<無題> Type1 断章原稿リスト
第4章原稿リストに戻る 第5章原稿リストへ進む
<無題>トップへ戻る
断章
この時点で、私が知らなかったことがある。それは「なぜ彼は徴兵逃れに躍起になっているのか」である。
後に聞いたところによると、彼は「政府内に僕を邪魔だと思っている人間が少なくない」、「戦地に配属されたら、確実に死にやすい部署に回されるから」だと答えた。
万事慎重な彼は、捕まった時のリスクの大きい逃走計画の決行前に様々な可能性を考え、裏付けを取っていたという。
彼は言った。
国民の一人を特別扱いして危険な隊に配属するためには一人の権限ではできないはずだ。という事は、既に根回しがされているとみていいだろう、と。
事実、彼が政府内あちこちのメールサーバーに残されたメッセージを盗み読んだところ、それらしきメールが多数残されていたらしい。
そう、あの時だって、彼は私を逃がすためだけに、自分自身の状態を無視して計画を立て、最後の部分、大事な所を私に告げぬまま実行したのだ。
彼の逃走計画は成功したのだろう。が、結果みんなが幸せになったかというと答えは否だ。少なくても、私は傷ついたし、後悔した。
彼は普通の思考回路なんて、私と出会った時には既に持ち合わせていなかった。それを失念していたのは、他でもない私だ。
<無題> Type1 断章原稿リスト
第4章原稿リストに戻る 第5章原稿リストへ進む
<無題>トップへ戻る