「被攻撃だと!? どこからだ!?」
「シュバルツバルトより4部隊、18分50秒後、20分後にそれぞれ1部隊、1時間後に2部隊です……本国からの通達(*1)を受領していて接近に気づきませんでした」
2011年12月30日午前9時38分、急報がアルナベルツ領キャンプ「The Abyss」に届けられた。わずか18分30秒後から敵国の攻撃が開始されるというのだ。この異世界に宣戦布告などという優雅な儀礼はない。後にアルナベルツ軍に「朝駆けのシュバルツバルト」として恐れられることになる、見事な奇襲戦法であった。
「……総攻撃、か。全力だな」
「まだ敵の規模も分かりませんが……?」
「全力だよ。間違いない。動けるものはすべて動員したに違いない。我々が彼らの立場ならば必ずそうする。援軍要請を」
「司令官名で既に出しました」
ただちに教国軍すべてに援軍を要請、各地から名乗りが上がるも、ほとんどは攻撃に間に合わない。それでも、援軍要請は出すしかない。攻撃が4回だけとは限らないのだ。
「ならば何も問題はない。我々も全力をもって共和国軍をお迎えしよう」
「ご命令を、閣下」
「総員戦闘配置。指揮官として恥ずべき命令だが……死守だ。共に枕を並べて討ち死にといこうじゃないか」
「……もしかして、楽しんでいらっしゃいますか、閣下」
「教皇聖下(*2)の忠実なるしもべとしてこれほどの名誉があるものか」
「……そういうことにしておきましょう」
異世界中央にある謎の遺跡に隣接するこのキャンプは、アルナベルツ教国軍にとって最重要拠点のひとつである。それを任されている以上、撤退などあり得ない。だが、我々が不退転の決意をもって臨んでいることは共和国軍も百も承知のはず。
「攻撃隊、さらに増加しました。第一波より先着します」
「強行偵察のおまけ付きとはご苦労なことだ。殲滅せよ」
突如として、新たな部隊が攻撃に加わる。到着まで5分。どんな準備も援軍も間に合わないが、幸いにして守備隊の半数以下。問題なく撃退する。死体は情報を持ち帰らない。
この地にアルナベルツ教国の旗が翻った日から、この攻撃のあることを予想し、備えてきたのだ。……だが、しかし。
「第一波、来ます! 続いて第二波!」
「ほらみろ、完全充足(*3)の二個連隊(*4)だ」
その日、キャンプ「The Abyss」を襲ったのは、延べ1万人を超える、共和国軍の総攻撃であった。
*1 毎朝4時に更新されるクエストのこと。
*2 教皇など高位の聖職者に対する敬称。紳士の国アルナベルツ教国では慣例として「教皇たん」も用いられる。
*3 欠員がなく、補給や装備が整っていること。
*4 軍隊で言う編成単位のひとつ。大隊より上で通常3千人前後で構成される。
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