【小説】焼きそばパン競作 嘘つきの焼きそばパン

※#もの書きの企画、焼きそばパン競作のために書いた掌編です。

 

 焼きそばパンは嘘つきだ。

 購買には多種多様なパンが並んでいるが、その中でも花形といえば焼きそばパンだ。

 俺の後ろから手を伸ばす生徒たちは、こぞって焼きそばパンを買っていく。俺はといえば、その列の最前線にいながら、急に湧いて出た疑問に心を囚われていた。

「……焼きそばパンは嘘つきだ」

 焼きそばパンは焼きそばとパンによって構成されている。

 しかし、焼きそばは『そばを焼いたもの』ではない。『そば』といえば、そばの実から作られているものだ。焼きそばは小麦粉を練ったものであって、そばの実は使われていない。

 そして、まるで最初から焼きそばパンとして生を受けたかのように鎮座しているこれは、実際にはコッペパンに焼きそばを挟んだものだ。あのぱさぱさして味気ないコッペパンである。それが、焼きそばの水分とソース味を得て、いつの間にか購買の王を気取っているのだ。

「こんな嘘で作ったような食べ物で、腹がふくれるんだろうか?」

 他の生徒の邪魔になっているのは分かっているのだが、俺は呟くのを止められない。食べ終わってふと気づくと、腹の中から消えてるんじゃないだろうか?

 考えているうちに、先ほどまで山と積まれていた焼きそばパンは、いつの間にか残りひとつになっていた。

 これが最後のひとつだと思うと、急に食べたくなった。俺は降って湧いたような欲求に逆らえない性質で、その性質に従って最後の焼きそばパンを購入していた。

「ああっ、売り切れた!?」

 次の瞬間、きーんとするような大声がすぐ後ろから聞こえてきた。

「先輩のばかばか! 私が焼きそばパンのために、毎日走ってきてるのを知ってるくせに!」

 視線を少し下に落とすと、そこには後輩女子。体を大きく見せようと猫が毛を逆立てるみたいに、胸を張っている。つまり、少なからず怒っているらしい。

「こっちの教室のほうが近いんだから、先に買えるのは当然だろ」

 彼女の鼻先にぴっちりとパックされた焼きそばパンを吊して見せ付けてやる。悔しがるところを見物するのも一興と思ったのだ。だが、彼女の反応は予想を大きく裏切るものだった。

「もしかして先輩! 私のために先に来て買ってくれたんですか!?」

 先ほどに負けず劣らず大きな声。怒っていても嬉しくても叫ぶ性質らしい。

「……うっ」

 きらきら光る瞳に見つめられて、俺は返答に窮した。『最後のひとつになったのを見たら、なんとなく食べたくなった』なんて彼女に告げるのは、あまりにも残酷じゃないだろうか?

「……そ、そうだよ」

「やったあ! 先輩、ありがとうございます!」

 かくして俺の焼きそばパンは、腹に入る前に消え去ってしまったのであった。

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