高速魔導士隊は攻撃面では最強だが、防御は極めて脆く、全ユニット中最弱に設定されている。今期攻撃力が弱体化した軽騎兵に殴られるだけでも壊滅してしまうほどである。
しかし、90%カット、1セルあたり45秒で移動し続ける魔導士部隊を狙い撃ちすることが可能だろうか?
――理論上は可能である。キャラクターがあるセルを「塗って」から、次のセルに移動する指示を出すまでには、プログラムの仕様上どう頑張っても十数秒かかる。これは、セルが塗られた時にサーバー内のデータが更新され、それがプレーヤーの画面にフィードバックされるのに数秒間の「待ち時間」が発生するからだ。
この待ち時間では、プレーヤーの画面には丸い矢印がぐるぐると回転するアイコンが表示され、一切の操作ができない。プレーヤーの間では通称「ぐるぐるタイム」と呼ばれていた。
セルとセルの間を移動しているキャラクターに「アタリ判定」はないのだが、このぐるぐるタイムから次の移動指示を待つ間はそのセルに「駐屯している」扱いになり、攻撃を受ける可能性がある。
同じく90%カットされた軽騎兵部隊は1セルを9秒で移動する。キャンプを攻撃された味方から情報を得て次の攻撃先に先回りし、「相手がセルを移動してから、次の移動指示を行うまでの十数秒間」に軽騎兵による攻撃を滑り込ませればいい。
相手の移動先をピンポイントで予想した上で、誤差の許されない難しい移動指示が要求されるが、相手が攻撃を諦めない限り何度でもチャンスがあり、諦めて帰還するようならそれはそれで「効果があった」ことになる。
ACCAのキャンプ撃破数が多いのは、魔導士隊がキャンプ破壊後も跡地に居座
る「完全勝利」が多いからだ。キャンプの防衛隊を完全に撃破し0にすると、攻撃後もそのセルにキャラクターが居座り、再び移動できるようになる。相手キャンプが密集しているコロニーでこれを続ければ、一回の出撃で何個もキャンプを破壊できる。
しかし、キャンプ攻撃の時には戦闘結果が出力されるため「ぐるぐるタイム」が僅かに長くなり、しかも着地地点や移動先の予想が簡単になるため、この間が攻撃隊にとっても最も危険な時間帯となる。ここを狙われると、結構な確率で「踏まれ」てしまうのだ。
程なく、王国には魔導士隊を「踏んで殺す」ことを専門に狙う「踏み屋」が現れ、僕らは日々の「スコア」を大きく減らすことになった。
それは、僕らの十八番であった移動速度増加スキルのノウハウが相手にも知れ渡ったことを意味していた。
*1 後にこのぐるぐるタイムをキャンセルする技法も開発されるのだが、それはまた別の機会に。
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