俺に明日は来ない Type1 第8章

 夕飯に呼ばれたが、赤と黄色の髪をした2人は応じなかった。俺だけが食堂へ向かう。  今夜はハンバーグだった。 「何か寒気がする」 「ずぶ濡れでトラックの荷台にいたもんな、風邪でも引いたんだろ」 「風邪薬ってある?」 「食い終わったら持ってきてやるよ」 「わりいじゃん」  少し時間が経ったからだろうか。水上の様子は普段通りに戻っていて、調子を合わせて何事も無かったかのように振る舞うのは俺には少しきつかった。  実際に体調も優れなかったが、その振りをして口数少なく食事を済ませる。 「みんな~、今日はカルピスの日よ」  小さい子達も食べ終わった頃を見計らって、細川さん達が子どもたちにコップを持たせ、1人1人にカルピスを注ぎ回っていた。 「お前ももらえば?」  傍目には物欲しそうにしていたのだろうか。風邪薬の入った瓶を片手に戻ってきた水上が声を掛けて、俺の分ももらってきてくれた。 「お前は要らないの?」 「要らねえ。ガキじゃあるめえし」 「どうせ、俺は子供だよ」  いじけてみせると声を上げて笑われた。  苦い薬を甘いカルピスで飲み下す。  空になったコップと食器を洗い場に持って行き、他の人の分と一緒にまとめて洗ってしまう。手を拭いて外廊下に出てから思い出す。 「水上、煙草一本くれ」 「やだ」 「なんでだよ、ケチ」 「貴重な煙草を灯油まみれにしたのはどこのどいつだよ」  その通り。頭に血が上った勢いで、作業服のポケットに入れていた煙草もダメにしてしまったのだ。 「ごめん」 「仕方ねえなあ」  自分の分を咥えてから箱ごとこちらに向けてくれる。 「ごっそさんです」  火も貸してもらった。いくつか離れた教室から、子どもたちの高い声と、布団を敷いている細川さんや木下くんの声が漏れてくる。  それ以外は静かな、星の綺麗な夜だった。  あくびが出る。 「眠そうだな」 「何かね。今日も色々あったし」  ゆっくり紫煙を吹き流す。 「体調もよくねえんだろ。今日はさっさと寝ちまえ」 「……そうしようかな」  腹が一杯になって、一服して落ち着いたからか、急に眠気を覚えた。  まだ少し残っていたが火をもみ消して、大人組の寝室になっている教室に向かう。自分の布団に潜り込むと、すぐに寝落ちた。  ぐっすり寝たはずなのにまだ寒気がする。  朝飯を食いながらそう話すと、子どもたちにうつしたらいけないと保健室へ連行された。  昨日のことを思いだしたが、青髪が殺されて汚れた布団は綺麗に片付けられていた。 「今日は一日、ゆっくり寝ていなさい」  体温を測りながら細川さんに命じられる。 「38度。完全に熱を出したわね」 「ごめんなさい」 「まったく、いい年して世話が焼けるわね。おやすみなさい」  怒って見せながら細川さんが出て行った。  お言葉に甘えて寝させてもらうことにした。  寝たり起きたり、うつらうつらしていたら、いつの間にかもう日が暮れていた。  ガラガラと戸の開く音に目を開ける。 「起きてたんすか」  盆の上に茶碗といくつかの皿を載せた黄色と、後ろからおひつを抱えた青がやってきた。 「今さっき目が覚めたところ」  夕飯を持ってきてくれたらしい。体を起こして布団に掛けられていたフリースの上着を羽織った。 「水上さんが、持っていけって」 [...]