お題:女の子が男の子にマフラーを手渡す

ツイッターで盛り上がったときに書いたもの。

私は自転車通学。
寒くなってくる季節は大変だ。この辺りはあんまり雪は振らないけど、さすがに自転車に乗っていると風が冷たい。
身体は着こめばなんとかなるんだけど、問題は首から上。学校が指定してるヘルメットはハーフだから、びゅーびゅー風が当たる。寒い。
寒いといえば、毎日見かける男の子がいる。学校まであと信号三つというところでいつも会う子。
そうそう、この信号、わざと? っていうぐらいタイミングが悪いんだよね。全部青で通り抜けられるのは一年に一度あるかないか。毎日どこかが赤になる。酷い時には三つ全部赤になって止められてしまう。
えっと、なんだっけ?
そうそう、男の子の話。彼も同じ自転車通学なんだけど、たいてい私が一つ目かニつ目の信号で足止めされてる時に横に止まってくる。
毎日会うから、そのうち挨拶したり、「また赤だ」なんて愚痴を言い合ったりしてる。そんな関係。
その彼、マフラーつけてないんだよね。
首にひっかけるタイプの耳あてをしてるんだけど、制服の前はしっかり閉じてないし、首元ががら空きで、見てるこっちが寒くなりそう。
一度、「寒くないの?」って聞いてみたんだけど、「気にしたことなかった」とか言うし。よくわかんないよね。
三学期が始まっても相変わらずマフラーつけてないし、もう見てるこっちが寒いから、安いのを買ってあげるようにした。まあ、お年玉も余ってるし、そんなに高いものでもないし。
今日は、一つ目の信号で足止めを食らった。二つ目三つ目は一つ目が青になった後のタイミングだけど、一つ目に引っかかるのは完全に運なのでちょっと落ち込んでしまう。
いやいや、落ち込んでいる場合ではない。
きゅっとブレーキ音がして、私の少し後ろに彼の自転車が止まった。
斜め後ろの彼に、いつものように話しかける。
「おはよう」
「おはよ」
なんとなく顔が見づらい。私は、さっそく自転車の前籠の中に置いてある、買い物袋の中に入ったままのマフラーに手を伸ばした。
寒いからこれつけて、とでも言って渡せば終わるはずだった。
その時である。
「これ、着けてほしいんだけど……」と、彼が言った。
彼が私に向かってつきだした手には、耳あてが握られていた。あんまり高くなさそうな、首にかけるタイプ。
そういえば私は、耳あてをつけていない。毎日耳に冷たい風を浴びていたはずだけど、なぜか「彼は寒そうだなあ」とばかり思っていて、自分のことは気にならなかったのだ。
「え……」
絶句した私は、有り体に言って焦った。このままでは信号が青になってしまう!
とにかく身体をひねって耳あてを受け取ると、こっちは彼の前カゴにマフラー入りの買い物袋を放り込んだ。
信号が青になった。
「なにこれ」ペダルをこぎ出す私の耳に、彼の声が聞こえてきた。
「着けて!」振り返れない。なんだか無性に耳が熱くなっている。
こういう時に限って、二つ目も三つ目も青信号。
タッチの差で、彼は三つ目が赤になるのに引っかかってしまったみたいで、その日はそれきり。
こうして早朝の奇妙なプレゼント交換は幕を閉じたのだった。
あー、もう、明日、彼がマフラー着けてきたら、なんて言おう?

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