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無題 Type1 第6章 第2稿

2013.06/23 by こいちゃん

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第6章

1
 農業生活を始めて約半年。葉村に指示されるままに地面を耕し、夏植えでも実のなる野菜の初収穫を終えた頃。いくつか気付いたことがあった。
 この道は廃坑へ続く道だが、それなりに往来があること。
 僕らが通ってきた道を、軍用の大型トラックが週に1回くらい通過すること。
 それ以外にも結構乗用車が通ること。
 普通の地形図には60年くらい前に廃坑になった鉱山くらいしか載っていないのにもかかわらず、結構な頻度でこの道を行き来する人たちがいる。おかしいと思ってあちこちのサーバーに侵入して調べてみたら案の定、廃坑のあたりに産業情報庁の秘匿研究所があるらしい。
 葉村には言わなかった。必要ない心配をかけたくないからだ。
 葉村が寝ている隙に、僕はあいつと2人で今後を相談した。

 ――場所、移ったほうがいいと思うか?
 ――その必要はないと思うぜ。というより、ここよりいい場所が多いとは思えねぇ。
 ――そうか。
 ――ただ、見つかる確率が変わるわけじゃない。灯台下暗しになるかもしれねぇが、距離が近い分このあたりの監視もきついだろう。
 ――一理あるな。
 ――どうにかして、戦闘の備えくらいはしておいたほうがいい。
 ――……下の道を通るトラックを襲うか。
 ――もっと穏便な方法はねぇのかよ。
 ――今さら下の街に下りることはできないし、持ってきた道具は必要最低限しかないからな。
 ――今さら葉村を危険なことに巻き込むつもりかよ。あいつは家族に黙って俺らについてきたんだ、世間では俺と一緒に雲隠れだぞ。俺らには、葉村を無事にうちへ返す義務があるんだぜ。
 ――ガタガタうるさいな。……でも、葉村を更なる危険に巻き込むのは上策ではないな。
 ――その通りだ。藪蛇になったら元も子もねぇしな。
 ――葉村が気付かないように注意しつつ、偵察する程度にとどめておくってことで。

 声が少し、口から漏れていたかもしれないが、葉村を起こさずに済んだからいいとするか。

 半年ほどかけて彼らを観察した。週に往復2回行き来するトラックを、毎回場所を変えつつ相手のことを探っていた。すると予想通り、相手はやはり「お役所」の、毎月決まったスケジュールを持っていることが分かった。
 常駐している職員のための食料は毎回積み込まれ、このほかに週によって違うものが一緒に運ばれるようだった。運び込まれる荷物量から予想すると人数規模はおそらく30~40人といったところだろう。
 職員向けの嗜好品や日用品、研究用の消耗品などが第1週目。
 研究に使うのだろう、液体窒素や様々な薬品類が第2週目。
 武器弾薬の補充が第3週目。
 中で自家発電をしているのだろう、その燃料と思しきガソリンが第4週目。
 月曜日にトラックが出発して、荷物を積んで水曜日に帰ってくる。これを毎月毎月ローテーションしていた。
 もちろん、観察だけではない。
 連夜、僕は関係しそうなあちこちのサーバーを渡り歩いて、あのトラックの仕入れ先、次回の積載物は何か、そういった情報を手に入れては、積み荷を観察した。
 一度、送信中の注文リストを発見した。それは日用品の週だったのだが、試しにトイレットペーパーの注文を取り消してみた。取り消してから思い出す。実際に職員が困ったか確認する方法がない。

 そんなくだらないことを繰りかえし、さらに季節が過ぎ去って迎えた2度目の春。
 秋に残しておいた種を畑にまき終え、のんびりしていた頃。
 農作業と2人の山中生活に慣れてきた頃。
 僕らと葉村はともに、18歳になっていた。

 僕らの生活は、再びひっくり返される。

2
 収穫した野菜を料理して朝ごはん。雰囲気は老夫婦の日常、だ。
「今日は何をするんだ? ――この漬物美味いな」
「農作業は今日はお休みかな、水やって育ってるか見るくらいでいいと思う。――くねくねになったきゅうりでも漬けちゃえば同じよ」
「そうか、なら今日は車の整備の日にするか。――漬物のセンスあるな」
 もぐもぐ
「いいんじゃない? 最近やってなかったから。機械油残ってたっけ? ――そして女子高生に対して漬物のセンスを問うとはどういう心づもりだ」
「ああ、まだ残ってる。――単純に料理の腕前を褒めただけだったんだが」
「そっか。――そっか」

 防寒着を着込んでもこもこになった僕らはちょっと離れた畑へ向かう。
 ホウレンソウはそろそろ収穫してもよさそうだ。青い葉がいい感じに育っていた。
「大根もおいしそうだよ」
 水をまきつつ、虫がついていないかチェックする。
「やっぱり、ジャガイモ収穫しちゃおうか」
「そうか。袋とってくる」
「よろしく~」

 勝手口から家の中に入り、土間に置いてあるバケツからレジ袋を2つ3つ取る。引き返して外に出ようとした時。
 奥から物音が聞こえた気がした。
「……」
 半分扉を開けたまま、動きを止める。台所に続くふすまを見つめる。
 しばらくそうしていたが、畑で葉村が待っていることを考え外へ出た。
 きっと気のせいだろう。こんな山奥の田舎の農家に、泥棒を働こうなんて人間はいない。

 早足で畑に向かったが、そこに葉村はいなかった。葉村がさっきまで持っていた小さなシャベルだけがその場に残されている。
「……葉村?」
 呼びかけて待ってみるが声は返ってこない。
 道具を取りに行ったのかと倉庫へ行ってみる。
 ……しかしそこに行った形跡はない。
「葉村!」
 何かがおかしい。
 敷地内をあちこち探しまわっても見つけられない。山に入ったのかと靴箱を見ても、登山靴はきちんとしまわれている。車にエンジンがかけられた様子もない。
 おかしい。葉村がいないことも、……自分の中に生まれた|何か《・・》も。
 得体のしれない、把握できないことが起こっている。
 家の前、車の展開ができるように広くなっている庭の中央で、僕は困惑していた。
 葉村がいないで僕はこれからどうすればいい――?

 と、ここまで分析を進めて違和感に気が付いた。
 僕は、何故こんな必死になって葉村を探しているのか。

 知らず、息が詰まる。思考が空回りする。これは、なんだ。
 懐かしいような、恐ろしいようなこのモノは。

 そんな僕らしくもなく状況を忘れてつまらない思考を続けていたのがまずかった。背にした玄関が軽い音を立てて開いた。1拍おいて振り返って、ごめんごめんちょっとおはなつんでたの、といつものように軽く弁解をする葉村を探し、しかし玄関には誰もいない。
 ただ開いただけに見えた。
 陰に隠れているのかと近づいた。実に不用意に。
 敷居をまたぐ最後の1歩を進もうと足をあげたタイミングで、建物内の暗がりから男が現れた。
「……!?」
 闇に溶け込むような濃灰緑色の作業服を上下に着込み、20リットルくらいのザックを背負ってさらにウエストポーチを装着したヘルメットの男。暗くて顔がよく見えない。
「お前は誰だ。誰に断わってうちに入り込んだんだ」
 僕が誰何しても落ち着き払っている。
 葉村は、彼女はあいつにやられたのか。確認しようとした時、陰に隠れたままの相手は右手に持った銃を僕に向けた。
 逃げようと動き始める前に引き金を引かれる。ガスが抜けるような音。
 ぎりぎり見えるが逃げられるほど遅くはない弾が右頬にあたる。反射的に手を当てると、手が赤く染まった。怪我はない。
「ペイント弾?」
 知り合いによる単なるドッキリだったのか? 葉村も共謀している……?
 怪訝な顔を相手に向け、――突然膝から力が抜けた。
「――!?」
 敷居に腰をぶつけたが、その痛みはすぐに退いていく。
 ようやく理解が追いついた。どうやらペイント弾の中身は揮発性の麻酔薬だったらしい。
 地面に倒れた僕へ、無造作に相手が近づいてきた。朦朧としつつ、必死に顔を覚える。次に目が覚めてから誰だったか思い出すために。

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