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狐狸狐狸 参

 我が家には座敷童が棲んでいる。
 僕が引っ越す時から既に年季の入った家だったのだが、前の入居者はこの姿の見えない同居人を連れて行かなかったようだ。

 僕は最初そういうモノが棲んでいるとは聞いていなかったので、寝室のドアが「かちゃり……」とひとりでに開くのを見た時、一種形容しがたい感情に呑まれたものである。
 その後も不可思議な事は収まらず、僕が寝ている時に玄関でなにやら物音が聞こえたかと思うと、階段をとてとてと上がる足音が聞こえ、挙げ句に隣室から話し声がするので起き出して見ると誰もいない、ということがあった。

 もちろん、ドアが独りでに開くのは立て付けが悪いせいであり、気圧の変化によってドアに圧力が掛かりやすい構造になっていたからだし、玄関の物音は後に郵便受けにチラシなどを投函する時の音、隣室の話し声は隣家の声が反響しているだけだと後で分かった。

 しかし、階段の足音だけは今以て未解明のままである。

 何か理屈をつけようと思えばできるのかもしれないが、それも味気ない気がして、僕は未だにこの家には座敷童が棲んでいるのだと思うことにしている。

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