ゆるふわ系を目指して書いた小説(?)です。
カランコロン。
酒場の入り口にしつらえられたベルのかろやかさに反して、入って来た客たちはボロボロでした。
戦士のトルテ。
魔法使いのショコラ。
神官のプリン。
盗賊のクッキー。
四人の少女は、いままさに冒険に失敗してきたところでした。
トルテ「あたしらが受けた依頼はなんだった?」
ショコラ「確か、洞窟に住み着いたゴブリンの退治」
プリン「あんなにたくさんいるなんて思いませんでしたわ」
クッキー「たくさんって言うほどいたっけ?」
トルテ「そんなにいねぇよ! だいたい、あたしらは入り口の見張りに負けたんだろ!」
ショコラ「普通の冒険者パーティなら、楽に倒せる戦力だったわね」
プリン「まあ。なぜそんな相手に負けてしまったんでしょう?」
クッキー「次は勝てるように、反省会でもする?」
トルテ「よーし。それじゃあ、ひとつずつ見ていくぞ」
四人は丸テーブルに座って、口々にスイーツを注文しました。
冒険の後には甘いものが一番なのだとか。
円卓の騎士ならぬ円卓の菓子と共に、反省会が始まります。
トルテ「普通はな、ああいう、数が多い敵は魔法使いが魔法でなんとかするもんだろ!?」
クッキー「そうだよ。火球の呪文とかでさ」
ショコラ「使ったじゃない、眠りの雲の呪文で眠らせたわよ」
トルテ「ぜんぜん寝てなかったぞ!」
ショコラ「トルテが大声あげて突っ込んで行くから、びっくりして起きたんじゃない?」
トルテ「それで起きるんだったら、魔法の威力が弱かったんだろ!」
クッキー「もう一回かければよかったんじゃない?」
プリン「ショコラさんは、魔法を使うための精神力においては並ぶものがいないと学院でも評判なのですわ」
ショコラ「悪い方にね」
クッキー「それって魔法を一回使ったら精神力がなくなるってこと!?」
トルテ「一回しか使えねえのかよ……」
ショコラはいわゆるMP切れを起こしていたようです。
ショコラ「それを言うなら、クッキーがうまく偵察してくれればよかったのよ」
プリン「そういえば、最初はクッキーさんが敵の配置を見に行ってたのでしたわね」
ショコラ「そうしたらいきなりネズミを蹴っ飛ばした時みたいな叫び声を上げて……」
クッキー「蹴ったことあるの?」
ショコラ「それはどうでもいいの」
トルテ「そうだ。声が聞こえたから、あたしは慌てて飛び出してったんだぞ」
ショコラ「それで、二人がいきなり戦いはじめたから、慌てて呪文を使ったのよ」
プリン「偵察しに行って、見つかってしまったのですか?」
クッキー「見つかったっていうか……」
ショコラ「いうか?」
クッキー「草の間から顔出したら、目の前にゴブリンがいたんだよね」
トルテ「気配を感じなかったのか? だいたいあんたは、盗賊なのに鈍いんだよ」
クッキー「ゴブリンの気配なんて感じたくないじゃん!」
ショコラ「感じるのが盗賊の仕事でしょ」
クッキーは盗賊なのに、とても勘が鈍いようです。
クッキー「仕事っていえば、プリンも! 回復が全然効かなかったじゃん!」
プリン「まあ。皆さんがケガをしなければ、癒す必要はありませんわ」
クッキー「冒険しててケガするなっての!?」
トルテ「そういや、プリンに回復してもらって、ケガが治ったことって一度もないぞ」
ショコラ「使ったフリしてんの?」
プリン「失礼な! いいですか皆さん、同じ祈祷でも、人によって効果が違ったりするのはよくあることですわ。切り傷に効く場合ややけどに効果が高い場合など……特別な適性がある者がごくまれにいるのです」
クッキー「プリンの祈祷はケガを治す効果が薄いってこと?」
プリン「私の場合は、ケガを治すよりも、肌の保湿、美白、毛穴の引き締めなどなど……」
ショコラ「これは……」
トルテ「ありがたい……」
クッキー「そういうありがたさは求めてないよ!」
残念ながら、プリンはケガを癒すのが苦手なようです。
プリン「回復魔法の前に、皆を守るのが戦士の仕事ではありませんこと?」
トルテ「あたしが怠けてたっていうのか?」
クッキー「怠けてたっていうか……」
ショコラ「一番最初にノックダウンされてたね」
トルテ「あのゴブリン、なかなかの使い手だったよ……」
ショコラ「下っ端に見えましたけど」
クッキー「前から思ってたんだけど、トルテってさ……」
トルテ「なんだよ」
クッキー「防御力低くない?」
ショコラ「なんであんな水着みたいな鎧着てんの?」
トルテ「これは伝統的な正装だ! 誰がなんと言おうと脱ぐ気はないね」
ショコラ「それでゴブリンにやられてちゃ世話ないわよ」
プリン「脱げじゃなくて、着ろと言ってるんですよ」
トルテこだわりの鎧は、防御力に難があるようです。
四人の間に、気まずい沈黙がおりました。
トルテ「そもそも、見張りを立てているゴブリンが悪いんだよ」
ショコラ「そうよ、じゃなきゃ戦う必要なんてなかったもの」
クッキー「こんな荒っぽい仕事、ボクらには似合わないと思うんだよね」
プリン「そうですわ! 私たちが悪いわけではありません」
トルテ「というわけで、反省会終わり! 食べるぞ!」
四人の反省会は、まったく反省しないまま終わってしまったようです。
彼女たちの冒険と日常は、いつもこの調子なのでした。