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狐狸狐狸 弐

 僕が少年時代を過ごした家の、すぐ傍の山には狸が棲んでいた。
 我が家の猫たちにとっては、餌を横取りする招かれざる隣人であったが、この世の中では生きていくのも厳しかろうと僕らは見て見ぬふりをすることにしていた。

 ある年の2月、しん、と静まりかえった夜明け前に僕はふと目を醒まし、新聞を取りに外へ出ようとした。
 すると、眩いばかりの月光の下、庭は一面の銀世界となっていた。サンダル履きだった僕は「こりゃいかん」と回れ右して家に引き返し、結局また寝直してしまった。昼過ぎになって再び目醒めた頃には雪は融けてなくなっていた。
 しかしその後、仲間に「今朝はすごい雪だったなあ」と報告すると、皆口々に「はて、雪なぞ降ったか」と首を捻るばかり。
 どうやら僕は真っ白な月明かりに照らされた我が家の庭を雪と勘違いしたらしい。どう記憶を掘り起こしてもそれは間違いなく雪だったのだが、今思えばあれは狸に化かされたのだろう。

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