞬の映像を、短期記憶から長期記憶へと保管しなくてはいけない。すべてはその後のことだ。

(つづく)

五箇山、塩硝の館 見学レポ

2011年11月7日 見学メモ No comments , , , , , , , , , , , , ,

 火縄銃で使う黒色火薬は、硝石75%、木炭15%、硫黄10%を混ぜて作ります。
 戦国時代の日本では、木から作る木炭も、火山で採れる硫黄もありましたが、硝石はありませんでした。
 硝酸カリウムを主成分とする硝石は、中国やインドから戦国時代の日本に輸入されました。しかし、日本中が戦乱の時代のこと。最大火力である鉄砲の運用を輸入硝石だけに頼るのはいかにも心もとないものです。
 そこで、量には限りがありますが、人馬の糞尿の混ざった土から硝石が作られたのです。
 『戦国火薬考』(桐野作人/歴史群像67号)によると、本願寺の文書に人造硝石についての記述があり、もっとも古いものでは、毛利元就(1571年没) 書状で触れられていることから、火縄銃伝来(1543年?)とそれほど時を置かずして、人造硝石の技術も伝来していたようです。

 糞尿の混じった土から硝石=硝酸カリウムが作られる過程で重要なのが、バクテリアです。硝化バクテリアは窒素を含む有機物(アンモニアなど)を分 解し、そのときに発生する酸化エネルギーを利用します。そうやって分解された有機物が硝酸塩で、これが土中のカルシウムと結合して硝酸カルシウムとなりま す。この硝酸カルシウムを灰汁(炭酸カリウム)を使って煮て、両者のカルシウムとカリウムを交換して、硝酸カリウムを含む水溶液を作ります。こいつを海水 から塩をつくるように煮詰めて濃縮し、結晶化させて硝石を作り出すわけです。
 『ドリフターズ』(平野耕太)の2巻でノブこと織田信長がやっているのも、これと同じやり方です。

 戦国時代が終わり、日本が平和になってからも、硝石の需要はゼロにはなりません。『鉄砲を手放さなかった百姓たち』(武井弘一)にもあるように、獣害を防ぐため農民は農具として鉄砲を保有し続けましたし、各地を治める大名も、演習その他で黒色火薬を消費したのです。
 富山県五箇山は、江戸時代における日本国内の硝石生産拠点のひとつです。山奥に孤立した集落で、谷川沿いに世界遺産ともなった合掌造りの集落が並んでいます。

 雨の中、鷹見一幸さんと五箇山を訪れた私が最初に思い出したのが「ひぐらしのなく頃に」のオヤシロコロニー、雛見沢でありました。そういえばあのモデルになった白川郷も、合掌造りの建物の床土から、焔硝(硝石)反応がある、硝石生産拠点でありました。

 五箇山や白川郷でどのように硝石が作られていたかというと、基本は馬屋や厠の古い土から硝石を作る方法と同じで、硝化バクテリアの働きによりアン モニアから亜硝酸が作られるわけです。この硝酸態窒素は、植物の葉っぱにも蓄えられることがあり、五箇山では、囲炉裏近くの床下に1.8~2.1mほどの 深い穴を掘り、そこに硝酸イオンが葉に多いシソやツユクサらの葉っぱを、蚕(生糸生産も、重要な産業でした)の糞と一緒に混ぜ、上には通気性の良いほろほ ろと崩れる土(硝化バクテリアは、好気性細菌)をかぶせます。
 後は年に何回か土を掘り出してかき回し、五年くらい経過してからは上の方の土に硝酸カルシウムの結晶が多く含まれるようになります。

 屋内で作る理由は、硝酸が水に溶けて流れないように。囲炉裏のそばに穴を掘るのは、寒い冬場でも硝化バクテリアが活動できるように。
 ……なのですが。

 さて、ここから先は、私の妄想です。

 ──なぜ、五箇山で硝石を作ったのでしょう?

 五箇山の案内では、幕府の目が届かない秘境だから、と説明されています。
 しかし、本当にそれだけにしては、五箇山は秘境に過ぎます。まるで幕府どころか、同じ加賀藩内部にすら、ここで作っている硝石についての情報が漏れないよう、気をつけているかのよう。

 しかも、それだけの秘だというのに。
 作られた硝石は、意外なほどまっとうに「塩」として、金沢の町にまで出荷されています。箱を牛の背にのせて、五箇山の住人が山奥から届けに来ています。まるで、塩硝(硝石)であること自体は、バレてしまってもかまわない、という風に。

 五箇山の硝石造りで、本当に秘すべきことは、もしかしたら硝石を作っているということではなく、その造り方だったのかも知れません。そしてそれは、後に書物としてまとめられた、観光案内に記されている造り方ではなく。

「なんまんだぶ、なんまんだぶー」
「来年も、ようけ塩硝が採れそうだわ」
「骨の太いお侍さんだったからの」
「お、これは去年の……親子連れだったか」
「子供の方は、きれいにおらんなっとる」
「ありがたや、ありがたや。なんまんだぶ、なんまんだぶ」

 みたいな意味で、秘すべきことであったとしたら。
 それはまさに、村の外に知られてはならぬ禁忌ではなかったかと。
 雨にけぶる合掌造りの家々をながめつつ、あれこれと妄想を楽しんだのであります。

RPG今昔物語外伝:ゲーム脳を防ぐために寒冷地仕様の軍用レーションを

2009年3月1日 RPG今昔物語 No comments , , , , , , , , ,

 ゲーム脳、という言葉がある。
 Wikipediaによると
>>>
「テレビゲーム(正確にはコンピュータゲーム全般)が人間の脳に与える悪影響」
>>>
 を象徴したものということらしいが、本稿では私なりの定義をさせてもらう。

 ゲーム脳とはすなわち、ゲームのやりすぎで、ブドウ糖が不足して疲弊した状態の脳のことである。
 いやいや、笑うなかれ。
 ゲーマー、特にディプロマシーなどのマルチゲームや、TRPGをプレイするゲーマーであれば一度はそのような経験があるに違いない。

 脳を使うと、ブドウ糖が消費される。勉強や仕事でも、もちろん減る。だが、もっとも大量に消費するのは、ゲームをした時だ。
 ゲームは楽しい。楽しいから、歯止めがなくなる。イギリスから北海の制海権をいかに奪うか。どのタイミングで清国に攻め込むか。どうやって依頼人を裏 切って宝を独占するか。そんな楽しくてうれしいことばかり考えているものだから、ゲーマーの脳は常時使用率100%の状態だ。
 その集中力を仕事か勉強に使えと言ってもせんのないことである。

 そして、脳を使えば、ブドウ糖が減る。
 (陰謀や裏切りが)激しいゲームを数時間プレイすれば、脳のブドウ糖は枯渇状態になり、ゲーマーは疲労困憊になる。
 そこで終わっていればいいが、まだ続くと、ゲームがだれてしまう危険もある。

 ゲーム脳を防ぐ方法はただひとつ。
 ブドウ糖を補給することである。
 しかし、これは言うは易く、行うは難い。たとえば、昼前にゲームをはじめて昼食をとってからゲームを続けるというパターンでは、ゲーム脳対策にならないのだ。ちゃんとした食事の消化と吸収にはそれなりに時間が必要で、ゲーム脳対策としてのブドウ糖の補給には適さない。
 では、チョコレートやキャンディといった消化吸収が早くて糖分の多いお菓子はどうかというと、これも実はタイミングが合わない。
 ゲームに集中しはじめると、ゲーマーはゲーム以外のすべてを忘れる。暇な時に舐めていた飴の糖分など、集中を始めて10分で使い切る。以後、10分おき に、あめ玉を口に放り込むなり、マックスコーヒーをぐびりとやるなりすればいいが、ゲームに集中しているゲーマーはそのようなことをきれいに忘れている。
 むろん、ゲーマーも最終進化段階になると、たとえ大脳を99%までゲームに費やしていても、残った1%を条件反射に用い、パブロフの犬的に機械的に糖分 を口に運ぶようになる。が、ここまで進化できるゲーマーは限られているし、どういうわけか、そこまで進化したゲーマーはやたらとメタボになってしまい、日 常生活に支障を生じるようになる。

 となれば、対策はただひとつ。
 ゲーム開始前に、十分なブドウ糖を体内に蓄え、数時間のゲームを経ても脳にブドウ糖が供給できるようにするのだ。

 そんなことが本当に可能なのか?
 可能なのである。
 そのための食材が、今回のお題にある寒冷地仕様の軍用レーションだ。

 寒冷地仕様の軍用レーションとは、その名の通り、寒いところで戦闘をする兵隊さんのための食事(レーション)で、一食で3000キロカロリーだの 4000キロカロリーだのの、信じがたい数字が並ぶ。氷点下-30度といった過酷な環境では、兵士が自らの体内に蓄えたカロリーを消費して体温を維持しな いとあっというまに凍えて死んでしまうのだ。

 むろん、こんなものをいかに過酷といってもゲームのために丸ごと食ったのでは、ゲーム脳にはならなくとも、健康によろしくない。
 食べるのは、軍用レーションにパックされているデザートのケーキだ。

 先だっても、ミラノ北部にあるBalconiのスイートロールケーキを食べたのだが、これの効き目がものすごかった。
 そのときは、ゲームではなく仕事の打ち合わせであったのだが、いくら脳を使っても、まるでブドウ糖が切れない。まさに夢のような感覚であった。
 日本では大和物産などが輸入しており、関東近辺の人であれば1本300円くらいのお手軽な値段で購入が可能だ。

 むろん、カロリーは多い。けれど、さすがはイタリア人のお菓子というべきか、Balconiのスイートロールケーキは、さわやかな甘みであり、口触りもよくて食べやすい。

 食べ過ぎてはまずいが、ゲーム前にみんなでつつくのならば、問題は少ないと思う。
 なお、このときにはコストコのチーズケーキも食べたのだが、こちらは軍用レーションではないが、実に実直な、“まじめな”味の濃厚なチーズケーキであっ た。ブドウ糖の補給という点では今ひとつかもしれないが、ゲーム脳を防ぐ役目は十分に果たせる。女性漫画家の仕事場にもっていったら、「チーズケーキには ちょっとうるさい」を自認する彼女達がうなったという曰くつきのチーズケーキである。

 ゲーム脳を防ぎ、ゲームを楽しくプレイするためにも、ぜひ軍用レーションのデザートを試してみてはいかがだろう。

 新たなゲーム展開が、皆さんを待っている!

 ……
 …………
 ………………今思ったのだが、これってつまり、単純に皆が疲れて諦めないので、泥沼の戦いが延々と続くだけかもしれんな。ゲームによっては。

 まあでも、ゲームは楽しく遊ぶのが何よりということで――

 今は昔の物語である。